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9初戦闘

 別室を離れ、体育館のような別棟に移動する。


 試験会場には複数の冒険者らしき人物たちが集まっていた。


 「来たぜ来たぜ!」


 「あれが例の無属性魔法の新人か」


 「あんなんで本当に合格できるのか?」


 「ぎゃははは!」


 どうやら俺が昇格試験に合格できるかどうかを見に来た見物人のようだ。娯楽が少ないからこう言う小さなことでも騒ぐのだろう。


 少し気に触るが、今は試験に集中しよう。


 モンスターとの初戦闘だからな。油断は禁物だ。


 「これから試験を行う。おい、あれを連れて来い!」


 ヴァンさんの言葉と共に職員たちが鎖を引っ張りながら会場に入ってくる。


 その鎖の先には――


 「ゲギャギャギャギャ!」


 緑色の肌に赤い瞳、醜悪そうな顔、体格は子供ぐらい、右手には木製の棍棒を持っているモンスターが拘束されている。


 「あれは、ゴブリンか……」


 「お前にはあのゴブリンと戦ってもらう」


 RPGでは雑魚モンスターとして扱われるゴブリンが相手か……。今回の昇格試験は楽勝に合格できるかもな……。


 「試験内容はあのゴブリンの息の根を止めること。魔法を使ってもいいし、道具を使用しても構わない。とにかく息の根を止めれば昇格試験は合格とする。さあ、準備をしろ」


 「はい」


 俺はショートソードを抜いて、剣道の構えをとる。


 念のためだ。一応身体能力を高める強化系統の補助魔法をかけておこう。


 「〝肉体を強化せよ――パワーアップ〟」


 肉体が強化され、身体が軽くなる。


 これで準備は完了。


 「いつでもどうぞ」


 「よし、では戦闘開始だ!」


 ヴァンさんの合図と同時にゴブリンを拘束していた鎖が外される。


 「ゲギャギャギャギャ!」


 拘束が解かれると、ゴブリンは直ぐ様俺に向かってくる。


 「速い!」


 ブオンッ!


 ゴブリンが勢いよく持っている棍棒を振り下ろして襲い掛かってくる。


 咄嗟に避けたが、じんわりと冷や汗を流す。


 流石にあれを受けたら痛いだろうな……。


 「ゲギャギャギャギャ!」


 再度ゴブリンは棍棒を振り下ろしてくる。


 「――ッ!」


 俺はゴブリンの一撃をショートソードで受け止める。


 小柄な体格のわりには力はなかなかある。初級魔法の補助魔法とは言えこっちは身体能力を強化しているんだぞ!


 ゴブリンは雑魚モンスターと言うのがRPGの定番だと思っていたが、実際はそんなに甘いもんじゃない。充分危険なモンスターだ!


 ゴブリンを甘く見ていた自分を恥じる。


 そして今更ながら気がついた。相手はゴブリン。人の姿をしたモンスターだと言うことを。


 殺しとは全く無縁の世界で生きてきた俺。動物ですら殺したことがない俺が人の姿に似たモンスターを本当に殺すことができるのか?


 不安の思いが広がる。


 「だけど……!」


 だけど俺はこの世界で生きていくと決めたんだ。だからこんなところで立ち止まっている訳にはいかないんだ!


 「〝土をここに――アース〟!」


 掌に砂状の土が創り、俺はそれをゴブリンの顔に目掛けて投げる。


 「ゲギャァァア!?」


 砂状の土はゴブリンの目に眩ませ、一瞬だが隙が生じた。


 「はああああ!」


 掛け声と共にショートソードを横薙ぎに振るう。


 「ゲギャ!?」


 ゴブリンの首が刎ねる。


 生き物を殺した感触。


 ショートソードの刀身にはゴブリンの血が付着している。


 殺した……。俺は生き物を殺したんだ……。


 「う……!」


 少し吐き気を感じる。だが、俺は必死に耐えた。


 もし、ここで吐いてしまえばこの昇格試験は失格と判断されると思ったからだ。


 「良し、合格だ!」


 ヴァンさんの言葉が会場に響く。


 倒したゴブリンに視線を移すと、切断面から大量の血が溢れ出ていた。


 これが実戦だと言うことを改めて思い知らされた。


 そして、下手をすれば俺自身が殺されていたかもしれなかったことを。


 今回の昇格試験で強制的にそれを理解させられる俺だった。

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