転生ドワーフ娘になったけど私頑張ります!
「どぉりゃぁぁぁぁ!」
気合の声とともに振り下ろされたハンマーに頭部を潰されて倒れる最後のゴブリン。
「ふー、とりあえずこれで終わりかな」
「だね。他が来る前に討伐品の回収しちゃおっか」
「はーい」
周りを見渡せば所々陥没しているゴブリンや、縦や横に真っ二つになっているゴブリンが複数体転がっている。
私はハンマーを背負い、腰に装備していた短剣で討伐の証になるゴブリンの右耳を切っていく。
次々と耳を切りながら「慣れって恐ろしいなぁ」としみじみ思う。
冒険者になって2年がたった。
私――C級冒険者ルナ 16歳 ドワーフ族。
髪を解けば腰まである銀髪を耳より少し上で左右に分けて結んでいる。俗に言うツインテールです。
ややタレ目の黒目に、見事なまでの寸胴体型で136cmという低身長。
ドワーフからしたら基本的な体型なんだけど、私は自分のコノ体型が嫌いです。
昔、周りの子よりずんむりむっくりしているなって思い。
食事制限をし、腰にくびれを!
っと頑張って運動をしていたけど効果が全然見られなくて、行商に来ていた薬師のおばちゃんにサプリメント的な痩せ薬がないか相談した時、
「そういう薬はないこともないけど……、骨格的に厳しいと思うよ」
「骨格?」
「そう、骨格。お嬢ちゃんドワーフでしょ?」
「え? ……えええええええ!?」
大きめの声を出して周りに注目されて恥ずかしい思いをしたけど、自分がドワーフだったという新事実もさることながら、種族的に無駄だと知った時のショックといったら……。
おばちゃんの説明によれば、人族より太めの骨に背骨の数も少ないみたいで、くびれができる間がないからっとのこと。
その日、数ヶ月の努力が無駄だと知ってやけ食いしたのはしょうがないことだと思います。
やけ食いの結果しっかり横に膨らんだのはしょうがないことだと……思います。
今度は痩せる為の食事制限や運動のおかげで元には戻ったのは一安心だったけど、食べ過ぎればしっかりと太るので注意が必要です。
ヤケグイ ダメ ゼッタイ。
なぜ自分がドワーフだったのを知らなかったというと、私は育った環境がちょっと特殊なんですよね。
森で倒れていた所を冒険者夫婦に保護されるが、名前以外何も知らない記憶喪失だった。
っという設定です。
設定っというのは、何を隠そう私は転生者なのです。
前世の私、月野月は普通のOLでした。
短髪黒髪に、特徴もない平凡な体型。
数年恋人もいなく、週末に録画しておいたアニメなどを見ながら晩酌して、寝落ちするのが楽しみという。
女としていろいろ終わっている生活を送っていました。
その日もいい感じに酔いが回りベットにダイブ。
アニメの続きを見ながら寝落ちして、十分睡眠もとったしそろそろ起きるかなっと目を開けたら、心配そうにこちらを見つめている2つの顔のアップに驚いて飛び起きたんだよね。
「……ん。うひゃ!? え、誰? あれ、私の部屋じゃない……ここ何処? って、めっちゃ美人さん!?」
「うふふ、あらあら~、美人さんだなんてありがとう~」
「大丈夫? 落ち着いて。ここは俺の家、君は森で倒れていたんだけど覚えてる?」
心配そうな顔だったのに、後ろに花が舞っている幻影が見えそうなほど嬉しそうに微笑んでいる美人さん。
ゆるふわカールの白に近い金髪に、溢れんばかりな巨乳が眩しい。
その美人さんの隣りにいる、耳が隠れるくらいの長さの金髪を左右に分け超イケメンさんが言った「森で倒れていた」と言う発言に首を傾げる。
部屋にいたはずだし、都心から離れていたけど家のまわりには森などなかったから、森っという言葉が不思議でしょうがなかった。
こめかみを抑えウンウン唸っていると、気分が悪そうに見えたのか、
「今はゆっくりおやすみ」
金髪イケメンは優しそうに微笑み、美人さんを連れて部屋を出ていった。
混乱しているままでは寝れるはずもなく、何でもいいから情報が欲しくて部屋を見渡す。
木造の壁に掛かっているランプの仄明かりが部屋全体を優しくつつんでいた。
こういう淡い感じの雰囲気は嫌いではないけど、ちょっと暗いと思いベットの横のカーテンを開けて私は固まってしまった。
すでに夜だったみたいで窓の外は真っ暗でした。
その為か窓が鏡の様になっていて、薄っすらと映っている人影。
そこには腰までありそうな長い髪を後ろに流し、こちらを見つめている4歳くらいの幼女の姿が映っていた。
「ひっ、幽霊!?」
驚きで手を挙げると、幼女も手を挙げる。
自分の頬をつねると、幼女も頬をつねる。
あっ、やわらかい。
短髪黒髪だったはずの自分の髪を触ると、長く銀髪だった。
「……なに……これ」
映っていた幼女が自分の姿だと気付きパニックになりかけたけど、キュピーンと閃きが!
