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ディファレント・ワールド・ウォーズ  作者: 彩都
プロローグ
1/477

不運な少年の異世界転移

 どうやら俺は死んでしまったらしい。何と言う事だ。今日、クラスの憧れの笹倉望ささくら のぞみちゃんに告白しようとラブレターを靴箱に投函しようとしたのに。昨日徹夜でラブレターを書いたから、注意力が散漫になっていたのだろう、と今になって考える。いや、考える事はもう遅いのだ、何故なら俺は死んでしまったからだ。

 全く、恋愛も自由に出来ずに死んでしまうとは……中々に滑稽、中々に不運だ。あぁ、今になって痛みが現れてきやがった。死んだのに痛みとか何で来るんですかね? いや、空虚にそんな事を呟いても神様は返答しないし、天使様も無言で自分を天へと召させるだろう。

 あーあ、もっと生きたかった。齢十七歳にして死去、か……母親様が聞いたらどう思うだろうか? まぁ、あの母親の事だ『やっと死んでくれたか馬鹿息子め』とか言って嘲笑するだろう。よくもまぁ、息子が死んだのに笑えるな。いやこれは自身の想像の為、実際はどうかは分からないが。

 はぁ、俺はこれから『何』に転生するだろうか? 輪廻的に言ってしまえば何なのだろう? 天道? 人間道? 修羅道? 畜生道? 餓鬼道? 地獄道? いや、仏教を信じていない自分にはその枠には当て嵌まらないかもしれない。キリスト教にも信仰していないし、そもそも無宗教を貫いている自分には天国、極楽、地獄の何処に行くかも分からない。

 そんな事を思いながら俺は、足元にある血だらけの『自身の遺体』を見つめる。あーあ、死んだんだよなぁ……可哀想に。って、自分に『可哀想に』ってセルフで言う奴がいるか? いや、居るな、自分だ。自分は『真っ赤に染まった心臓部分を押さえている自身の遺体』を見ながら視線を少し前に向かせる。目に映るのは警察官に羽交い絞めにされている如何にも昭和の空き巣犯みたいな唐草模様の風呂敷を首に提げている髭面の男性だ。

 その男性は少し恰幅が良く──いや、ただのメタボだ、デブだ、クソデブだ──顔も朗らかな顔をしており、罪を犯さない感じの雰囲気を持つ男性だった。

 徐々に徐々に自分は思い出していく。そう、自分はこの男性に『刺された』のである。たまたま通学中に近道として使っている商店街を通ろうとした時、人だかりがあった、自分はその人だかりを掻い潜って先に進もうとした時に、人だかりの所為で気付かなかったが、『自分か掻い潜った先に髭面の男性が居り、自分はこの髭面の男性に心臓を刺された』のだ。そして自分は刺された心臓部分に手を置いて、驚愕しながら気絶して──

 ゆっくりと、ゆっくりと思い出していく。もしも刺された直後に救急車なり、止血なりを済ませていれば、何とか息絶える事無く、生き長らえたのに……刺された直後は誰も救急車を呼ばなかったし、止血もされなかった。唯一起こされた行動は『交番に連絡する』だった。

 そう、誰も『俺の事等見てる人なんか居らずに、自分を刺した犯人を捕まえる』事しか、眼中に無かったのである、悲しい。とても悲しかった、誰も自分の事等気にも留めずに、犯人のみを押さえ、捕まえたのである。まるで『其処に誰も居なかった』かのように──

 あぁ、一度で良いから望ちゃんに告白したかった……自分はそう思いながら足元の遺体から目を逸らす。本当は目を逸らしちゃいけない気もするが、今の自分はそんな事を考えられなかった。自分は目を逸らし、後ろを振り向く、振り向いても誰もいない、いや、『誰も見ていない』、そう、自分はこのまま『誰にも気付かれずに最後の言葉も聞かれずに死にに行く』のだ──

「はぁ……もっと、もっと生きたかったなぁ、望ちゃんに告白して、OK貰って、付き合って、愛を深めて、学校卒業して、結婚して、赤ちゃんを……いや、それは早いかな? と、とりあえず、初体験は済ませたいな……」

 自分はそう呟いて、顔を上げる。其処には青空や雲が見えていた。はぁ、雲は良いよなぁ、ただ単に空に浮いているだけで死ぬ事は無いし……人間の俺はどうだ? 『俺』という一個人は死んでしまった、『雲』という存在自体は消える事が無いから死ぬ事もない。そう考えると俺って……自分はその場で溜息を吐いて、その場に座る。さぁて、これからどうしようかねぇ? とりあえず、来世も人間に転生したいな、そう思っていると、不意に変な声が聞こえた、その声は幻聴か? と思っていたが、段々と、声がはっきりしてきた。

「……か? ……ますか?」

「ん? 何? もっとはっきり大きい声で喋って!」

 幻聴に対し『もっとはっきり大きい声で喋れ』なんて、滑稽だな、と思いながら幻聴を聞く事を止める。馬鹿らしい幻聴が聞こえる、と言う事は本格的に死んだ、と一緒だ。そう考えて、その場で寝転がると、いきなり大きく、はっきりとした声が脳内に響いた。

「こらぁ! 人の話を聞けぇ! いや、神の話を聞けぇ!」

 ん? この幻聴何と言った? 『神』と聞こえたのだが……いや、『紙』の間違いかもしれない、そう考えて欠伸をする。すると幻聴はやがて『目の前にはっきりと現れ』る。

「おいおいおいおい! 聞こえているなら返事をしろ! 何だか一人で喋っている悲しい存在に見られるだろう!?」

「ん? アンタは何もんですか? 俺はアンタの事を知らないんだが?」

「そりゃそうだろうねぇ? だって私は『神様』だから!」

「……アンタ、頭可笑しいのか? 死んだからって神様に会える親切設計をこの世界はしているのか? 馬鹿らしい、俺は神様を信じていない。お前が神様なら、何か『凄い事』を起こしてみろよ?」

