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第02話 Did the sinner find out hope?―罪人は希望を見出したのか?―

アッシュパイプ村に辿り着き、とりあえずということで宿へ行くこととなった。

第一印象は「神秘的な雰囲気を持った異様な村」。宿へ辿り着くまでに修道着を着た女性や神父らしき男性と何人かすれ違った。どうやらこの村は、何の宗教かはわからないが、そういったものが根強く風習としてあるようだ。

それと。妖精はこの村に多く生息しているようだった。あちらこちらに妖精が果物や花を運んでいる姿をみかけている。アリスにそのことを聞くと、


「この村では当たり前の光景だ。安心しろ、すぐに慣れる」


と、言われた。

案内された宿の一室はとても清潔感が溢れる木製で出来た部屋だった。


「アイン。俺はこれから村長へ仕事の報告をしに行く。しばらく此処で待っててくれないか?」

「わかった」


アリスが部屋を出た後、俺は部屋に置いてあるベッドへ横になった。

『黒妖精』とのやり取りを思い出し、俺は〈魔法〉という力について考える。あの時突発的に発現したあの力。感覚を思い出してみた。

ふっと、目の前に蒼い文字が現れた。あの時は赤い文字だったけれど、何か違うのだろうか。とりあえず現れた蒼い文字の一つに指先で触れてみる。

その瞬間、文字は弾け、空気を一瞬にして凍らせ氷の塊を作った。しばらく浮いていたものの、ゴトン、と重力に従って氷の塊は床に落ちた。

(赤い文字は焔だった。蒼い文字は氷を作ることができた)

目の前に浮遊する文字。次は緑の文字へ触れてみた。――木製の床から一輪の碧色の花が咲いた。

文字の色は、いわゆるイメージカラーというものなのか。焔=赤、氷=蒼、緑=草木、と考えていいのだろうか。

(よし、練習しよう)

出来るだけ短い文字を選び、触れる。別の蒼い文字はやはり氷へと換わる。ここで焔の魔法を使うのは危険だから、今はその蒼い文字の氷の魔法と、緑の草木の魔法を練習することにした。

――わかったことがもう一つある。この魔法という力のさじ加減だ。

その匙加減というものがどうしても簡単にはいかない。氷を作るにしても、花を出すにしても。

氷をつくろうとしてさじ加減を間違えてしまうと、氷は大きな塊になりすぎてしまう。花を出すにしてもさじ加減を間違えると、花は萎れたり強大化してしまう。

丁度いいさじ加減。その感覚を掴まないとコントロールするのは難しいだろう。

何度か試している内に、草木の魔法はさておき氷の魔法ならある程度使い慣れることが出来た。

意識を集中し、目の前に現れる文字に触れ氷を創り出し、形をイメージすることでその形になることがわかった。


「お客様、お食事のご用意が出来ました」


部屋の扉がノックされ、声が俺に向かって尋ねた。扉を開けると、そこに立っていたのは幼い少女。

エプロンをして、お盆の上に幾つかの皿が載っている。


「ありがとう」

「は、はいっ。あ、あのその、お客様は魔法使いなのですか?」


魔法使い――。いや、と、俺は首を振って答えると、少女はなんだかガッカリしたようだった。


「申し訳ありません、突然、こんなことを聞いてしまって……」

「いや。何か在ったのか?」


少女は身体を震わせ、瞳から涙を流し始めた。ポタポタと床に跡がついていく。


「私の友達が、明日、公開処刑に。――彼は何も悪くないのに。ただヒトではないというだけで、死刑に。なんで――」


公開処刑。ヒトではない。死刑。重々しい言葉が次々と少女の口から吐き出される。

とりあえず落ち着くよう促し、話だけでも聞くことにした。そして話を聞いてまとめると、少女の友達という青年はヒトではなく、そのヒトではない者のことをこの村では『異端者』と呼ばれ、存在そのものが邪なる存在として処刑される。

そしてそんな友達を助けたくて、少女は魔法使いを探していたのだという。


「ところで、なんで俺が魔法を使えると思ったんだ」

「……私、魔法を――魔力を視ることができるんです」


少女の目がスッと、不思議な色へ変わる。紫とも赤とも蒼とも黄色とも呼べない、不思議な色だ。


「魔力の流れ、といえばわかりやすいでしょうか……。私の場合は光と線の形で視えるんです。だから、その、お客様の部屋を視た時、わかったんです。綺麗な線と光の流れ――魔法を使っていること」