これ最近よく見るアニメや小説であった転生ってヤツじゃん。
そう思ってからは好きなことがアニメ鑑賞だったくらいオタクだったので、普通ならありえないこと
なのにすんなり受け入れ、アレやコレやと考えたんだよね。
世界観がわからないけど、貴族以外は名字がないという話はよく見たからとりあえずは名前は「ルナ」だけに。
「私は転生者です」って言い出したら頭のおかしい子に思われてしまうかもしれないから、名前のこと以外は記憶がないことに。
さっき喋れていたから言葉は大丈夫そうだけど、見た目は幼女だし1人で生活なんて無理だよね。
文明とかどうなっているんだろう?内政チートでお金稼ぎとかできるのかな。
……農業とかよくわからないし、調味料も完成品頼りだったし、料理は出来なくはないけどコンビニ弁当ばかり、武器の構造なんて知りませんし、火薬なんてもってのほかです。
うん、内政チートは無理。
そうするとあるかわからないけど孤児院とかで生活するようになるのかな。
あれ?この子の両親とかどうなってるんだろうっと思っていると。
カチャっと扉が開いた音に振り向けば、顔だけだしてこちらを見つめている幼子がいた。
「きみだーれ?」
「えーっと、ルナっていいます。君は?」
「ぼくは、あれる。4さい! あっ、4さい!!」
ぱっと身を出し指を3本立てて答えた後、指の数が違っていたことに気が付き4本の指を立てて再度言い直していた。
やだ、かわいい。
「るなちゃんはなんさい?」
「ごめんね。わからないんだ」
「ふーん、そっかー。ぼくいまひまなんだ。あそぼ!」
私の年齢は興味が無いのかニカッて笑うと私が返事する間もなくベットに駆け上り、両親と遊んだことや、日頃のことなどをマシンガントーク。
あまりの勢いに「すごいねー」「へー」などとしか答えれなかったけど、すっごい楽しそうに喋っていた。
話を聞いてわかったことは、金髪イケメンはリュカさん、アレル君のお父さんで両手剣を扱う剣士。
美人さんはフローラさん、治癒系を得意とする魔法使いでアレル君のお母さん。
2人は冒険者で旅をしながら世界を周っていたけど、アレル君を身籠ってからこの街を拠点に生活を落ち着けたらしい。
アレル君の夢はリュカさんみたいな両手剣を扱う冒険者みたいで、ベットの上で「えい!やあ!」っと剣を振るマネをしていた光景は微笑ましかった。
魔法があるという情報にひそかに私のテンションも上がっていました。
アレン君はあれやこれやと喋っていたけど、はしゃぎすぎたのか急に船をこぎだしコテンと倒れ電池が切れたように寝てしまった。
子供特有の柔らかそうな髪質の金髪に、両親の良いとこ取りした整った顔立ち、すっごい気持ちが良さそうな寝顔を見ていたら私も眠くなり一緒に寝てしまいました。
目が覚めたら……そこは知らない天井だった。
すみません。言ってみたかっただけなので気にしないでください。
私の起床後アレル君も目を覚ましぼんやりとしていたけど「キュルルル」っと盛大にお腹が鳴ったのでフローラさんを呼びに行ってくれました。
恥ずかしくて顔を真っ赤にしているとアレル君だけ戻ってきて、「いまからごはんだってー、いこ!」
っと手を差し出してきたので、自然に手を繋いで向かいました。
部屋を出て3つ先の部屋がダイニングだったみたいで、すでにテーブルには料理が並べられており、リュカさんとフローラさんは席についていました。
リュカさんが真っ赤な私の顔を見てから繋がれた手を見て、何を勘違いしたかすっごいニヤニヤしてました。
フローラさんはフローラさんで「あらあら~。まぁまぁ~」っと嬉しそうに微笑んでいる。
そんな視線で更に真っ赤になってしまった私と、両親の笑顔に不思議がっていたアレル君に「すわろ」っと促されて着席。
テーブルには、黒パンに、見たこともない赤や黄色の野菜が入っている白っぽいスープ。
少しトロミがあってシチューっぽいなぁって思って一口食べたらビックリ。
味はシチューに似ていたけど美味しさが段違いでした。
空腹だったこともあり、あっという間に完食してしまいました。
食後、今更ながらに自己紹介をしあう。
そこで私が名前以外記憶が無いことを伝え、この子の両親的な人がいなかったか確認の為に倒れていた時の状況を聞いたけど、私だけが倒れていて争ったような形跡もなかったそうです。
これはやっぱり孤児院コースかなっと思い、孤児院の話をしだしたらリュカさんとフローラさんは悲しそうな顔をしていました。
孤児院は馬車で半日ほど離れている隣街にあるらしく、今の身体で歩いて行くのも無理だろうし、連れてってもらえないか頼んでいたら、
「だめ!」
今まで黙っていたアレル君が涙目になりながら叫びリュカさんを見つめていました。
突然の叫びでビックリ顔だったリュカさんだったけど、優しい顔になりながらアレル君の頭を撫で。
「大丈夫だよ」っと、私にとって願ってもない提案をしてくれた。
「隣街まで連れて行くことはできるけど、孤児院に行くくらいならルナちゃん良かったらこのままここで暮らさない?」
「え!? いいんですか? ご迷惑じゃ……、それに私素性もわからないし……」
「それは大丈夫だよ。それにアレルも一緒にいたいみたいだしな」
「うん! いっしょがいい!」
「な? どうする?」
「ありがとうございます。よろしくお願いします!」
「やったー!」
さっきまで涙目だったのに満面の笑みでアレル君が抱きついてきました。
私はビックリしていたけど、リュカさんもフローラさんも微笑んでいて暖かい空気がそこにはあった。
こうして私はリュカ家にご厄介になることになりました。
後でわかったことだけど、この世界の孤児院は十分な援助がされていないせいで死亡率が高く、卒業後もまともな職につくのが難しく、女性だと大人のお店コースが定番らしい。
「孤児院に行きます」イコール「死にに行きます」と同意義なので、幼子が「死にに行きます」と言い出せば悲しい顔にもなりますよね。
それに子供を保護した時点で育てる意思がない人は保護したら駄目なんだそうです。
保護して孤児院に連れっても死が待ってるなら保護して希望をもたせるのが残酷なことらしい。
よほどの問題児なら孤児院に連れてかれるみたいですが……。
それからは積極的に家のお手伝いしながら、アレル君の剣の稽古を眺めたり、フローラさんに文字や魔法を教わったりしていました。
文字はローマ字に似た感じだったのですぐに覚えることはできたので良かったです。
初めは転生者だし剣や魔法のチートが!っと意気込んでたけど、剣の才能は全く無いみたいで早々に諦め、魔力は歳相応にはあったので教わってはいるけど、治癒寄りの性質みたいで攻撃として使うのは難しそうとのこと。
戦闘系のチートもなさそうですね。
