ゴブリン
急に意識が覚醒する。
その瞬間全身が警戒アラームを打ち鳴らし、瞬時に胸に抱いていた鋼鉄の剣を構える。
脳は状況に追いついていないが、本能で戦いが始まっていることを理解する。
すぐさま周辺を見渡すが、まだ日の出には早く、焚き木に近い場所以外は暗闇に近い。
しかし、感じる。
暗闇の中に何かいる。
「おい、焦るな。跳び起きたのは上出来だが、状況を思い出せ。このあたりには大したモンスターは出ない。」
そうだった。ここは平原で強いモンスターは出ない。冷静に対処すれば危険はないはずだった。
1つ深呼吸する。
「落ち着いたら気配を数えてみろ。俺たちを囲むように十数匹。知性があって群れをモンスターは、このあたりには1種類だけだ。」
ゴブリンだ。
ゴブリンというのはヒトにかなり近い。
身体が小さく言葉も鳴き声程度だが、群れをなして行動し、村を作る。
モンスターは自然界の生き物がソウルのバランスを崩した姿なのだが、ゴブリンはヒトがソウルのバランスを崩したモンスターといえる。
しかし、ゴブリンが街の中で生まれることはないため、ゴブリンの発生は謎が多い。
遠い祖先に枝分かれした種族とも言われているが、少し違えばあちら側だったと思うとなんとも言えない気分になる。
「こいつらは俺たちを見定めている。隙を見せれば襲われるが、勝てないと思わせれば襲ってこない。」
「それまでにらみ合いか?」
「いや、もう一つやり方がある。」
ジョナスはおもむろに荷物袋から猪の肉をひとかたまり出す。
山ではありふれた肉だが、旅では貴重な食料だ。
それをジョナスはいきなり暗闇に投げつけた。
「ギャアギャア!」
今まで音を立てなかったゴブリン達が騒がしくなる。
特に肉を投げつけた側では取り合いのような音が聞こえる。それにつられて別の場所のゴブリンも肉に集まり、ゴブリン達のケンカが始まった。
「よく見ておけよ。巻き込まれかねん。」
取り合いになって、しばらくしたら争いは収まった。十数匹いたゴブリンは片手で数えるほどまで減った。
ただでさえ、体格で劣るゴブリンが数を減らせば、俺たちに勝つことはほぼできなくなる。
ゴブリン達はゆっくりとその場を離れて逃げていった。
「争う姿はヒトと大して変わらんなぁ。あのまま戦っても良かったが、これもいい勉強だろ?」
「それより、この後はどうするんだ?朝まで起きてるのか?」
その後、すぐに夜が明けた。
早めに準備を済ませ、今日こそ街に着く。