魔法が視える目、ということか。少女は目を戻すと、俺の手を握った。


「お願いです。彼を、助けてはもらえませんでしょうか」


震えながら、再び涙を流し始めた少女。俺は――アリスのことを想い出す。

勝手なことをしても大丈夫なのだろうか。少女は、絶えず涙を流して震えている。


「わかった」

「ほ、本当ですかッ!?」

「うん。けど、どうすればいいの?その、彼を助けるには」

「明日、公開処刑は行われます。その時に彼を助けます」

「……具体的には?」

「ありません。でも彼を縛っている鎖さえ解いてしまえば、彼は自由になります。彼は私よりももっと強いです。だから、彼の鎖を解いてしまえば、後は『簡単』なんです」


『簡単』――それ程までにその彼という少女の友達は、強大な力を持っているということか。

「けど、彼の処刑を邪魔されないように、村の憲兵団が立ち会ってるんです。彼等を退けなければ近づくことは難しい」

村の憲兵団……?っていうことはアリスもそこにいるということか。しかも妨害行為を防ぐために襲ってくるのか。


「ねぇ、もし彼を助けることが出来て、君たちが助かったとして、それからどうするつもりなの?」

「村には居られなくなります。だから、村を出て、遠い所へ逃げます。出来るだけ遠い所へ」

「そうか、わかった。俺も手助けする以上、この村には居られなくなるし、この村から脱走するまで手伝うころにするよ」

「い、いいんですか?」


俺は頷いて、彼女が持ってきたコップの中に注がれた水を飲み干した。

昼食のはずだが朝食のような食事を見て、俺はその中の一つの皿の上に乗ったフレンチトーストを噛じる。粉砂糖が甘くて美味しい。


「取り敢えず今日のところは、明日に向けてゆっくり休むといい。俺も今日はゆっくり休むから」

「は、はいっ、それでは、また明日……」


彼女に手を振りながらフレンチトーストをかじり続ける。俺は再び魔法に専念することにした。

そういえば、あの『黒妖精』の小屋から持ちだした本には魔法についても書いてあったはずだけど。内容が複雑すぎて理解出来ないけど、まぁ、もっと深く読んでみる価値はあるだろう。





「失礼します、村長」


アッシュパイプ村の村長の家にある一室。アリスは訪れていた。

憲兵団に所属するアリスは、明日、重大な仕事を任されていた。その重大な仕事とは『罪人』の公開処刑の執行だ。

『罪人』とは、この村では『異端者』とも呼ばれている。生まれながらにして魔法とは別の異質、異形の力を操る者のことを指している。『罪人』である者はこの村が称えている守護樹を愚弄する者――そしてリンカーネイションフォレストを侵食するものとされている。

(まだ17歳なのに――)

そう、『異端者』はまだ17歳の青年だ。大きな力を持っていようとも、まだ若い、未来ある青年だ。


「明日のことについてだ。大丈夫なんだろうな?」

「もちろんです。必ず安全に進めます」


その後も村長から色々聞かされたが、全て「ご安心を」で通した。仲間たちも信頼できる者ばかりだ。裏切りを図ろうとする人間なんていない。

(あくまでも、コレは仕事だ。仕事のためにヒトゴロシは仕方ない。仕方――ないんだ)