ま、まぁ、変に力があったら厄介事に巻き込まれるでしょうし、なくて逆によかったよね!……うん。
そうそう、この時の私の年齢は5歳でした。
教会にステータスを見れる魔道具があって測ってもらってわかったんだよね。
私は一人っ子だったので「お姉ちゃん」呼びに憧れもあり、アレル君に「お姉ちゃんと呼んでもいいですよ?」っと促してみたけど、「んー、るなちゃんは、るなちゃん」っと呼んでくれませんでした。
ちょっと残念です。
基本私は何をするにもアレル君とずっと一緒にいました。
何をするにもアレル君の方から「るなちゃんといっしょがいい!」と主張してたし、私も可愛い弟が出来た気分で構い倒してました。
それから数年、平凡だけど毎日楽しく過ごしていました。
毎日変わらない生活だったけど、1つだけ私の心境に変化が。
初めはアレル君のことは懐いてくれている可愛い弟的な気持ちで見ていたはずでした。
でも、精神は肉体に引っ張られるっていうは本当ですね。
アレル君……アレルのことを一人の同年代の異性として認識しだしていました。
気がつくと目で追っているし、他の女の子と喋っているのを見るとモヤモヤしてたし、私に向けてくれる笑顔を見るとドキドキしてました。
どう見ても好きになっていたけど、精神年齢が邪魔して「ショタコンじゃないんだから!」って自分の気持を否定してました。
まぁ、そんな葛藤の数日後、おつかい帰り野犬に襲われてる所を助けてくれたアレルの格好いい姿に完全に落ちたんだけどね。
私ちょろすぎです。
それからはアレルを見るたびに顔を赤くしていたので、フローラさんに私の気持ちはすぐにバレた。
フローラさんは私の気持ちに好意的で「男を落とすなら胃袋よ~」っと料理も教えてくれるようになりました。
話を聞けばフローラさんとリュカさんは幼馴染で、リュカさんは見た目通りかなりモテてたみたいだけど、早々に餌付けしてたみたいです。
見た目はポワポワしてるし、間延びした喋り方でおっとりしてると思ってたけど結構黒い?
無造作に後ろに流しているだけだった髪だけど、アレルによく見られたいって気持ちも芽生え、ツインテールをするようになったんだよね。
ポニーテールとか、お団子とかいろいろ試したけどツインテールの時「その髪型可愛いね。ボク好き」っと言う言葉が決め手でした。
思い起こせばこの世界でツインテールを見たことがなかったから、これがチート?
アレルに可愛いと言われたのは嬉しいけど私のチートしょぼくない?
体型も気にしだしてのドワーフ発覚で、フローラさんに「私ドワーフだったの、どうしよう!?」っと泣きついた時は、すっごいキョトン顔でした。
どうやら教会で調べてもらった時に種族もわかっていたみたいで、知らなかったのは私だけだったみたいです。
異種族である事に不安でいたけど、異種族結婚は普通にあるらしく一安心。
子供もしっかり授かる事ができると聞いた時は、アレルとの子供を想像して馬鹿みたいな間抜け面をし「こ、子供かぁ。……えへへ。もーやだー」っとフローラさんをバシバシ叩いてしまったのはおばさんくさかったし、色んな意味でイタかったですよねごめんなさい。
13歳になる頃には私の身長は止まってしまい、同年代の人族との子達の違いがはっきり出始めたこともあって、自分のこの身体がコンプレックスになってました。
周りの子はどんどん可愛く綺麗になっていくのに、幼児体型なちんちくりんな私。
そりゃコンプレックスにもなりますって。
出会い当初はアレルの方が私にべったりだったけど、今では私の方がアレルにべったりだと思います。
冒険者になったのも「一緒にいたい」って気持ちでなったもんだから、当時の私はいろいろひどかった。
本来冒険者は13歳からなれるけど、アレルに合わせる為に1年待って14歳で登録。
特に初めて生物と戦闘した時は、キャーキャー叫んでるだけで何も出来ませんでした。
討伐後の剥ぎ取りも血が怖くて死骸を前に立ち竦んでいたし……。
料理を習っていた時にお肉の処理などもしていたけど、生暖かい肉から血がドバって出るのがどうしても駄目でした。
半泣きだった私の頭を撫でながら「ルナはしょうがないなぁ」っと微笑みながら剥ぎ取りをやってもらったんだよね。
それから血に慣れるまでは挑戦するけど断念、からの頭を撫でられて代わりにやってもらう。
っという流れを毎回やっていた。
まぁ、最後の方は頭を撫でられたいが為に出来ない振りをしていたのは秘密だけど……。
そんな昔の失態などを思い出し恥ずかしさで顔を赤くしながらチラッと隣を見る。
C級冒険者リオン 15歳 人族。
さらさらの金髪に碧眼、どこぞの国の王子様ですって紹介されても違和感がないほど整った顔立ち。
最近どんどん身長が伸びているみたいで「もうすぐ180cmになるんだよ」って嬉しそうに語っていたっけ。
2m近くもある大剣を操り、なんでもスパスパ真っ二つにすることから『切断』の二つ名で呼ばれだしてる。
冒険者のランクはA~F級まであり。
F級――誰でもなれる見習い期間。
E級――ここで初めて冒険者と名乗れる。
D級――討伐依頼が出来るようになる。
C級――護衛依頼や指名依頼がくるようになる。
B級――5年以上在籍しギルドに貢献度を示しているとなれる。
A級――ドラゴンなどの災害級のモンスターを討伐した者達がなれる。
基本はA級までだけど、ランク外――通称S級や英雄と呼ばれるランクもあるにはあります。
複数で討伐するドラゴンなどの災害級モンスターを、1人で討伐できる規格外に与えられる『称号』のようなものになり、ランクの括りから外れた存在になるらしい。
リュカさんとフローラさんはA級冒険者でチームでドラゴンを討伐したことがあり、そのドラゴン討伐の話はアレルのお気に入りで、何度も話を強請り毎回キラキラした目で聞いてた姿は可愛かったです。
両親がA級冒険者なうえ、5年以上たってもC級にも上がれない人が多い中、2年でC級まで上がったアレルは期待のルーキーみたいでかなり注目されています。
リュカさんの英才教育に加え、アレルのやる気や才能もあったから本当にアレルは強いです。
私も同じC級になってるけど、完全にアレルのおこぼれを貰っているだけの腰巾着。
一部の人、特にアレル狙いのお嬢様方からは貶されています。
言われなくても私本人がわかってますよーっだ。
討伐品の耳も回収し終わり、私達が拠点にしている街の「ダイニノ」へ戻り、報告の為にギルドへ向かいました。
時間的に他の人も依頼が終わる頃なので受付嬢の前には数名の人が並んでいます。
あまり表情を出さないで淡々と処理をしている受付嬢タニア。
薄茶色の髪を左右に分け肩あたりで結んでいて、素朴だけど可愛らしく街の看板娘といった感じの子。
私達の番になりアレルを見た瞬間、満面の笑みになるタニア。
「アレル様! お疲れ様です!」
