第一章 目覚めた先 7
図書室の中はとても広く、色々な本が存在していた。自分は一冊手に取り、中身を確認する。だがそもそもとして、この国──この『世界』か──の文字は読めないので、すぐさま本を閉じる。
「おっ、それは『ジャックの冒険』じゃないか。中々良い本を選んだな転移者よ」
「は、はぁ? 『ジャックの冒険』って?」
「『ジャックの冒険』というのは主人公のジャックが世界を行脚して、色々な人種、存在を助ける愉快で痛快な作品じゃ」
「へぇ……」
国王の説明を受けて、案外面白そうだな、と俺は思った。だけれどそもそも読めない自分には意味が無い。
そして自分は他の本を手に取り、中身を確認する。
「……ん?」
自分は本の内容を見て、不思議がる。何故なら『人間以外の事が色々書かれているイラスト付きの本』だったからだ。自分は『人間種』と思えるイラストの次のページを捲ろうとする。すると国王が自分にダイブしてページを捲るのを阻止する。
「ダメー!」
「うわっと!」
自分はそのまま本を閉じて奥へと飛ばしてしまう。
「いたた……何するんだ!?」
「その本は読むな! 転移者のお前には目に毒だ!」
「目に毒……」
その言葉を聞いて、ごくり、と生唾を飲み込む。読んで見たい、その衝動だけが自分を突き動かす。
「ま、待て待て。何で読んではいけないんだ? 目に毒ってのも不思議だし……」
「そ、そんなのは……大まかに言ってしまえば、お前さんが驚愕する、からじゃ……読むなら儂の解説が必要じゃろう? 読みたかったらまず文字を習得しないと」
「確かにそうだけど……それにしても吹き飛ばすのは良くないなぁ。アルムさんが言っていた『魔法』なり何なり使用して阻止すれば良いのに……」
自分がアルムさんの魔法を言うと、国王は驚いていた。
「な、何じゃと!? 転移者相手に『魔法』じゃと!?」
「え、えぇ……あまりにも危うかったから使用した、と申していました」
「ふぅむ……成程」
国王は顎に手を当てて、静かに考えながら本棚の前を歩く。そして一冊の本を手に取り、自分に投げる。
「お前にはこれが最適じゃ」
「最適? 何の本なの?」
自分が国王に言うと、国王は鼻で笑って自分に言う。
「ふふん! この本は幼子に教える本じゃ! その本から少しずつ文字を覚えていくが良い!」
「……そうか、確かに俺は幼子より文字は読めないよな。確かにそうなんだけれど……逆に言ってしまえば、『国王もこの本を読んで俺に文字を教えないといけない』んだぞ? 国王がこんな本を読むって……恥ずかしくないか?」
「は、は、は、恥ずかしくないわぁ! 仕方なく! 仕方なくじゃろう! ほれ! さっさと席に着いて本を読むぞ!」
国王が顔を赤らめながら図書館の真ん中にあるこじんまりとした四席程の椅子に近付く。机も然程大きくなく、精々1m程度に見える。自分も仕方なく、幼子に教える本を脇に抱え、国王が自分にダイブした時に離してしまった本も脇に抱え、計二冊を脇に抱えて国王の元に向かう。
「ふむ! では国王の文字教授教室ー!」
「チープだ。黙って教えてくれ」
「はい」
自分は国王に幼子に教える本を渡す、そして国王は本を捲って、自分に見せる。すると一ページごとに大きな文字が目に入った。
「えっと……これは?」
「これを『あ』と読むのじゃ!」
「あぁ、そう言う事か。一ページに一文字ごと書いているのか」
「そう言う事じゃ。んで、次のページには『い』と書いているのじゃ」
「……日本語に近いんだな」
自分はそう呟いて、メモ帳に一文字ずつ書き留めていく。この国のこの字には日本語の『あ』と言う風に書いていく。すると国王が自分のメモ帳を見て、不思議がる。
「おおっ……転移者よ、その文字は何と言う文字だ?」
「ん? これ? 今俺が書いているのは『日本語』っていう一民族しか使っていない言葉であり、言語だ。『日本語』には『平仮名』、『片仮名』、『漢字』という三つの文字を組み合わせて使用している。んで、国王が今さっき『この文字は『あ』と読む』って書いたろ? 日本では『あ』というのはこう書くんだよ」
自分は後ろからメモ帳を破って取り、『あ』と書く。すると国王は物珍しそうな表情で目を輝かせていた。
「おおー! これが『日本語』というのだな!」
「あぁ、他にも『ア』、『阿』とかあるな──まぁ、それは追々教えるとして──って、何で俺が『日本語』を国王に教えているんだよ!? 国王は俺にこの世界の文字を教える役目じゃないのか!?」
自分がそう言うと、国王は目を逸らして口笛を吹く。
「ふんふふーん……」
「分かった。それじゃあ『日本語』を後で教えるから、今からこの世界の文字を教えてくれ」
「……今はダメ?」
「ダメです。後でだ」
妥協せず言うと、国王に口を尖らせて次のページを捲って説明する。
「この文字は『う』と読む。次のは『え』って読むぅ……」
「成程な……メモメモ……」
自分は国王の口から出る言葉を頑張って聞き逃さない様にメモ帳に残し、文字にする。結構この作業は大変だな、自分はそう思いながら額から流れる汗を拭う──