そのことを俺は痛いほどわかりきっている。


「――それでは、今日はコレで」


そう言って俺は村長の家を後にした。宿へ早く向かおう。アインが待っているはずだ。その後仲間と合流して、明日について話し合うことにしよう。





「アイン。なんだか眠そうだが大丈夫か?」


酷い疲労感のせいで強烈な睡魔が俺を襲っていた。恐らく、魔法の使いすぎのせいだろう。

あれから何度も何度も練習して、ある程度使いこなせるまでになったものの、連続して魔法を使用するとこんなにも疲れるなんて。


「もう寝る」

「そうか。……アイン、明日は一日、宿の部屋に居てくれ」

「わかった」


アリスがそういったのは、多分俺に処刑する時の光景を見せたくないのだろう。俺は別に――たとえ、少女との約束がなくても、そんなの気にしないのだけど。

枕に顔を埋め、うとうとしながら俺は今日起こった出来事を思い出し、整理していく。

記憶を失った状態で目覚めて、出会った青年たちは『黒妖精』と呼ばれる悪い奴らで、魔法っていう力を使って倒して。アリスと出会って、アッシュパイプ村へやってきて。

そして、少女とその友達を助ける約束をして。そして俺は――睡魔に負けて、目を閉じた。

――次の朝。俺が起きると既にアリスの姿はなかった。

直ぐに着替えをして、荷物をまとめ(荷物といっても例の魔法について書かれた本しかないのだけれど)、部屋を出ると少女が待っていた。

その少女の手には背丈よりも高い、おしゃれなデザインの杖が握られていた。


「お、おはようございますっ」

「それ、何?」

「コレは魔法増幅用の杖です。お客様の分も用意してあるんですけど……」

「俺は必要ないよ」


無くたって十分に使えるということが昨日分かったし。それに、そんな背丈以上ある杖を振り回すというのは動きづらい気がした。


「その代わり、ナイフとか無い?」

「短剣ならあります。どうぞ」


少女から手渡されたのは、ナイフというより短剣だった。なんだか綺麗な装飾が施されている。

俺はその短剣を腰に提げていたホルダーに収め、深呼吸をして、フードを深く被った。


「そういえば、キミの名前はまだ聞いてなかった」


少女の方を振り向いて、俺は聞いた。少女はその小さな手で杖を強く握り、言った。


「私の名前は、シーク=マーカーです。お客様の名前は……?」

「俺は、アイン=ノッテだ。――そろそろ行こう。広場にヒトが集まってきてるみたいだ」


広場を窓から見ると、既にヒトが何人か集まってきている。シークもフードを被り、キッと強い眼力で広場を睨んだ。

アリスは……まだ来ていないようだった。出来るならアリスに察知されないように動きたいところだけど。出来るか?いや、やるしかないだろう。

小屋を出て、姿を見られないように人混みの中に紛れる。そして、およそ五分で広場に村人全員と思われる人数が集まった。

そっと前の方へ行き、出来るだけ近づく。


「これより!『罪人』の処刑を執り行う!」


誰だかわからない老人がそう叫ぶと、連れて来られたのは一人の青年。アイツが『罪人』か。それにしても本当に普通の青年じゃないか。彼のどこに非があるというのか。


「三つ数えたら行くぞ」


シークに言うと、彼女は頷き前を向いた。青年は俯いたままだが、その鋭い眼光が覗き視える。


「いち………にぃ………さんっ」


地面を想いっきり蹴り、一足で処刑台まで跳んだ。その早さに付いてこれなかったのか、老人は驚いた顔で俺を見た。

しかし、その反応は遅く、俺の手に握られた短剣は青年を縛り付けている鎖を意図も簡単に引きちぎった。

金属が地面に落ちる音。同時に、肌を舐め回すような異様な空気が襲いかかってきた。

思わず青年から離れてしまう。ゆらりと立ち上がった青年と、そして叫び声をあげる村人。


「ッ何をしている!」


更に背後からの怒声と殺気が襲う。振り向かずともその声の主が一体誰のものなのか瞬時に理解し、青年の腕を取り、顔を見せないようにシークの方へ向かって走った。


「シーク!」


青年の背中を押し、シークへ預けるとフードを被り直し、魔法を使う。――浮かび上がる蒼い文字。指で触れ、その文字が蒼い粒子となって弾けると、指先に氷の欠片が結ぶ。

その欠片を操り、空気を一気に冷やして辺りを一気に冷やす。