「お疲れ様です。これが討伐品です」
「はい、お預かりします。期待のルーキーでもあるアレル様が度々ゴブリン討伐をしていただいてギルドとしても本当に助かっています」
「いえ」
「報酬の為だけじゃなく、被害が出ないようにって心がけが素晴らしいです」
「……いえ」
「本当に凄いですよ。それに比べて……」
チラっと私を見るタニア。
コッチミンナ。
ゴブリンの繁殖能力は高く、ほっとくと凄まじいスピードで増えてしまうので定期的に駆除しなければならない。
ゴブリンといえば弱い雑魚モンスターなイメージはあるけど、まがりなりにもモンスターなので危険には危険でD級冒険者には厄介な相手。
C級冒険者には安すぎる報酬な為、ゴブリン討伐は敬遠されがちな依頼だったりします。
そんな中、アレルは積極的にこういった敬遠されがちな依頼を受けるのでよく称賛されるのだけど、ほぼ毎回言われるとうんざりするのかアレルの顔はずっと真顔です。
ねぇ、タニア。
貴女が褒めれば褒めるほどアレルの表情がなくなっていることに気がついて
私を咎めるような視線を向けるたびに好感度が下がってることに気がついて!
ほっとけばずっと褒めていそうなタニアは、アレルに「まだですか?」っと言われないと報酬を出してくれなくてめんどくさいです。
前に私が催促した時はすごい顔で睨まれ無駄にやり取りが長くなるだけだったので基本黙ってます。
「またよろしくお願いしますね! アレル様!」
いつもの一連の流れが終わったみたいで、すっごい笑顔で送り出している。
満面の笑みのタニアに、真顔のアレル、なんかシュールです。
「さ、宿に戻ろっか」っと私に真顔から一転して笑顔を向けてくるアレルに「アーレールくーん」っと腕に抱きついてくる痴女が。
真っ赤な髪を毛先でくるくると巻き、ツバが大きい黒のトンガリハットをかぶり黒のマントを羽織る、ザ・魔法使いっていう格好だけど、マントの下には黒のハイレグ水着の様な衣装に真ん中には大きな穴が開いていてお腹丸出しです。
そんな布切れで大丈夫か?って思わせるほどの爆乳が揺れている。
そんな胸をアレルの腕にグイグイ押し付けている。
「ちっ」
「あら、いたの?」
心の中で舌打ちしたつもりが、アレルに抱きつかれた事と爆乳に苛ついて口から漏れてしまった。
「えぇ。始めからいましたよ。痴女先輩」
「痴女って何よ。アタシはチージョよ。ごめんなさいね。この胸が邪魔して下にあるのは見えにくいのよねぇ」
アレルに抱きついたまま、私の一部分を見た後、見せつけるように片手で胸をたくし上げながらプルプルと揺さぶっている。
……シネ。
B級冒険者チージョ 20歳 人族。
見た目通り魔法使いでいろいろ魔法は使えるけど好んで火属性の魔法を使い、なんでも燃やしているせいで『放火魔』の2つ名で呼ばれている。
一部の人には布面積の少ない服を好んできているので名前をもじり『痴女』とも呼ばれている。
痴女だったり放火魔だったり犯罪チックな人です。
まぁ、痴女と呼んでるのは主に私ですが。
D級になった頃からお世話になっていて、アレルのことが気に入ったのかしょっちゅう絡んできます。
「すみません噛みましたチージョ先輩。ソレそんなに邪魔なら今度削ぎ落としましょうか? 後、早くアレルから離れてください!」
「削ぎ落とすって、相変わらずルナっちは怖いこと言うよね。はいはい、離れますよ」
おどけながら削ぎ落とされたらかなわんって感じで両手で胸を隠しながらやっと離れる。
アレルも「チージョさん離れてください」とは言っていたが、お世話にはなっている手前強くは言えずにいたらしく、やっと離れてくれたことに安堵していた。
「それで先輩何かあったんですか?」
「あー。ほら、アレルくん達今度北のダンジョンの調査討伐依頼受けたでしょ」
「はい、間引き的な依頼ですね」
「それアタシも参加することにしたから」
「え、チージョ先輩が?」
「予測より多くのモンスターの報告が上がっているでしょ? アレルくんなら大丈夫だとは思うけど、……一応ね」
「確かに多くなってますね……」
雑務的な依頼にB級のチージョ先輩が参加することに驚く私に、多くなっていることに訝しみながら考え込むアレル。
ダンジョンなどの魔素が濃い場所はモンスターが発生しやすく、放っておくとどんどん量産されダンジョンから溢れ出る、その溢れ出たモンスターが集団となって街などを襲ってしまうことがあります。
俗に言うスタンピードです。
それを起こさない為に定期的に間引かなければいけないのだけど、よほどのことがないとB級の人達は参加しない依頼です。
「わかりました。5日後の早朝北門前集合ということで大丈夫ですか?」
「O~K~。5日後北門集合ね」
「よろしくお願いします。後、気を使ってくれてありがとうございます」
「べ、別にアタシとアレルくんの仲じゃない。も、もう行くね。じゃーねー」
アレルがお礼と共に微笑むと、どもりながら顔を赤くして逃げるように去っていくチージョ先輩。
自分からは抱き付くクセにアレルから微笑まれると乙女な反応になるんだよね。
確かにあの微笑みは危険で大抵の女性はコロッと落ちます。
商店街のおばちゃんやお婆さん達は「後◯年若かったら」が口癖だし、転んで大泣きしていたはずの幼女が「大好き結婚して」っと泣き止むなんて日常茶飯事で、老若男女と恋敵が増え続けているので罪な笑顔です。
えぇ、稀に男性もコロッっといってる人もいるのです……。
「はぁ……」
「どうしたの?」
「あ、ううん。次の討伐大丈夫かなって」
「そうだね。何か起きてそうな気もするからいつもより注意した準備しようか。それに何があってもボクがルナを守るから安心して」
「……うん」
「貴方の笑顔で悩んでいます」とは言えるはずもないので咄嗟に誤魔化したけど、私を心配して頭を撫でてくれます。
頭を撫でられて嬉しい気持ちもあるけど、自分で言っておいて不安になってきました。
アレルはもちろんのこと、痴女だけど若くしてB級になっているチージョ先輩もかなり強いです。
何にも取り柄もない私がかなり足引っ張りそうだなって思いながら宿まで戻りました。
5日後。
いつもは私が回復魔法を使い基本回復薬などは使わないけど、今回は通常回復薬と上級回復薬を多めにいれたマジックバックを腰につけ、ハンマーと普段はあまり使っていない大盾を背負って防御よりの装備を、アレルは両手剣に棒手裏剣を腰のベルトにいくつも差し攻撃重視の装備をしています。
チージョ先輩は黒のトンガリハットに黒のマント、マントの下は白のビキニといつもの痴女ルックに、先端に赤く丸い宝石がついてる杖をもっている以外は手ぶらです。
彼女はストレージボックスの魔法が使えマジックバックすらいらない手軽さで移動ができます。
ファンタジーバンザイ!
