表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カナルデの書  作者: 箱庭
8/56

『神具』─7

Part 3

まだ10歳を迎えて間もない頃、日々の営みがティリシア王国の滅びと共に失われた。

 異界の門へ消える直前に実の父親、ロイ・シルバホーン王の瀕死の状態を目にしている王女。


 色白く生気が失われ、血溜りの中に浮かぶその姿が深く心に残るのか、王女の顔に一滴の涙が頬を伝う。

 月明かりが差し込む一室に、銀の髪が光を照らし返している。


 静かに、辛い思い出からその目を開く姿があった。


「ここは?」


 白き羽毛の柔らかさに包まれた寝具から、清楚な天壁を見上げる。

 自分が何故ここにいるのか、そんな疑問を抱きながら。


「目が覚めましたか? 王女」


 王女の横たわる寝具の右側より人の気配がし、澄ん優しい声が響く。

 上半身を起こして、王女は声のする方へと視線を向けた。


 月明かりの中にコダルが椅子に腰掛け、王女を優しい眼差しで見守っている。


「コダル様?」


 状況が把握出来ない王女は、コダルの顔に安堵を覚えながらも、その目はせわしなく部屋を見渡している。

 そんな王女の姿にコダルは優しく微笑み返す。


「あ、あの? 私は?」


「覚えて……いないのですか?」


 何を言われているのか解らない王女はコダルの問いに頷く。

 コダルはトアルより聞いていた事の一部始終を話始めた。氷地で気を失い倒れていた事などを。


 王女の最後に覚えている記憶。それは、氷地で出会った金色目の男に凍らされた時までだと伝えた。

 コダルは、まだ夜も更けたばかりだと伝え、このまま安心して眠りにつくようにと促した。


 王女は窓の外にある、闇夜を淡く照らす月を眺めた。

 月明かりを浴びて揺らめく銀髪。その姿を眺めていたコダルは、懐かしむように微笑んだ。


「そういえば、王女。随分と髪が短くなりましたね?」


 異界の門に消える10歳まで、王女の髪は腰元まで伸びていた。髪には癖があり、緩やかな丸みを帯ている。

 それが現在は、肩に触れるかどうかの長さになっていた。


 癖だけは相変わらずのようで、昔のままに。


「気付いたらこの長さで……よく解りません。発見された状態のままとの事です」


 照れ臭い様子で、髪を右手でつまんだ。

 久方に見る、昔のままのあどけない姿に笑い声を漏らして、コダルは似合っていると誉める。


 それと同時に、目覚める前に何かうなされていた様子を気に掛ける。


「昔の事を……父上の夢を見ていました」


 余り答えたくない様子で、言葉少なめにその視線を窓の外へ向けた。

 コダルはよく察した様子で、今は眠るようにとだけ言い残し、部屋を後にした。


 扉が閉まる音を確かめた王女は、再び横になると静寂の中、その目を再び閉じた。


「姉上、王女は?」


 王女の眠る一室の扉前で、容態を心配するトアルが待ち構えていた。

 コダルは安堵の声で再び眠りについた事と、目覚めて記憶が無い事を歩きながら話。


「トアル、貴方も明日は早いのでしょう? 部屋に戻り休息を。ここは聖地でもあり、心配には及びません。私は法王の身ゆえ、王女の側には貴方の方が……頼みますよ」


 前を歩くコダルは立ち止まり、トアルを背にしながら話と、通路の奥先へと姿を消した。

 トアルは佇み、コダルの後ろ姿を眺め続ける。その言葉の意味を噛みしめるように。


「同じ事を繰り返す事はない……」


 誓うように漏らした言葉を最後に、用意された自室へと足を向けた。

 イブフルー神殿の建つ氷の大地は、太陽の日差しを受ける事は少ない。いつも曇った厚雲が空を覆い、遮っていた。


 地を這う風が吹雪となり行く手を阻むか、極寒の大地が生命の温もりを奪わんとする。

 そんな光の届かない大地に、空からは薄っすら丸い太陽の輪郭の陰が見えた頃。


 謁見の間にはコダルやトアル、シャトンの姿があった。

 冷えた空気に白い吐息を溢しながら、眠気を払うように扉前で一呼吸おく姿が1人。


 そんな王女を迎え入れるよう、待機していた神官将が、扉輪に手を掛け中へと開いた。


「王女様、中でコダル法王様達がお待ちです」


 来た時と変わらない扉の音が、イブフルー神殿に響き渡る。

 王女は開かれた扉の中へと、その足を進めた。

前回の更新後、プロローグと『神具』の2話まで手直しを密かにしています。

『カナルデの書』の資料画もリンクが可能になりました。早速、貼り付けています。


 新たな『神具』絵を更新しています。カラーは間に合わず; また次回も何か更新したいと思います。

 ここまで読んで頂き、有り難うございました。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