「魔法――!」

「〈氷結〉」


文字の意味を口にすることで力が増すことも練習していく中でわかったことだ。二度目、同じ文字を選択する。

しかし、その形は異なり、今度は氷の刃を大量に精製し、憲兵団へとその刃先を向けた。


「〈雷撃〉」

「!」


鼓膜が振動するほど空気が震え、白い光となって大気を疾走る。指先が痺れ、瞬時に防御用の文字を選んだ。


「〈氷結の防壁〉」


氷の壁が盾となる形で出現し、その電撃を受け止めた。しかしその雷撃には耐え切れず、壁は壊れる。

そしてその壁の向こうで、剣を振り上げ立っているアリス=ヴォイス。俺の顔を見て、信じられない、といった表情をしていた。


「白き光の剣よッ!」


俺の背後でシークが叫んだ。振り向くと、シークは背丈以上ある杖を振りかざし、立っていた。杖の先に淡い白の光が宿る。輝くその光に目を細め、アリスの方を再び向いた。


「〈白光の剣〉ッ」


シークの頭上に何本かの白い剣が現れる。それは俺が創りだした氷の刃よりもっと鋭い刃。憲兵団に向かって雨のように降り注いだ。


「アインッ!」


凄まじい怒気を含んだ声を、アリスが叫んだ。再び振り上げられた剣。その刃先から、赤い光が迸る。

赤い閃光はまるで怒りを含んでいるかのような色。ビリッとした痺れが指を伝う。


「なんでッ……なんであの青年を離したッ」

「あの青年が『罪人』?だから死刑?それは間違っているだろう。仕事はちゃんと選んだほうがいいぞ。アリス」


バチン、と何かが弾ける音。と、同時に、アリスの身体が吹き飛ばされる。

俺の背後からの攻撃。振り返ると、そこに立っていたのはシークではなく、あの青年だった。その青年の右手には銀に輝く巨大な剣が握られて――いや、違う。握られてなどいない。青年の右手が銀の剣になっているんだ。


「――うっぜーよ。お前」


それはアリスに向かって言ったのか。俺に言ったのか。わからないが、青年はダルそうに顔をしかめて剣を肩に担いだ。


「勝手に人の死まで決めつけて、そんなに俺が恐ぇのかよ」

「なっ……」


アリスの表情が驚愕と微かな恐怖に染まった。そんなにもこの青年が恐いのか。

青年は振り上げた右手の剣を、元の右手に戻し、その右手でアリスを指さした。その人差し指が弧を描き、その弧が蒼い光を帯びる。


「おい、さっさと行くぞ」


俺の腕を引っ張ると、青年はシークと一緒に走り出した。何か叫びながら急いで追いかけてくるアリスとその自警団の仲間と思われる人たち。

しかしそんなものは関係ないと言わんばかりの足の早さで走り続ける青年。

そして――あの銀の葉が成った大樹の前まで逃げてきた。青年は俺とシークの腕から手を離し、溜息を吐いた。


「ここまで来れば流石にあいつらも追ってこないだろう。おい、お前ら」

「俺は大丈夫だ。シークは?」

「だ、大丈夫です……。それより、イアは?」


イア――青年の名前か。イアと呼ばれた青年を見ると、面倒くさそうな表情のまま、更に深い溜息を吐いた。


「それよりシーク。そいつは何なんだ?」


俺を指さしてイアは言った。俺はその場に座り込み、深い深呼吸をした。連発で魔法を使うとやはり疲労が溜まるようで、疲労感が襲ってきた。

うとうとしていると、イアが俺の頭に膝を置いた。思いっきり乗せられた所為で全体重が俺にかかる。


「一緒にイアを助けてくれるって約束してくれた、アインさんだよ」

「……なる程な。で、シーク。お前これから行く宛はあるのか?」


シークはイアの言葉に身体を一瞬震わせ、反応する。


「無いんだな」

「……うん」


するとイアは俺を見下ろし、平気な顔で言った。


「アイン。お前、これから行く宛はあんのか?」


シークに言った言葉を俺にも言うイア。俺は少し考え込んだ。

行く宛といっても、俺には記憶が無いし、どこから来たか、どこに行くべきなのかもわからない。アリスとこうしてバレてしまった以上、あの村に戻るわけにもいかないし。何処か遠くへ行かなければいけない。

(記憶。そうだ、記憶だ。失くしたはずの記憶を探そうかな)

別に失くした記憶に重要性は感じないが、しかし何もしないよりかは良いはずだ。どこまで行けるかわからないけど、この森に立ち止まっているわけにもいかない。この森を出て、記憶を探す旅にでも出よう。