ダンジョンは洞窟型や遺跡型などがあり、今回行く北のダンジョンは洞窟型です。
洞窟型は道中ヒカリゴケなどはあるものの基本薄暗くランプなどの光源アイテムが必須だけど、今回はチージョ先輩の魔法で快適移動ができます。
ダンジョンの特徴として地下に潜るほど魔素が濃くなりソレに比例してモンスターも強くなっていきます。
なので序盤は苦戦するようなモンスターは出ないのでサクサク進み、中盤に差し掛かってもいつもより戦力があるのでサックサクです。
戦闘もモンスターを察知したらチージョ先輩の遠距離魔法で半壊させアレルが突っ込み一刀両断で殲滅。
そこに私が颯爽と現れ剥ぎ取りをする。
……2人が強すぎる為に私の出番なんてありません。
何もないのはいい事なんだけど、慎重に準備してたのに拍子抜けだなぁっと、ほぼ戦いに参加しなかったせいで私の気は緩んでました。
細めの通路を抜けると渓谷になっており、対岸までの距離は20mくらい、谷の深さは薄暗いせいもあって底が見えないです。
いつも2人だけの調査討伐依頼だったらここで引き返しています。
今回はチージョ先輩もいて普段より進みも早く、時間的余裕もあったので、もう少し先まで調査しようって事になりました。
対岸へ渡る為のロープを用意しようとマジックバックから取り出していると、
「「「プギャァァ」」」
私達が来た通路の先から3匹の赤いイノシシ、ワイルドボアの上位種レッドボアが雄叫びを上げながら突っ込んできました。
奇襲的に現れた3匹だけど、
1匹はアレルが避けざまに一閃して頭胴体が切り離される。
もう1匹はこちらに来る前にチージョ先輩の中級火炎魔法で黒焦げに。
そして最後の1匹は2人を通り抜け完全に気の抜けていた私をドン!っと吹き飛ばしました。
谷底の方へ。
「え? っ、き、きやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「ルナっち!?」
「ルナーーーーーーーーーー!」
アレルが必死の形相でこちらに手を伸ばしているけど、すでに落下している私達には届くはずもなく……。
私達、そう私を吹き飛ばしたレッドボアも一緒に落下中です。
イノシシは急には止まれないというけど一緒に落ちるの!?
レッドボア自身も落ちるとは思っていなかったのか、目を見開いてかなり必死に足をバタつかせてます。
不意の落下でパニックになりかけたけど、レッドボアの必死な様を見ていたら妙に可笑しくて、冷静になり、思考が加速する。
このままじゃ確実にぺちゃんこ、考えろ私!
ぎゅっと手を強く握るとさっき取り出したロープがある事に気が付く。
体重差で先を行くレッドボアを見つめコレしかないと覚悟を決める。
ロープに輪を作り、その輪をレッドボアの身体に引っ掛け、背中へ手繰り寄る。
背中へ張り付いたことにより、今まで以上にジタバタして私を振り落とそうとするけど負けじとしがみつく。
地面が祈るように目をつぶる。
(アレルッ)
恐怖に負けないように最愛の人を思い浮かべ、ダン!っという音と共に強い衝撃を受け、私は意識を手放しました。
「イタタタッ。……い、生きてる?」
目を覚ました途端に体中痛いが走るし、かなり転がったのか擦り傷まみれだけど、骨折や欠損などの大怪我はなさそうでした。
「ヒール!」
回復魔法を唱え擦り傷がスーッと消えていく。
確認の為に腕を回してみるけど痛みもなくなっています。
「よく死ななかったなぁ……」
かなり転がったみたいで離れた場所に、辺りを真っ赤に染めいろいろなものを撒き散らして原形をとどめていない物体が目に入る。
自分がなっていてもおかしくなかった未来を想像してブルッと身震いしてから、身代わりにしてしまった物体――レッドボアの死骸に手を合わせる。
手を合わせてから気がついたけど、……落ちたのもコイツのせいだよね。
早々に合掌を止め、これからどうしようか考える。
生き死にはわからなくてもアレルなら絶対私を探しに来てくれるはずだし、無闇にこの場所を動かない方がいいよね。
死骸のせいでかなり血生臭いけど、どこか近くに身を潜めれる場所がないか見回していると、
「グルルルル」
物体の先の方から低い唸り声が聞こえてくる。
咄嗟に崖壁に張り付いて様子を見ていると、のっしのっしとゆっくり近づいてくる4mはありそうな黒い塊。
ブラックベアだ。
ただのベアでも私からしたら厄介なのに、色付きなんて絶望的です。
「私は壁、私は壁」っと気付かれないように祈っていると、
ブラックベアは死骸の前で止まり、数回匂いを嗅いだ後ゆっくりと咀嚼しだしました。
どうやら匂いを頼りに来たみたい。
やばいです。
このままだと匂いにつられてどんどんモンスターが集まってきそう。
悪手だと分かっていても離れざるおえないようです。
ここから離れることを決め「私は生存しています」っという目印になればと、右で縛っていたリボンをほどき、近くにある鍾乳石に蝶々結びをする。
「アレル気付いてね」っと祈りを込めて。
私はブラックベアに気付かれる前にその場を後にしました。
十分距離をとった所で、一旦髪をほどき左で一纏めにしてサイドテールにする。
私の戦闘力的に、この深さの層のモンスターと遭遇した時点でジ・エンドになるのでどうにかして上へ行ける手段を探さないといけないです。
渓谷の底なので左右は壁、後ろにはブラックベア、前にモンスターがいたらアウト。
かなり無理ゲーだと思っていたけど、モンスターと遭遇することなく程なくして横穴を発見。
横穴は10mくらい上に空いていて、チロチロと水が崖岩を伝い流れています。
水が流れているという事は傾斜になっているはずだと思い。
私はマジックバックからロープとプニプニとした黄色い丸い玉を取り出し、その玉にロープを結びつけ、横穴の天井部分に投げつけます。
玉が天井にぶつかるとバシュッと潰れ瞬時に固まる。
この黄色い玉は『凝固スライム』と言い。
どんなところにもくっつき強い衝撃を与えると固まるという冒険者にとってはかなり重宝している便利アイテムです。
しかも3個で銀貨1枚というお安さ!
