第一章 目覚めた先 2
「……はぁ」
ここ迄来てしまったら、逃げられないんだな……自分は目の前の全身鎧装備の騎士団長、アルム・カルトランスを見つめながら、そう思う。するとアルム・カルトランスが言う。
「さぁ、君の力を私に見せ付けてくれ! 私も本気で君を倒す!」
……逃げられないぜ俺? そう思いながらアルム・カルトランスは自分に突進を仕掛ける──何故こうなったのかは軽く一時間前に遡る──
自分はルドルフさんに案内され、巨大な城の門の前に佇む。ルドルフさんは全身鎧装備の兵士と会話している。はぁ、退屈だ。異世界転移ってつっても、結構暇な事があるんだな。自分はそう思いながら頬杖を掻きながら溜息を吐く、するとルドルフさんが自分に声を掛ける。
「おぅい! 異世界転移の話をしたら、すぐ国王様が出会いたいそうだ! 早く王様の前に向かおう!」
「本当に素晴らしい行動力ですね。俺なら何も出来ずに立ち止まってしまう。だけど、ルドルフさんの様な素晴らしい勇敢な戦士を自分は見た事がありません。」
「おいおい、そんなに畏まるなよ。どうせ私は一介の人間だ、案内程度は出来る」
「本当に色々とすみません」
自分はルドルフさんにそう言って、城の中に進入する。さぁ、さっさと武器を貰おう。
ふぅむ、やっぱり外から見ていたからそうだが、この城はとても広いんだなぁ、と井の中の蛙の様な意見を心の中で出してしまう。目の前に居るのはルドルフさんとさっきの兵士である。自分は王様に会う為に兵士に案内されている。
中々に大変である。何故なら軽く十分は城の中を彷徨っているからだ。あまりにも大きいからと言って、兵士でさえ迷うのか……? と疑ってしまう。違うとしても、何故こんなに時間を掛けて進んでいるのか? 少し不思議に思ってしまう。
「到着した。異世界転移者であれど、国王様には粗相のない様に」
「粗相? そんな事をする奴が居るのか」
「お前みたいな転移者だな」
「…………」
成程な、無礼な奴が居る、と言う事だな。って、誰が無礼だ! と心の中でツッコミを入れて、兵士は戸をノックし、『国王様! 異世界転移者を連れてまいりました!』と叫ぶ。そして兵士は戸を開けて、自分とルドルフさんを先に入室するよう促す。これで武器と防具が手に入る……! 自分はそう思いながら国王に話す内容を考える──
「やぁ、異世界転移者よ」
そう言って玉座に座る一人の女性。自分は思った事を口に出す。
「何だよガキかよ」
自分の発言にルドルフさんは腹部を殴って言葉を静止させる。
「馬鹿! 何を言っているんだ! ガキとか言わない! 国王様だぞ!?」
ルドルフさんは小声で説明する。えっ? マジかよ、ガキが国王かよ、この苦に終わってんな。
「へぇ、そうなんですか……でも俺の目的はただ一つ、『武器と防具を手に入れる』のみですから!」
「お前何言ってんの!? 無礼を行った上に武器と防具を横取り!? お前の行動は慇懃無礼より酷いぞ!?」
「そんな事はどうでも良いんです! 今は武器と防具を手に入れる事が即決です! 国王の忠義とかどうでもいい!」
「小声で会話せず、儂と話せよ!」
「まさかの『儂』キャラかよ!? 爺くせぇ!」
「お前は無礼を!」
自分とルドルフさんの会話に割って入る国王。そんな国王に対し、自分はまた無礼を働く、無礼を働くとルドルフさんは静かに嗜める。
「す、すみません国王様! この転移者は右も左も分からぬ無礼者で!」
「右は箸を持つ手、左は茶碗を持つ手だろう?」
自分がそう言うと、ルドルフさんは声を荒げて自分に言う。
「物の例えだよ! 実際に分からないって意味じゃない!」
「あーもー分かったから、話を進めよう? んで、異世界転移者である貴様は武器と防具が欲しい、だったな?」
「はいそうです──クソガキ」
「ん? 今さっき小声で何か聞こえたような?」
「幻聴です、何か憑かれているんですよ、何か」
「うーん、何か怖いな。今日は話を止めてもう寝よう」
「あっ、それは勘弁して下さい! 武器と防具を俺に渡してから寝て!」
「お前は何気に無礼過ぎる! 初めてだよ! 『武器と防具をくれ』と言って、儂に暴言を吐いた異世界転移者は!」
「凄い! じゃあ俺が初めての相手なんですね! 素晴らしい!」
「何と言うポジティブ思考! もうやだ! 儂コイツと関わるのやだぁ!」
あまりにも暴言が過ぎるので泣き出すチビの国王様。少しやり過ぎたかな? と思いながら謝る。
「すみませんでした。国王、と聞いたので、とても寛大な心を持った国王か試させて頂きました」
自分は、その場で膝を突いて、発言する。すると国王が笑顔になって自分に言う。
