第一章 目覚めた先
第一章 目覚めた先
「…………」
自分は静かに瞼を開いた。そして起き上がって、周りを確認する。自分が起きた場所は森林の中、土の道の上だった。
「まさかの村人ポジションじゃないですよねぇ?」
自分はそう呟いた、すると右手の中に変な違和感を抱いた。自分は右手を開けて確認する。其処には折り畳まれた紙が存在していた。自分はゆっくりと紙を広げる。
「ん? あの女神様の通達か。何何……?」
『君に渡された能力は『コンパス』だ! 頑張って勝ち進め!』……と書かれていた。
待て、待て待て待て待て! 何!? 何なの『コンパス』という能力は!? 何だぁ? 『円でも描け』ってかぁ!? 巫山戯んじゃねぇよ! やっぱり受けなきゃ良かった! 自分はそう思いながら、その場で深い深い溜息を吐いて、立ち上がる。と、とりあえずは人が居る場所を探そう、話は其処からだ。自分はそう考えて移動する──
右の方に向かい、徒歩十分で村に着いた。村の見た目はまるでギャングや西部劇に出てきそうな雰囲気だった。自分は酒場と思われるお店のウェスタンドアを押して、入店する。
「すいませぇん?」
「んぁ? 何だい君?」
「え、えーと、俺異世界転移者? って奴なんですけどぉ?」
「あぁ、何だ、転移者か。私はルドルフ。宜しく」
「えっ? 如何にも怪しい俺を迎え入れてくれるんですか?」
自分がそう言うとルドルフさんは溜息を吐いて自分に言う。
「まぁ、何人も何回も異世界転移者は居るからな。逆に言ってしまえば、私は『異世界転移者の為に存在している者』だからな」
「異世界転移者の為に存在している……? それってどういう?」
「ん? 簡単だよ、『この世界は神様が作り出した世界』なんだろう? そして私達はゲームで言うモブ、村人Aみたいなもんだろ? あくまで主役は異世界転移者のアンタ達だ」
「……何か、そんな考えにさせてしまい、すみません……」
自分は頭を下げてルドルフさんに謝る。するとルドルフさんが声を荒げて言う。
「おっ! おいおい頭を下げるな転移者! 別段私はこの生活を苦と感じていないからな、モブだろうと何だろうと、別に平気さ」
「は、はぁ……」
ルドルフさんの考えには共感出来るが、何だか申し訳無い気持ちで一杯だった。するとルドルフさんが自分に言う。
「アンタ、金も武具も防具も持っていないだろう?」
「えっ? あぁ……そういや『能力』だけ持って、この世界に来たんだっけ」
自分はそう言って頭を掻く。そしてルドルフさんが言う。
「来いよ、今から『王国』に行こう。『王国』に行ったら、色々と支給してくれるだろう?」
「王、国か……確かに武器も防具もないんだ、王国で支給してくれるかもしれない……」
自分はそう呟いて、ルドルフさんに案内される。すると其処には馬が一体存在していた。
「さぁ、これに乗って『王国』に向かおう」
「……す、すいませんが俺、馬に乗った事が無くて……」
自分が頭を下げて言うと、ルドルフさんは笑って自分に言う。
「アッハッハッ! なぁに言っているんだ少年よ! 『王国』に向かえば厭でも馬に乗るんだぞ! 少しは耐えるんだ!」
「えっ? マジか……うー。……でも生き返る為だ、少しでも慣れないといけないってか……」
自分は馬に乗ったルドルフさんの後ろに乗って、二人で『王国』に向かう──
馬と言う生き物は素晴らしい。歩くよりとても早く移動出来るからだ。だが一般的に考えて馬なんて一般家庭なんかにはいない。居るとしても、古臭い田舎ぐらいだ。だから一般家庭では馬なんかに乗らないだろう──だが、自分はそんな貴重な体験をしているのだ。
「す、凄い早い……!」
自分はルドルフさんの腹部を両手で掴んで言う。するとルドルフさんが笑って自分に言い返す。
「アッハッハ! まだ早くなるぞぉ!」
ルドルフさんはそう言って、鞭を強く叩く。すると馬は声を荒げて、スピードを加速させていく。おおおおお! 凄い! これが『馬』という存在か! 競馬で見るよりカッコいい! 自分はそう思いながら風を感じた──
そして移動していると、巨大な壁が見えた。ルドルフさんは茂みの中に移動し、馬から降りる。
「さぁ、降りてくれ。此処からは徒歩で移動だ」
「馬はどうするんです?」
「んなもんあっても無駄だ。此処に置いておく」
「そうなんですか……」
ルドルフさんの話を聞いて、自分は馬から降りる。何れまた乗ろう。そう誓いながらルドルフさんの馬の後ろ足を抱き締めようとするが、ルドルフさんが自分の服の首根っこを掴んで静止させる。
「待て。お前死ぬぞ」
「はぇっ?」
「馬は後ろから触れられると、防衛反応で、蹴り上げるんだよ。だから最悪の場合死ぬぞ」
ルドルフさんの説明を受け、自分は何とか一命を取り留めた事を感じる。もしもこんな所で死んでいたら生き返るなんて夢のまた夢だ。そして自分はルドルフさんの後ろを歩いて王国へと向かう──
ルドルフさんは巨大な門の前に居る全身鎧の人に数分間話しかける。すると全身鎧の人は門を開けて、自分とルドルフさんを敷地内に入れる。遂に『王国』内へと向かう、と思うと少しドキドキし、ワクワクもしていた。だがその時、『小さな不安』がある事を自分はひた隠しにして、『王国』内へと進入していく──
自分が『王国』に入って一言思ったのは『広い』だった。目に付くだけでバニーガールの女性がチラシを配っていたり、路上でアイスクリームを売っていたり等、お祭騒ぎかと思う程の騒ぎようだった。
建物も西洋風な感じで白を基調としていた。床はレンガっぽかった。
「此処が『王国』だ、名を『ドルベルク』という!」
「ど、ドルベルク!」
ルドルフさんが王国の名を名乗る。自分はその名前に驚愕する。
「フハハ! 凄いだろう! さぁ、先に進もう! 国王が待っている!」
「……国王? えっと、いきなり過ぎません? 何だかそう思うのですが?」
自分がそう言うと、ルドルフさんが声を荒げて言う。
「なぁに! 気にするな! 何事も国王に会わないと何も出来ない! 武器も防具も手に入らない!」
「そ、そうなのですか……」
自分はそう言って、頬を掻く。何だか厭な予感がするなぁ……自分はそう思いながら不安を胸に抱いてルドルフさんの後ろを着いて行く──この不安は何処で爆発してしまうのか……それがとても怖くて仕方が無かった──