「行く宛なんて無いけど、失くした記憶でも探しに行くことにする」

「記憶が無いのか?」


俺は彼に、ここまでの経緯を全て話した。別に隠すようなことでもないし。その話を聞いたイアは、シークの方を向いた。


「俺も行く宛なんてないし、お前とその旅に付き合ってやるよ。シーク。お前も行くだろ」

「えっ、あ、うんっ」

「え?」


思いもよらない言葉に、俺は思わずそんな言葉を漏らした。

イアは俺の腕を引っ張り、立ち上がらせると更に前を向いた。俺も彼が向いた方を向く。

森が開け、どこまでも続いていくように思える草原。


「あの草原を適当に歩けばどこかには辿り着くだろ」


そんな適当な言葉を言って、イアは俺とシークを見遣る。


「……行くか」


俺はちょっと憂鬱そうな表情をして、言った。





アインが例の『罪人』と共に村を出て行った。会って数時間しか経っていないが、良い奴だと思っていたのに。裏切った。この俺を、裏切って、――。


「あの青年が『罪人』?だから死刑?それは間違っているだろう。仕事はちゃんと選んだほうがいいぞ。アリス」


あの言葉が脳裏に蘇る。『罪人』、だから死刑は間違っている。この村の掟に対しての疑問を、ああもあっさり言ってのけた。村の外から来た第三者、だからというのもあるだろうが、あの言葉はまるで刃のように、心臓に突き刺さるような痛みを残した。

(まるで、憲兵としての俺を否定されたようだ)


「待てッ!あのバケモノを野放しにしておくのかっ!」


村人の一人が叫び、彼の周りに居た他の村人も次々と叫んだ。悪意の塊。――なんだか醜く視えた。


「あのバケモノはまたこの村に来るだろう!そうなれば、この村もお終いだぁ!」


まるで世界の終わりかのように村人は叫び続ける。神経を逆撫でるような言い方で、まるでわざとらしく。

(……間違っている、か)

確かに、間違っていたのかもしれない。こんな人の命を軽率に扱う村人たちの為に誰かの命を奪う仕事を請け負うのは。


「帝国に戻るぞ」


俺は村人の叫びを無視し、仲間に言い、深く溜息を吐いた。


「彼、道中で遭ったと言っていましたが、何なのですか?彼は。あの魔法は、私の"眼"には映らなかった」


仲間の一人がスッと眼を変え、言った。その眼には魔が宿っている。『魔眼』と呼ばれ、世界にはたった数人しか持っていない特殊な力だ。


「リンカーネイションフォレストで、記憶を失った状態で倒れていたらしい。『黒妖精』を魔法で倒した」

「『黒妖精』は確か、ヒトの魔法は効かないのだったのでは?」


そういえば、そうだ。『黒妖精』は魔に侵食されていても妖精であり――魔力を使用する魔法やその系統の力は効かない筈だ。なのに彼は、魔法で『黒妖精』を打倒した。それは何故だ?


「……とりあえず、帝国に戻って王子に報告するぞ。アインのことも報告する」





草原を歩き始めて数十分程度経った頃、イアはアインに聞いた。


「なんで見ず知らずのやつのために、お前は見ず知らずの俺を助けたんだよ。あのまま、アイツの。シークの頼みを断っておけば、お前はあの村で暮らせていたかもしれないのに」


その質問に、アインは少し不思議そうな顔をして、首を傾げ、考えこみ、顔を上げ、言った。


「――さあ。わからない。けど嫌だったんだ。あんな理不尽な理由で誰かが目の前で殺されるっていうのは」


嫌だし、胸糞悪いし、そんなの見たくもなかったから。アインはそう続けた。

だから、見ず知らずの少女の頼みを聞き約束し、見ず知らずの『罪人』の処刑を止めようとして、実際に助けた。

牢屋の中に入っていたあの頃。死ぬ覚悟はしていた。けれど、結局生かされた。見ず知らずの記憶喪失の青年に。わけのわからないまま、ほとんど成り行きで彼の旅に付き合うことになった。

もう少しだけ生きて、そしてこの青年の歩む先を見てみようか。そのほうが、楽しそうだ。


「ま、どうでもいいか。そんなの」


イアはそう呟いて、微かに笑い、再び前にある草原を向き、歩き始めた。

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