「なぁんだ! それならそう言ってよぉ! マジ切れ寸前で首ちょんぱなりかけだったぞ異世界転移者よ」
おい!? 生き返る前に二度目の死を体験する所だったよ!? 自分は顔から流れる汗を拭って言う。
「え、えーと、国王様? 武器と防具は何時になったらくれるんですか?」
「ん? 欲しいの?」
「いや、欲しいに決まっているじゃないですか! 自分は他の異世界転移者を倒す為に此処に顕現したんですから!」
「ふぅん? 儂に無礼を働いた挙句、武器と防具をせがむ、とは……こんなに酷い異世界転移者は初めてじゃ……」
「……一つ聞きたいのですが」
自分はそう言って国王に不思議に思っていた事を話す。
「この世界に何人の異世界転移者が? 国王の口ぶりだと軽く自分以外にも転移者が居るような発言をしていますよね?」
「……確かに。貴様より前に何人も異世界転移者はいる」
……矢張り。自分は顎に手を当てて考える。自分以外に転移者が居るのなら……『何人の転移者が居る』か分かる筈。だけど、自分みたいにルドルフさんの近くに現れたのなら良いが、『自分が現れた場所』以外で現れた存在はどうなるだろう? それは流石に分からないよな。自分はそう考えて顎から手を離す。
「何人も転移者が居るのか、と言う事は俺の敵が多い、と……」
「そうなるのかな? 儂は転移してきたお前等の事なんか知らんし」
「でしょうね……それでは俺の考えも終わったので、武器と防具を」
「厭じゃ! 何で暴言やら何やら吐かれた挙句、儂が貴様に道具を渡さなきゃいけんのじゃ!? 我侭か!?」
「……じゃあどうしたら武器と防具をくれるんですか?」
自分が国王にそう言うと、国王はその場から立ち上がって自分に言う。
「フッフッフッ! そんなの簡単じゃ! 我が城が誇る騎士団長、アルム・カルトランスに勝利したら武器と防具を授けよう!」
「それなら要らない」
「……はぁっ!?」
国王の発言を受け、自分は即座に返答する。なぁにが戦うだ、自分は『コンパス』という謎の能力を持って、使い方も分からないのに、『我が城が誇る騎士団長に勝利しろ』だぁ? ばっかじぇねぇの? 自分は一介の学生だぞ? 『騎士団長』という超強い相手に勝てると思います? いいえ、勝てる筈が無い! 自分がそう思って、その場から立ち上がって国王に言う。
「生憎俺は弱い。だから騎士団長と戦っても負ける未来しか見えない。なので武器と防具は要りません。他の場所に行って武器と防具を手に入れます、それではさようなら、国王様」
自分はそう言って、この場所からルドルフさんに他の場所に案内するよう考えるが、一人の坊主の男性が自分に言う。
「まぁ、待ちなさいってぇ? まだ何も言っていないでしょぉ? 国王さんは?」
「……確かにそうですけれど。で、アンタは誰だ?」
「あぁ、すまない。私の名前はアルム・カルトランス、今さっき国王さんに言われた騎士団長だ」
えっ……!? まさかこの男性が、アルム・カルトランス……! 自分はあまりの衝撃に少し後方に下がってしまう。
「まぁまぁ、国王さんよぉ? 彼は自分で『弱い』と言っているんだ、だから私からも『ルール』を入れても良いですかねぇ?」
「る、『ルール』? い、一体何なんじゃ?」
「簡単ですよ、『私に一撃でも加えれば、武器と防具を彼に渡す』というのはどうでしょう? これならたった一撃与えるだけで勝利。逆に言ってしまえば、『どんな弱い奴でも勝機はある』と言う事です」
「成程……確かにアルムの言う事は一理ある。どうする転移者よ? そのルールでどうじゃ?」
「…………」
いいルールだ、逆に言ってしまえば、『俺に有利な状況を作っている』のだ。アルム、という男、中々頭が良い。自分はそう考えて、静かに考える。
今決めないと、後悔しそうだ……そう思いながら、心の中の『小さな不安』を感じた。くそっ、何なんだこの『不安』は? 『不安』にイライラしながら自分は返答する。
「……いいでしょう! その『ルール』に乗りましょう!」
自分がそう言うと、アルムは静かに腕を組んで頷く。
「うむ! それでこそ、『男』だ! それでは国王、急いで闘技場を開放して下さい。闘技場で戦った方が何かと燃えるだろう? 少年よ?」
「確かに。」
自分がそう言うと、国王は静かに頷いて、アルムに言う。
「ふぅむ、分かった、それでは一時間後、闘技場を開放する。それでいいな?」
「有難う御座います国王」
「有難う御座います、国王様」
アルムと自分はそう言って、頭を下げる。よし、一撃さえ与えれば、自分は武器と防具を手に入れられる……! 自分はそう思いながら唾を飲み込んだ──
こうして俺とアルム・カルトランスとの勝負が開始される事になった。そして一時間後、話は冒頭に戻る──