第一話
『人間は、面白いよ。
そう思わないかい?』
低く、良く通る声が嫌になる程に心地良い。
『善悪が共存し、感情という電気の化学反応を起こす。
善悪も、酷く流動的だ。
その脆くバランスの悪い生き物が、僕は人間だと思うんだ』
端正な作りの顔に爽やかな笑顔を浮かべる青年は、更に続ける。
『僕の言葉だけ聞けば、僕が人間を貶してるみたいに聞こえるかも知れないけど、それは大きな間違いだよ。
人間は、不完全である事が素晴らしいんだ。
不完全であるから、完全を求め努力をする。 良く言うよね。 努力は報われるって。
必ずしもそうじゃ無いけど、そうならない可能性も否定出来ない』
『…さっきから、何を言ってんだよ』
青年に対面する様に座る少年は眉間に皺を寄せながら、呟いた。
その様子は、不機嫌極まり無い。
『銀字さん。
要件があるなら、早く本題に入ってよ。 また、《奴等》が現れたんでしょ? 場所は何処? どいつを潰せばいいだよ?』
長い前髪から覗く両眼は酷く鋭い。
銀字と呼ばれた青年は、少年の言葉に困った笑みを浮かべ、
『相変わらず、好戦的だね。
あんまり無茶は駄目だよ』
ゆっくりと、珈琲をすする。
『先程、街病院に《不思議な》患者が運ばれたみたいなんだ。
運ばれて来た段階で、既に瀕死だったみたいだけど…
心配だし、見て来てよ』
少年は、すぐに立ち上がる。
『はいよ。 で、死んでたらほっといていいんだよな?
で、生きてて《暴走》してた場合はどうすればいい?』
銀字は、困った笑顔のまま、
『可哀想だから…
楽にしてあげて来なさい』
『了解。 なら、行って来る。
零に宜しく』
言うが早いか…
少年は、扉に手を掛けた。
『待って! 彼方君』
既に半分程、外に出てる少年…彼方に銀字は、
『《発現率》は高くないと思うけど、油断しない様に‼』
心配する様に、近付く。
『…はいよ』
彼方は、足早にその場を去った。