ロープを何度か引っ張り取れないか確認してから崖壁を足場にしながら登り洞窟内を観察する。
横穴は結構大きく、人が4~5人歩いても余裕がありそうな広さです。
ヒカリゴケなどの光源はなく穴の先は暗く何も見えません。
マジックバックからランプを取り出し火を付け先を照らしてみると、予想通り緩やかな傾斜になっているので先へと進んでみます。
曲がりくねった道を進んでいると先の方がぼんやりと光っています。
この横穴の出口かなと思い早足で進んで目に入った光景で、私は固まってしまいました。
野球グラウンドほどの広さの空間に、いたるところにヒカリゴケが生えており視認出来るほどの明るさがあります。
対面の方に穴が見えるので先に進める通路があるのですが、そこへはいかせんとばかりに寝そべっている大きな生物がいます。
10m以上ありそうな肉付けのいいトカゲの様な身体に、ワニの様に尖った口、頭には2本の角が生えており、背中にはコウモリの様な翼がたたまれている。
……ドラゴンです。
夢かと思いほっぺを抓ろうと痛いですし、幻視かと思い2度見しようと、目をこすりまくろうとドラゴンが見えます。
イヤイヤイヤイヤ……、こんな層にいるはずのないモンスターだよね!?
モンスターの発見が多いのはコイツのせい?
深度とは別に魔素が強いモンスターがいると魔素が濃くなりやすいというから、このドラゴンが原因の可能性が高いです。
原因がわかったところでどうしようもないですが……。
幸いドラゴンは寝ている様なのでこちらには気づかれていないです。
選択肢は2つ。
1、気付かれないように対面の穴へと行く。
2、戻って新たな道を探す。
1は気付かれたら死だけど先に進める希望が、2は目の前の危険は回避出来るけど新たな道を発見できる保証はない。
本当にどうしようって考えていると、首筋に水滴が落ちたのか濡れる感触に「ひゃん」っと悲鳴を出してしまった。
バッと口を塞ぐが、時すでに遅く。
瞑っていたドラゴンの目が開きギロリとこちらを見つめています。
口を抑えたまま微動だに出来ず見つめ返す。
見つめ合う2体。
ドラゴンがいい餌でも見つけた様にニヤリと口角を上げ雄叫びをあげる。
「GYAAAAAAAAAAAAAAA」
「私のバカァァァァァァァァァァァァァ」
気付かれてしまった以上対面の穴へ行くしかない。
穴の大きさはパッと見ドラゴンより小さいので穴へ行ければドラゴンは追ってこれなさそう。
雄叫びとともに突進してくるドラゴンをスライディングの様に右へ飛びゴロゴロ転がりながらなんとか躱す。
転がった勢いのまま起き上がり穴へと全力疾走。
後ろなど振り返る余裕なんてないので前だけを向いて走るけど、すぐ背中に強い衝撃を受け前へとふっ飛ばされてしまう。
吹き飛ばされたおかげで穴への距離は縮まったけど、たったの一撃で起き上がるのも困難なほどダメージを受けてしまった。
「ヒ、ヒール」
回復魔法をかけなんとか起き上がれるくらいには回復するけど、足がガクガクと震えている。
「ヒール」
再度回復魔法をかけ背中の盾を取り出しドラゴンへと構える。
鉄製の盾はベッコリとヘコんでいて、後数回強い衝撃を受けるだけで壊れてしまいそう。
ドラゴンはドシドシとゆっくり近づいてくる。
私はジリジリと後退しつつ足の震えが消えたところで後ろへ走り出そうとした時に、ドラゴンが右腕を振り上げながら突っ込んできた。
咄嗟にしゃがみ回避は出来たけど、続けざまに左腕の振り上げがくる。
「がはっ」
直撃は盾で防いだけど右の壁まで吹き飛ばされ強く打ち付けられた。
背中を強く打ち付けられて呼吸もままならない。
まずいです。
魔法を使うにはキーとなる言葉を発しないといけないのに、ヒールの一言すら言えない。
「GYAAAAAA」
勝利の雄叫びの様に鳴いた後、ドラゴンはスーっと息を吸い込みだした。
口の周りにバチバチと火が灯る。
ブレスだ。
でも、ブレスと分かっても私にはもうどうしようもなかった。
身体は動かないし、盾は少し離れた場所に無残にも切り裂かれて転がっている。
ドラゴンは息を吸い込むのを止め、カッと目を見開いた。
くる!っと思い、私は目を瞑り覚悟を決める。
駄目元でもいいからアレルに気持ちを伝えてればよかったなぁ……。
「GYAAAAAAAAA」
ドラゴンの声だけが聞こえ、一向にこない衝撃などに訝しみながら恐る恐る目を開けると、右目を手で抑えながらドラゴンが暴れていた。
「ルナ!!!!」
「…え? ア、アレル?」
ウ、ウソ。
声をした方を向けばアレルとチージョ先輩がいた。
アレルは手に棒手裏剣を持ち、鬼のような形相でドラゴンを睨みつけている。
助けに来てくれた事の嬉しさで目が涙でにじむけど、いくら2人が強いっていってもドラゴンが相手じゃ怪我じゃすまない。
「ダメ! 逃げて」
私は叫びもむなしく、ドラゴンは右目を攻撃したアレルを睨みつけ突進していった。
「うおぉぉぉぉ」
アレルも両手剣を上段に構え突進している。
「爆炎!!」
チージョ先輩の魔法がドラゴンの左目あたりで爆ぜた。
「GAAAAA」
「シッ!」
ドサッ!
