第一話(3)
『何⁉ 今の音!』
音は三階から聞こえていた。
『田中 健太は三階ですね』
『下村さん⁉ どうしたの?』
他の同僚も全員がナースステーションに駆け付けた。
『その子は…』
医師が、少年の存在に気付き、下村に説明を求める。
『あの、いつの間にか入って来てて。
さっきの音は、上の階だと思います』
下村の説明を受け、
『…分かった。 下村さんは、一応この子とナースステーションで待ってて。
私達で、上の階の様子を見てくる』
医師は言うが早いか、ナース2人を連れて上の階に向かった。
『待って-』
『はい! 君もお留守番‼』
駆け出そうとする少年を下村はがっちりと掴み、ステーション前のソファーに無理矢理座らせた。
『いや…危ないって!』
『はいはい。じゃぁ、君の名前は?』
焦る少年を知り目に、下村は何とかこの少年の情報を聞き出そうと試みる。
『日野 彼方です』
『じゃぁ、彼方君。 最初の質問に戻るけど、どうやって入ったの?』
中々の剣幕で下村は彼方に詰め寄る。
『…一階のトイレの窓が開いてた』
『あちゃぁー…』
施錠確認をしたのは下村自身。
完全なる確認ミスである。
『田中 健太はどんな様子でしたか?』
『え?』
『だから。田中 健太の容体はどうだったんですか?』
彼方の雰囲気に、下村は少し不穏な空気を感じ取った。
口調は強いわけではないのだが…
目付きが鋭すぎる。
眉間に寄せた皺のせいで余計にだ。
『えっと…命には別状無いわ。
意識は無いけど、無傷だし』
『無傷…そうですか。 その回復力は確実に《発現》してる』
発現…?
聞きなれない言葉に下村は首を傾げ、
『《発現》って何?』
彼方に問い掛ける。
『《発現者》って、知ってますか?』