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カナルデの書  作者: 箱庭
55/56

『赤と黒の大国』─13

part 6

「邪魔しないでよ?」


「え? ミーヴィ?」


 側にいるトゥベルを見返すミーヴィは妖美に瞳を細める。

 その笑う口許は王女の頬に触れた。


 次の瞬間、トゥベルが容赦なくミーヴィの頭を殴っていた。


「痛! この馬鹿っ、本気で殴るな!」


「お前こそ早く離れろ!」


 ミーヴィが王女から手を放すと、トゥベルが直ぐ様割り込む。

 気のせいか、いつも冷静沈着なトゥベルに苛立ちが見える。


 不機嫌そうにミーヴィを睨んでいた。


「トゥベル、何もそんなに怒らなくても。殴るなんて、らしくないよ?」


「お前は知らないからそんな事が言えるのだ。早く元の姿に戻ったらどうだ? ミルヴィンケス」


 先程からトゥベルが名を呼ぶミルヴィンケス。それはミーヴィに向けられていた。

 ミーヴィは立ち上がるとトゥベルから少し離れた。


「何の事? 私はミーヴィよん」


「戯言を。お前の容姿が変わった所で、本質は昔のままなくせに……」


 王女は慌てて2人の間に入り、仲裁する。

 このままではトゥベルが魔法を唱え始めかねない。


 ミーヴィは含み笑いを漏らすと、トゥベルを見遣った。


「本質が変わっていないのはお互い様でしょう? 王女は似ているものねん?」


 一体何の話かと、王女が尋ねようとした時。トゥベルがミーヴィに掴み掛った。

 一触即発の状況に王女はトゥベルの手を振り解き、前に立つ。


「何をしているのトゥベル! ミーヴィは女の子なのよ? さっきのだって、必要なかったのに」


 女性に対して手を上げる者を昔から嫌う王女の目差しは、少し軽蔑を含んでいた。


「あーマジで怒りそうだから、降参するわよん」


「ミーヴィ……?」


 その言葉に振り向く王女。ミーヴィの周囲に白い霧が立ち込め、姿が消えた。

 再び見えたミーヴィの姿。だが、その姿はトゥベルより背が高く、程好い筋肉質な体格をした容姿端麗な男であった。


 変わっていないのは、肩まであるゆるみを帯びた赤い髪と同色の瞳、そして笑顔。

 王女と同じ程の身長をした華奢な少女はどこへ消えたのか……。


「ごめんね? 騙すつもりはなかったんだけど」


「嘘をつくな。楽しんでいただろう?」


 男が発する透き通った低い声。

 混乱する王女の前で再びミーヴィの姿になり、また男に戻って見せた。


「貴方、男だったの? でも浴場へ一緒に……」


「お前、そんな真似までしていたのか……。死ねっ!」


 トゥベルの魔法を交して、噴水の縁に立つミーヴィ。


「じゃあ、ミーヴィもトゥベルと同じ魔物なの?」


「王女、俺はこの姿の時はミルヴィンケスって言うんだよ」


 悪戯っぽく笑い、ミーヴィの名はレブレア王が付けた愛称だと言う。

 トゥベルとは旧い頃からの喧嘩友達だと話すミルヴィンケス。


 更にトゥベルと同様に丸い瞳孔を縦長にしてみせた。

 驚きを隠せない王女に優しく微笑むミルヴィンケス。


「誰が友達だ。お前とはただの腐れ縁。旧い知合いなだけだ」


 呆れ果て、深い溜息をつくトゥベル。

 王女はティリシア王国以外に、神具が人と一緒に暮らしている話など聞いた事がなかった。


 いつからそうなっていたのかと、王女が尋ねると、レブレア国に居た最初からだと答えるミルヴィンケス。

 少女であるミーヴィとして振舞う事で、今まで秘密を守ってきたのだと話す。


 ティリシア王国のロイ王も、そんなミーヴィの正体を知っていた一人だと言う。

 同じティリシア王国の神具、ウィンフィーユも人と一緒に暮らせるのではないかと、考えたらしい。


「それでは何故、父上はウィンフィーユを再び閉じ込めたの?」


 その答えはトゥベルもミルヴィンケスも知らなかった。

 ミルヴィンケスは再びミーヴィの姿に戻ると、建物の中へ戻っていく。


 トゥベルは機嫌が悪いまま、噴水の縁に座り込んでいる。


「お前は本当に何も覚えていないのか?」


「異界の門に消えた後の事? うん……。よく思い出せない」


「そうじゃない。その前だ」


 幼い頃の何が聞きたいのだろうかと、王女が不思議そうにトゥベルを見る。

 だが、トゥベルが尋ねた事はもっと昔の事であった。


「本当に忘れやすい奴だな。私は忘れた事など無かったのに……」


 ミーヴィが口付けしたした部分を指で拭うトゥベル。

