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カナルデの書  作者: 箱庭
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『神具』─6

Part 3

続く轟音の最中、今までとは比べられぬ閃光が、光の塊より放たれた。

 凶器となっていた氷壁や氷地。衝撃のため粉塵のように消え去り、通り過ぎていく。


 それが最後の咆哮とばかりに、光の塊は獰猛さを抑えるよう、弧が小さくなり始めた。

 先程の事態が嘘のように、氷地は再び静けさを取り戻していく。


「トアル様、先程の光は……」


 トアルとエスフの作り出した防御壁の中から、事の次第を眺め続けていたシャトン。

 先程まで肌で感じていた魔力も、光と共に消え去っていた事に気付いていた。


 トアルもその気配には気付いており、呪文を止めて、先程の光があった方を眺めている。

 エスフはトアル達の足元から離れ、その場所へと跳ね進んだ。


「私達も行くぞ」


 シャトンに静かに言い残し、トアルは氷地を駆け抜ける。

 王女の安否を確認するために。氷地は魔力が及ぶためか、先程の衝撃で失われた部分には、既に新たな氷地が現れ始めている。


 歩幅の違いから、トアルはエスフの側を直ぐに通り過ぎた。

 エスフは後ろに続くシャトンに、飛び移った。駆けるシャトンの肩。


 揺れ動くその上から、エスフは目指す場所を眺めている。静まり返る氷地に、初めて訪れた時と変わらない冷気と氷霧が漂う。

 王女の姿と、金色目の男の姿が見えないという点を除いて。


「トアル様! あそこに!」


 近付くトアル達の前、全てを覆い隠す氷霧の隙間より、氷地に倒れ込む人の姿が見えた。

 銀色の髪が氷地と同じく、光を反射して。トアルは王女に駆け寄ると、その腕の中へ大事そうに引き寄せた。


「王女……」


 声を掛け、体を揺すってみるが目覚める事は無い。ただ、微かな吐息が聞え、鼓動は静かに脈打っていた。

 意識の無い王女。その顔色は、血の気を失ったように蒼白で、血色が悪い。


「トアル様、ティリシア様は?」


 2人を気遣う声。エスフも王女の体に触り、安否を確認するよう顔を近付ける。


「その者は気を失っているだけだ。今はな……」


 心配するトアル達の背後より、感情の抜け落ちた声が聞こえた。

 シャトンはガイラルディアを構えて振り返る。氷霧の間より金色目の男が佇んでいた。


「貴様! ティリシア様に何を! 先程のは貴様の仕業か!」


 詰め寄るように、怒りに満ちたシャトンは、ガイラルディアの剣先を向け男に迫る。

 そんなシャトンに気後れせず、表情も変えずに右手である方向を指差した。


「ここは魔力で作られた氷地。これ以上いてはその命も危うい。早々に立ち去るのだな」


 その指差す方向は、氷霧が道を作り出すように左右に分かれ、扉まで続いていた。


「どうせ貴様の作り出した幻術の類であろう!」


 シャトンの心を映すように、怒りのごとく紅く光るガイラルディア。

 その剣を力強く握り締め、斬りかかった。その刃から、金色目の男は舞うように寸前で交していく。


「シャトン止めよ!」


 そんな2人をトアルの言葉が制止する。王女を腕に抱えたまま、トアルは立ち上がった。

 シャトンが男より離れるのを確認すると、氷霧から現れた道沿いに駆け出していく。


 シャトンは男から目を離さず、暫くしてからトアルの後を追った。


「ふん……。先程の衝撃の中、あの2人が無事だったのは、お前の仕業か?」


 トアルとシャトンが走り去る方向を見届けながら、男は残されたエスフの側に歩み寄る。

 エスフは男を知っているのか、特に恐れた様子もなく、相変わらずの表情を向けたままである。


「キュ?」


 答えにならない顔をエスフから受け取り、男はトアル達の向かった方向へと足を進めた。

 氷地は元の静けさを取り戻している。冷気を帯た氷霧が全てを隠すように、包み込んだ。

絵を更新しています。今度は『神具』のキャラで、次回更新したいと思います。『カナルデの書』を覗いて下さっている方、励みになっています。ここまで読んで頂き、有り難うございました。

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