amazing
今回の滞在地はとても寒い。肌に刺さる凍てつくような外気に身をすくめた。背中から伝わるぬくもりが私の足を軽くしてくれる。彼女が起きる前に暖を取ろう。彼女がしかめ面をしないように。
私の努力は実った。しばらく歩くと森に着いた。森の中はいささか温かい。
彼女が起きる前に寝床を作ろう。マントの裏に隠した荷物を取り出し、一つずつ取り出してゆく。二枚の毛布とランプと少しの食料。水だけはないからどこかで調達しないと、
見上げる空は一面の黒。白く小さな光が散らばった世界。アリソンと二人っきりのようだ。それでもいい。彼女を全ての悲しみから守れるなら、それでも、
木の枝を集めてできた焚き火の炎がゆらりとゆれた。風が吹く。それはまるで彼女を起こすように彼女の白い頬をかすめていく。小さく唸ると緋色の目をゆっくりと開け、彼女は目覚めた。
アリソン。彼女の名前である。私の大切な人だ。といっても小さな子どもなんだけれど。
「……ここどこ」
無表情に彼女は問う。眠っている間に違う場所についていることにはもうなれてしまったようだ。不機嫌そうな声で怒っているのがわかる。
「前いたところからずっと北に至るところだよ。ここはあまりにも寒い。もう少し眠りなさい。まだ夜だから」
焚き火がパチパチと音を鳴らす。森はあまりにも静かで暗い。焚き火の火がなければアリソンの目では私の姿も見つけられないだろう。アリソンは燃えるような赤い髪を無造作にかきむしると焚き火の火に手を当てた。
「目が覚めた」
「なにか食べる? あいにく水はないんだ。まだとりにいけてなくて」
「水、あるの」
いたいところをつかれた。どんなに取り繕っても彼女にはばれてしまう。小さな女の子なのに彼女はとても聡明だ。
「……正直わからない。こんなにも冷たいところだと思ってなくて」
小さなため息が胸に刺さった。外の冷気よりも彼女の嘆息のほうが幾分傷つく。彼女に不自由させたくないのに、私はまだ未熟だ。
会話が終わってしまった。アリソンはじっと焚き火の火を見つめて、口を閉ざした。こうなればもう私がいくら話しかけても答えてくれない。彼女の口はマフィアより堅い。
私も眠るわけにもいかず、火に時々木の枝を放り投げ、夜が明けるのを待つ。静かな時間だ。一応動物の危険など周囲に注意を払っているが、襲ってくる気配もない。私たちは迎いいれられたようだ。いつもこうならいいのに。
不意に凛とした声が聞こえてくる。微かな音。目の前の彼女の口が小さく動いている。アリソンが楽しそうに歌を歌っている。無意識だろうか。なんでもいい。彼女の口から漏れる小さな声は私の心を安らかにする。今夜の空はなんて美しいんだろう。
溢れる彼女への想いを空へと昇華する。私には私のできることを。
彼女の歌に導かれたのか、空からは白い贈り物が落ちてきた。それはちらちらと瞳に移ってはすっと消える儚い贈り物だ。無事に私の元におりてきた贈り物は手の中ですっと溶けてゆく。私の体温で溶けてゆく儚く冷たい贈り物。まるで彼女のようだ。
いつの間にか彼女の歌は止んだ。彼女の瞳には白い贈り物がきらきらと移っている。そうか、彼女は見るのは初めてだったか。これは雪というんだよ、そう伝えると、見たこともないような表情を浮かべて彼女は笑った。久しぶりに、彼女の笑顔を見た。
空からの贈り物は人々に幸せを与える。