爆発で除けったところにアレルの上段からの振り下ろしで左腕が切り落とされる。
これまでにない奇声を上げのたうち回るドラゴン。
のたうち回りながら距離をとったのか、右腕で切り落とされた部分を庇いながら、翼を広げバッサバッサと浮き上がっていく。
上空に上がり息を吸い込みブレスの予備動作に入ったとこで、
「させないよ。 輪炎!」
ドラゴンの背に輪っか状の炎が出現して回転しながら翼を焼き裂いていた。
「GA!」
翼を失い落下していくドラゴン。
その真下で下段に構えていたアレルが両手剣を振り上げる。
「はっ!!」
「GI」
ドシンッ!
アレルの一閃により頭と胴を切り離されたドラゴンは短い悲鳴とともに絶命した。
苦戦することなくドラゴンが倒されたことに驚き、口をパクパクさせている私。
強いとは思ってたけどこんなに強いなんて想像すらしていなかったから驚きがすごいです。
私は一方的にボコボコにされてただけなのに……。
「ルナ!」
回復するのも忘れ壁を背に横たわっていると、アレルが駆け寄ってくる。
「ルナ! 大丈夫?」
「へ? あ、うん。大丈夫? かな」
壁に吹き飛ばされた時は呼吸もままならなかったけど、アレ程の衝撃を受けた割には身体が痛い程度です。
なんだろう、ドワーフって意外と頑丈なのかな。
ちょっとふらつきながらも起き上がる。
「ごめんね。ボクがレッドボアを2匹仕留めていたらこんな事にはならなかったのに」
「え? なんでアレルが謝るの。私が気を抜いてたのが悪いんだよ?」
「そうよ!」
「っ!」
いつの間にか来ていたチージョ先輩が開口1番私の頬を平手打ちした。
「敵が来たのに武器も取り出さないでボケっと立ってるって馬鹿なの!?」
「……すみません」
「自分だけじゃなく他のPTメンバーも迷惑がかかるんだよ!」
「はい……」
「どれだけアレルが心配してたか! それにアタシも……っ」
「ご、ごめんなさい……」
チージョ先輩の声が震えてる。
「ルナっちのバカ! でも……生ぎててよがった!」
「ご、ごめんな……さい……うわぁぁぁぁっん」
ガバッと抱きついてきたチージョ先輩の泣き声に、生きてる喜びや、申し訳ない気持ちなどが押し寄せ大泣きしてしまった。
そして私は泣き疲れそのまま眠ってしまいました。
目を覚ますと見慣れた宿屋の風景。
「はぁ……」
今回の自分のアホさにため息が出ます。
自分だけじゃなく2人にも迷惑をかけてしまった。
ドラゴンを討伐した2人は間違いなくA級にあがる。
本当はC級の実力もない私は確実に足手まといだし迷惑かけるだけだよね。
一緒にはいたいけど足かせにはなりたくない、アレルに甘えまくってたけどここら辺が潮時かな……。
アレルは優しいから幼馴染の私と一緒にいてくれてるだけだろうし、PT解散を告げて最後に告白しよう。
振られたら幼馴染という関係がくずれるのが怖くて私の気持ちは伝えてなかったけど、どうせ振られるだろうしPT解散のいい口実になるよね。
冒険者も引退して、傷心旅行でもしつつ、いい料理店でも見つけたらそこで勤めようかなぁ。
料理上手のフローラさんに鍛えられたから私もそれなりの腕にはなっています。
振られた後の事をどうしようか考えているとカチャっとドアが開きアレルが入ってくる。
「あ! 良かった。起きたんだ」
「おはよ?」
「おはよ。今は夜だけどね」
今、夜って事は1日中寝ちゃってたのかな。
アレルは私が寝ているベットに腰掛け、微笑みながら頭を撫でてくる。
いつもの甘やかしに決心が鈍りそうになるけど意を決して言う。
「ア、アレル。あのね。PT解散しない?」
「……え? なんで?」
「ドラゴンをあっさり倒しちゃうほど強くなってるし今回の功績でA級になれるよね。私はC級だしアレルの足引っ張っちゃうよ」
「階級の事は大丈夫だよ。……ボクと一緒にいるのは嫌なの?」
「い、嫌じゃないよ……。でも、す、好きな人にこれ以上迷惑をかけるのが嫌なの!」
私の好きという発言に目を見開くアレル。
「ごめんね。こんなちんちくりんに好きって言われて迷惑だよね」
「迷惑って何? ボクもルナの事好きだよ」
「へ?」
今度は私が目を見開く。
「何その予想もしていなかったって言う顔。結構態度で示してきたつもりなのになぁ」
「え? ええ!?」
「伝わってなかったんだ……」
「えええええええええええ!」
ガックリと項垂れていたアレルがバッて顔をあげて、真剣な眼差しで私を見つめている。
「ルナ、好きだよ」
ボッと顔が熱くなって真っ赤になっているのがわかる。
「わ、私も……好き」
「うん!」
満面の笑顔が眩しい。
アレルの右手が伸び私の頬に触れゆっくりと顔を近づけてくる。
これはキス!?っと目を瞑ると、チュッと唇にやさしい触れるような感触。
「エヘヘ。キスしちゃったね」
「嫌だった?」
「ううん。嬉しい!」
「っ!」
私は多分かなり緩みきっただらしない顔でアレルに微笑むと、一瞬息を呑んだアレルがベットに上がってきた。
「ア、アレル?」
「いいよね?」
「う、うん……」
アレルはゆっくり優しくベットに倒し覆いかぶさってくる。
そしてそのまま、私は彼と一夜を共にしました。