 王女の頬に触れたトゥベルの温もりは、とても冷たかった。


 それは人間の容姿をしていても、中身が水属性の魔物だからである。

 何かを躊躇うようにして王女を見る美しい金色の瞳。


「トゥベル?」


 物悲しそうなトゥベルの顔。いつもの嫌味や無表情が消えていた。


「ティリシア様!」


 噴水の方へ近付くシャトンとトアルの姿が見えた。

 トゥベルは一瞥するとその姿を王女の身に付けている魔具、オーニソガラムの中に消した。


「おはようトアル、シャトン。どうしたの?」


 2人の表情が険しい事に王女は気付く。


「先程、魔法の反応がこちらからありましたが?」


「そ、そうだった? 特に何もないけど……」


 不審がるシャトンにごまかす王女。

 唯でさえ、エスフを含めて魔物に対して良い印象のないシャトン。


 先程のようなやりとりは、言えるはずがなかった。


「そうですか……。ランネルセ様が新たな任務を命じられました。これは12騎士全員が赴くとの事です」


「それは……、私も?」


 12騎士の魔具を持つ王女も人数に入っているらしく、ランネルセの元を訪れた一行。

 聖円の紋への攻撃は、各地に散らばる12騎士達も知るところとなった。


 全員、聖円の紋へ戻り始めているとの情報が入ったらしい。

 それならフィラモ神聖国の情報収集も兼ねて、ある場所に集まる事にしたのだと言う。


 その集りは以前からあった話で、もしかしたらフィラモ神聖国の者も現れるかもしれないとの事らしい。

 王属、貴族、権力者達が集まる催し。


 それは聖円の紋から西へ、フィラモ神聖国から東の間にある建物で行われるとの事。

 12騎士達や王女の顔を知る者は少なく、潜入するなら打って付けの人材だとランネルセは話終えた。


 危険を避けるために念のため、変装をして紛れ込むのが計画らしい。

 それでも十分危険だと譲らない2人の騎士。


「そうですが、決めるのは王女です。この催しには当然、フィラモ神聖国のゼルシュタルも呼ばれていると思いますから」


 ゼルシュタルの名前に王女が反応する。

 聖円の紋で戦った男の話が本当なら、許せる事ではなかった。


「私は行く。ゼルシュタルに聞かなければならない事もあるから」


 止めるシャトンとは反対に喜ぶランネルセ。

 その様子から、今回の計画は王女が行く事に何か意味があるらしい。


 何か起これば12騎士達を頼るようにと付け加えるランネルセ。

 王女が12騎士達全員の顔を知らなくても、皆は知っているらしい。


「無理は絶対にせぬようにな。ワシ達は一旦国に戻るが、また会おう」


 ランネルセの元を去って一人、学院の展望台に居た王女。

 レブレア王はランネルセから例の話を聞いたらしく、王女を見付けるとその胸に抱き寄せた。


 側ではナイトナとカルタニアス、ミーヴィが見守っていた。


「王女、お気を付けて」


 黒い甲冑のナイトナは笑顔で王女に別れの言葉を掛けると、立ち去る王の跡を追った。


「君には色々と失礼な態度をとってしまったな。すまない、王女」


 無礼を詫び、王女の手を取りそっと口付けをすると、赤い甲冑の騎士カルタニアスも去った。

 王女は剣の手合せや、王属関係なく接してくれたカルタニアスに心を許す。


「私も暫くはレブレア王の側に居るけど、また直ぐに王女に会えると思うわん」


「ミーヴィ?」


「それまでは元気でね。俺はこんな事しか出来ないけど」


 ミーヴィが再びミルヴィンケスの姿になり、王女の持つオーニソガラムに口付けをした。

 すると、5つある石の内の1つが緋色に染まった。


 それはトゥベルの淡い青色の石と同じように。


「あ、これは契約?」


「王から頼まれたのもあるけど、個人的にもイイなと思ってたんだよね。だから、また後で」


 微笑むミルヴィンケスの手から炎の鳥が創りだされた。

 空に舞う炎の鳥。

 赤く燃えるような髪と瞳を持つミルヴィンケスは、炎属性の神具であった。


 王女の額に口付けするとミーヴィの姿に再び戻り、レブレア王と共に聖円の紋を後にした。

 炎の鳥は誰に気付かれる事もなく、気ままに自由な翼を広げてレブレア国へ戻って行く。


 王女だけに見えた不死鳥。笑顔でその様子を見送っていたという。

残りあと一話分の更新で第6部は完結します。

(2009年12月内予定)


 ここまでお読み頂きまして、誠にありがとうございました。(^-^)

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