 自分は目の前に現れた『神様』と名乗る少女に『凄い事』をさせるよう煽ってみる。絶対何も出来ない、だって目の前に居るのが『神様』じゃない、と俺は思っているからだ。

「えぇ……いきなり急であるな、では何を起こせば良い?」

「俺を生き返らせて欲しい」

「無理に決まってんだろ、キリストじゃない限り出来ない」

「何だ、神様ってのは嘘か」

「うぅん、現代人って本当に腹が立つなぁ、どうしたら『神』って事を証明するか? あぁ、そうだ、こうすれば良いのか」

 目の前の似非神はそう言って、右手で指を鳴らした。すると似非神の右手の方に『笹倉望ちゃんが現れた』のである。えっ!? ほ、本当に『神様』なのか……? と自分は驚愕する。

「え、えーと……」

「何だぁ? やっと信じてくれたかぁ……私は『神様』だ、宜しく」

「何ともフランクな神様だ……いや、女神様ってか?」

「おっ、嬉しいねぇ、私の事を『女神』だなんて……! 今迄言われた事が無かったから涙が……」

 ……何だろう、凄く人間っぽい神様だな。と自分は思う。そして女神様が本題を切り出す。

「さて、君に言いたい事がある、『君は死んだ』、其処は分かるかい?」

「いや、自分の遺体を見たら分かりますよ……」

「そうかそうか、分かってくれるか。それでは二個目の言いたい事。『どうする?』」

「ど、どうするって……そりゃあ生き返って笹倉望ちゃんに告白を……!」

「だろうね。恋する少年だもんね君は。でも、神様だって、そう簡単に人間をポンポンと生き返させる事は出来ない、だからどうするか分かる?」

 女神様の発言に自分は理解が出来ない、結局何が言いたいのか?

「簡単だよ、『君を異世界転移させる』んだよ。実は私達神様の中でとある『ゲーム』があってね?『死んだ存在を色々な神様が力を合わせて創った異世界に転移させて、戦わせる『ゲーム』』があるんだ。その『ゲーム』に参加させてあげるよ、君を。んで、その『ゲーム』の内容は『自分以外の異世界転移者を全て倒す』という内容。そして異世界転移者を全て倒すと……『どんな願いでも一つだけ叶える』事が出来る。だから君が『生き返りたい』と言えば、生き返る事が出来る──ただし、ちゃんと時間指定をするんだよ? 時間指定をしないと、君の場合、刺された直後になるからね──どうだい? 『生きるか死ぬかのデスマッチ、君はやってみる』かい?」

「…………」

 何と言えば良いのか? 受けたいと言えば受けたい、だけど、受けたくないと言えば受けたくない。何故ならこの女神様は『敗者の事を言っていない』からだ。敗者には何がある? 敗者には一体何が。その考えだけで自分は何も言えなかった。

「どうするんだい? 受けるか? 受けないか?」

「……その前に、敗者はどうなるんですか?」

 質問をぶつけてみる、どう反応するだろうか?

「敗者は『無間地獄』に叩きつけられるのみだが?」

「……はぁっ?」

『無間地獄』って……あの『無間地獄』か? そう思っていると、女神様が言葉を発す。

「なぁに、『勝てば良い』だけ。負ける事なんて考えるな。異世界に行ってしまえば、武器や防具も手に入れられる。後は工夫するだけ。簡単なゲームだ。どうだい? この説明でも受けるか受けないか?」

「あ、あの、その……」

 呂律が回らない、いや、回っているのだけれど、上手い事回答する事が出来ない。そう思いながら自分は一回口を閉ざす。待てよ? 勝てば良い、だけれど負けたら? 一生出られないかもしれないんだぞ!? そんな危ない賭けに何乗ろうとしているんだよ!? 少しは落ち着け自分! ……だけれど、残った道はそれしかないのなら……! それしかないのなら!! 小さな可能性に賭けるしか!

「……決まったかい少年よ?」

「……あぁ! 『勝てば良い』のなら、勝ち続ける迄! 俺は勝って望ちゃんに告白するんだ! 死んでも死に切れない! 告白出来ずに死ぬ位なら告白して却下されて死んだ方がまだマシだ!」

「流石男の子だねぇ? 覚悟があって宜しい」

 女神は微笑んだ、その微笑に自分は少しだけ、頬が緩む。

「あぁ、そうそう。異世界に向かう時に君に能力を授けよう。身体的能力のハンデの事を考えてね、異世界に向かう時、一人一つの能力が授与されるんだ」

「成程……」

 自分は頷いて、女神から能力を授かる、この能力がどんな能力かは知らないけれど、結構使える能力だったら良いなぁ……例えば『時を止める』とか、『時を巻き戻す』とか……自分はそう思いながら女神が作った光の輪を見る。

「此処に入ってしまえば、もう逃げられない異世界生活が始まる。もう一度聞こう、『この輪の中に入って後悔はしない』か?」

「…………後悔はしない! 後悔するのは向こうで死んだ後だ!」

 自分はそう言って右足を先に光の輪の中に入れる、そして最後に左足を入れる。こ、これで……! 自分はそう思いながら深呼吸をする、さよなら地球、初めまして異世界──!


 ディファレント・ワールド・ウォーズ プロローグ 不運な少年の異世界転移 完


 第一章に続く──


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