昨夜はお楽しみでしたね。
そんなナレーションが聞こえてきそうな現状。
前世では経験はあったけど、現世ではもちろん初めて。
体格差もあってか、かなり痛くて泣いちゃって困らせたけど、アレルは優しく、本当に優しく扱ってくれました。
となりで幸せそうに眠るアレルの金髪を撫でる。
幸せを噛み締めながらニタニタ笑って気が緩みまくっているところに、コンコンっとドアのノック音につい「はーい」と答えてしまった。
「あ、ルナっち起きたんだね。よかっ……た」
チージョ先輩が部屋に入って私の姿を見て固まっている。
部屋には衣類が散らばっていて下半身は毛布で隠れているけど2人共上半身は何も身に着けていません。
どう見ても事後です。
「きゃぁぁぁぁぁ」
「ご、ごめん」
私の叫びでチージョ先輩は謝って部屋を出たけど、招き入れたのは私だしどう見ても私が悪いです。
叫びで飛び起きたアレルに「チージョ先輩は来てる」とだけ伝え急いで服を着て再度招き入れる。
「……ルナっちは本当に馬鹿なの?」
「はい、私は馬鹿です。申し訳ありません」
私は土下座しながら許しを請う。
チージョ先輩もアレルの事を好きなはずなのに、事後の光景を見せつける様なことをしてしまった。
昨日アレだけお世話になったのに恩を仇で返すとはこのことだ。
「丸二日起きなかったから心配して来てみれば、まさかこんな事をしてたなんてねぇ」
「あう……。え、ニ日?」
「一昨日はずっと寝てたんだよ。アレルくんは言わなかったの? ふーん」
「アハハハ……」
チージョ先輩はジトーっとアレルを見ると、頬をポリポリかきながら乾いた笑いを浮かべて視線をそらしている。
昨夜の事を突っ込まれて、顔を赤くしながら土下座姿勢のままチージョ先輩を見上げていると、
「サクヤ ハ オタノシミデシタ ネ?」
「あううううううう」
さらなる追い打ちがきて真っ赤になる私の顔。
チージョ先輩止めて! 私のHPはもう0よ!
それに自分自身もダメージ受けてない!?
その後散々弄り倒されたけど、満足したのかもう土下座しなくていいよと言ってくれた。
「あ、そうそうルナっちも起きたならこれからギルド行かない?」
「ギルドですか?」
「アタシ達今回ドラゴン討伐成功した事でA級に昇級だってさ」
「すごい! やっぱA級になれるんだね。アレル、チージョ先輩おめでとう!」
「ありがとう、っと言うか。ルナっちもA級だよ」
「は? イヤイヤイヤ。私ボコボコにされてただけで何もしてないよ!」
「でも、アレルくんが3人で討伐したって報告あげて受理されてるよ」
バッと「どういう事」っという目線でアレルを見ると、
「階級の事は大丈夫って言ったでしょ?」
「……言ってた。言ってたけど私にA級は無理だよ」
「うーん、確かにルナっちはちっこいし、ドジだし、間抜けだし、すぐ気を抜くし、おっちょこちょいだし、後ちっこいけど大丈夫じゃない?」
「ぐはぁ」
事実な事だけど辛辣な言葉にダメージを受ける。
後ちっこいって言うな! しかも2回も言ってるよ!?
「は! そうだ。私は討伐に参加していないってギルドの人に伝えれば取りやめてもらえるかも。先に行ってます!」
私は思いついたままに宿を飛び出しギルドへ向かいました。
「先輩、あまりルナをイジメないでください」
「あはは、ごめんね。でもルナっち打てば響くから楽しくて、ついね」
「はぁ、まったく」
「ルナっちは無理だって思ってるけど、実際問題希少な回復魔法使いなうえにフローラ様直伝の技術もちなだけで十分だし、異常な耐久力と回復力があるしね」
「それをルナには教えてあげないんですね」
「アレルくんだって教えてないじゃん」
「ボクは、……頼ってもらいたいですしね」
「あははは、黒っ! アレルくん黒っ!」
「さて、そろそろボクらも行きますか」
「りょーかい」
私が出ていった宿屋でそんなやり取りがされているとはつゆ知らず。
ギルドでタニアにドラゴン討伐時役に立っていなかったと説明したけど、PTを組んでいて戦闘にも参加しているのに役に立たないからという理由で昇級を取りやめる事は不可能だと言う。
「もしこんな事例を作ってしまったら、今後討伐したPTで貢献していない人は昇級させるなっていう声が出てきてしまいます。そんなこともわからないんですか?」っとゴミムシを見るような視線を投げかけている。
コッチミン……はい、すみませんゴミムシです。
ガックシと項垂れていると、すぐにアレル達が来て昇級手続きを進めている。
私は最後の抵抗でブツブツ抗議してたけど、まったく聞いてもらえずA級に昇級してしまいました。
「A級なんて無理なのに~。あっ! 冒険者やめればいいんじゃない!?」
「ルナはボクと一緒にいるのが嫌っと?」
「うっ、そうじゃないよ。不相応なのが困っているの!」
「あははは、ルナっちあきらめなー」
私には相応しくない身分になってしまったけど、好きな人と結ばれたし良かったのかな。
アレルを見れば優しく微笑んでいる。
いつまでもうだうだ言ったらアレルに呆れられちゃうかな。
うん!今はダメでもこれからだよね。
私頑張ります!
もしよかったら感想や評価などしてもらえると泣いて喜びます。