第五章「試練2-1」
アフロ月です。
すごく久しぶりに投稿しています。
他作品と違い、灰色図書館は何故かペースを守れないんですよね……。
申し訳ないです、是非楽しんでいってください。
第五章「試練2-1」
波が押し寄せる浜辺で、少年はシュランツと、そして一人の男性と座っていた。
男性の名は浦島。
漁師である彼が、何故浜辺に腰を下ろしているのかというと……。
「すみません浦島さん……。」
「え?……いや、いいんだよ。」
謝る少年に笑って返す浦島。
好青年だなぁとしみじみする少年だったが、シュランツは相変わらず黙ったままだ。
…………まずはこんなことになった経緯を話すべきだろう。
・・・・・・・・・
「ここは……海ですかね?」
「海みたいだね。」
「海ね。」
少年、ネオラ、シュランツは、旅先で天の使いに出会った。
本の試練として、物語の世界に入った三人だったが……そこは所謂、海だった。
海に入ろうとするネオラをなだめつつ、少年は辺りを見回した。
すると……。
「…………ん……?」
数人の男の子が、浜辺で何かをしている。
誰かを取り囲んでいる……?
「何かやってるけど。」
「そうですね……見てみますかって、ネオラさん!?」
少年が答えるより早く、ネオラは駆け出していた。
「こらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
怒号を飛ばし、ネオラは勢いよく向かっていく。
それに気付いた男の子達は、たちまち逃げていくのだった。
「ネオラさん……!」
少年とシュランツが急いで駆け寄った。
ネオラは膝をついて何かを撫でていた。
「可哀想に……大丈夫?」
なんだろうと思い、少年が覗きこんでみると、そこには一匹の亀がいた。
先程の男の子達は亀をいじめていたようだ。
「亀……全く。あの餓鬼どもは……。」
シュランツが舌打ちをする。
いや怖いですって。
・・・・・・・・・
「それで、ネオラさんは亀と一緒に海に……。騙されてなけりゃいいけど……。」
「大丈夫よ。さっきも言ったけど、この物語の展開上、御姉様は竜宮城に行ってるの。」
「……って、言ってましたね。」
物語のイレギュラーを解決するのが本の試練なのだが……ネオラが竜宮城へ行った時点で、既にイレギュラーが起きてしまっている。
解決しようにも出来そうにない。
「待ちますか。」
少年が言うと、シュランツは呆れたようにこう言った。
「はあ……!?貴方、この物語を知らないの!?」
「すみません、記憶無くしてるんで。」
「…………あのね、このまま御姉様は30年位戻ってこないわよ。」
「…………はい?」
「竜宮城と地上は、時間の流れ方が違うの。あっちで3時間過ごすと、こっちでは30年経過するの。」
「うそぉ!?じゃあ、僕たちはどうすれば!?」
「知らないわよ!!」
ワーワーギャーギャー口論する二人。
そんな二人を見て、浦島は一つ溜め息を吐いた。
「……よく分かりませんけど、竜宮城に行くことなら出来ますよ。」
浦島の言葉に、二人は一斉に顔を向けた。
浦島は驚くも、咳き込み提案する。
「えっと、亀を助ければ、竜宮城へ行けるのですよね?それなら、僕がいじめて、二人が亀を助ければいいのでは?」
「なっ…………成程……。」
少年は冷静さを失っていた。と、感じた。
全く自分らしくないな。
「それでいきましょう。」
シュランツの話では、浦島が竜宮城へ行くはずだが……いや、イレギュラーは起きているのだ。
これ以上物語を崩しても何の問題も無いはずだ。
・・・・・・・・・
「浦島さん、お願いします。」
「任せてくれ。」
浦島は近くにいた亀を見つけると、亀を捕まえて不敵な笑いを浮かべた。
「へっへっへ、いじめがいのありそうな亀だぜぇ……。」
「上手いなぁ……じゃなくて、そこの男性、亀をいじめるのはやめないかー。」
「そ、そうよー!!やめさないよー!!」
浦島とは打って変わり、少年とシュランツに演技力は無さそうだった。
棒読みに近い。
「ちっ……なんか気が削がれちまった。」
浦島は亀を放してやった。
そして歩いて岩の陰に隠れる。
「大丈夫かい?亀さん。」
少年が亀を助けた。
という既成事実を作ることには成功した。
これでいい。
『ありがとう。』
亀が喋った。
2回目である少年とシュランツは驚かない。
『……あれ?驚かないの?』
「え。あっ、うわ、亀が喋ったー!!驚きで声も出なかったなー!!」
「そ、そうねー!何この亀すごーい!」
『……まあいいや。助けてくれたお礼に、二人を竜宮城でもてなしたいのだけど、いいかな?』
「ええ!?それは嬉しいなぁ!シュランツさん、行きましょうかー。」
「ええ。是非連れていって!」
『おーけー。それじゃあ、背中に乗ってくれ。』
すると。
亀が大きくなり、背中に乗るよう手で促してくる。
2回目である。
驚くことなんてない。
「行きましょう、シュランツさん。」
「仕切らないで頂戴。」
心の中で浦島に礼を言って、少年とネオラは竜宮城へと向かった。
・・・・・・・・・
絵にも描けない美しさ。
少年はそう思った。
海の中に存在する竜宮城だが、何故か息が出来る。
物語だからなのか分からないが都合が良い。
「そんなこんなで竜宮城へとやってきたわけですけど……。浦島太郎って、こんな話なんですか?」
「……私に聞かないでよ。竜宮城がこんなだなんて、聞いたことないわ。」
竜宮城は御殿のように和風の建物ではなく……未来都市といった言葉が似合いそうだった。
「美しいのは美しいんですけどね……。」
ひきつく顔を抑えられない。
シュランツを一瞥すると、同じような顔をしていた。
亀が網膜スキャンでドアを開けてもらっている。
竜宮城へ入ると予想通り、未来都市だった。
未来都市……だった。
未来都市は…………亀が二足歩行になるのかな。
未来都市は…………亀が銃を持って歩いてるのかな。
廊下らしきところを歩きながら、周りを観察してみたものの……本来の物語とは、かけ離れたものだった。
「シュランツさん。」
「何よ、少年。」
耳打ちする少年とシュランツ。
「これは一体……。」
「だから私にも分からないって言ってるでしょ!?」
『お待たせしました。』
屈強な亀が話しかけてくる。先程助けた亀がこんなことになるなんて……。
大きなドアの前へとやってくる。
『是非、乙姫様に会ってもらいたいのです。こちらへどうぞ。』
大きなドアがゆっくり開くと、そこは大きな広間となっていた。
そしてそこに座していたのは……。
「…………ネオラさん?」
「……あれ?二人とも、どうしたの?」
…………どこかで見た展開になっていた。
こんにちは、アフロ月です。
灰色図書館を読んでいただき大変恐縮です。
いかがでしたか?読みづらくなかったでしょうか。
勝手ながら、灰色図書館は週二ペースにしようかと考えています。
全十三章の灰色図書館は、物語を練るための時間が足りないのです。
楽しみに待ってくださる読者の方には申し訳なく思っています。
それでもと楽しんでくれたら幸いです。