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カナルデの書  作者: 箱庭
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『赤と黒の大国』─12

Part 6

聖円の紋の上空を黒い影が横切った。

 飛竜に乗り、颯爽と現れたのはイブフルー神殿のコダル法王とその部下達。


 イブフルー神殿の法王を外で見掛ける事は希であるが、聖円の紋の一大事に同盟国として駆け付けたのだ。


「王女、ランネルセ様はご無事ですか?」


「はい。コダル様の方にも情報が入ったのですか?」


 聖円の紋の建物は大半が崩壊している。

 唯一無事と言える、損傷の少ない学院を今では神官将や騎士達も使っていた。


 学院の中を歩く2人。まだ27歳と若く美麗な女性のコダル法王。

 12騎士のトアル双子の姉であり、王女にとっても幼い頃から慕う姉のような存在であった。


「情報? 王女、あれだけの騒ぎは遠くに居ても立ち煙りや、夜空に相応しくない明るさは見えましたよ」


 イブフルー神殿でも招集に時間が掛かったらしい。

 聖円の紋はパトロド大陸を見渡せるように中心に位置する場所にある。


 それならば、当然フィラモ神聖国やルドイシュ国に見えていてもおかしくないだろう。


「コダル法王まで来てくれるとは力強いの」


 ランネルセの待つ広間への通路途中、カルタニアスとナイトナを従えたレブレア王が待ち構えていた。

 側に居る騎士達とは面識のないコダル法王。2人の騎士をレブレア王が紹介した。


「そうですか、貴方達がレブレア国の団長でしたか。王女をよく無事にこの国へ連れて来てくれました」


 コダル法王も王女を妹のように思っていた。


「王女、昨日はあれから何処へ行ってたんだい?」


 ナイトナが言うあの時とは、ランネルセと一緒に建物から出たあとの事だ。

 神具のウィンフィーユに会っていたとはさすがに言いにくいのか、言葉が詰まっていた。


「王女なら騎士達の手当をしていただろう。ナイトナ、貴様こそ途中で何処へ行っていた?」


 トゥベル達を見ていたカルタニアスは詮索する事はせず、逆にナイトナを問い詰める。

 ナイトナは聖円の紋の何処を見ても居なかったらしい。


 ナイトナは笑ってごまかすだけで、詳しい事は話さなかった。

 怪しむカルタニアスをよそに、ナイトナはレブレア王やコダル法王の側に寄った。


「ナイトナには気を付けて下さい王女。奴は……」


 何かを言いたげにするカルタニアス。

 その言葉は到着した広間を前に聞ける事はなかった。


 扉を開く見張りの神官将達。

 中は既に騒ぎを聞き付けた代表者達で溢れていた。


「おぉ、王女ご無事でしたか! 心配しましたぞ!」


 入るなりレブレア国の大臣の一人、ティリシア王国の大臣でもあった老いた男が近付く。

 その側にはレブレア王の側近の者達やミーヴィも居た。


「姉様! ご無事でなによりです。私、姉様が心配で、心配で……」


 半分、泣きかけの美しい少女が王女に抱きついた。


「レイチェル?」


 驚く王女。レイチェルは大臣に無理を言い、連れて来て貰ったのだと話す。

 癒しの魔法も扱え、少しは役立つだろうと。


「王女、姉様とはどういう事です? 貴女はロイ王の一人娘のはずでは?」


 王女が最初に出会った時と同様の反応を示すコダル法王。

 レイチェルが挨拶をする。隣のレブレア王の説明を聞いて納得したようだ。


 広間の中心、神官将の一人が手にした鐘を鳴らした。

 その音が始まる合図らしく、皆それぞれの席に着いた。


 王女達も用意された席に着く。ランネルセから近い席である。

 皆の挨拶もそこそこに本題へ入る事となった。


 聖円の紋はパトロド大陸にとって平和の象徴のようなものである。

 それが攻め入られた事を不快に思う者や憤慨する者が多い。


 暫くは落ち着くまで、自国の民を避難させるため連れ帰る話まで持ち上がった。

 大国は神具を納めている国を示しており、他の小国や村、町も多く存在している。


 今居るのは、直ぐに来れるような位置の同盟関係の者達であった。

 明日も方々から沢山集まるため、皆の意見を全て聞いてから決めたいとし、ランネルセは最後にしめた。


 終りの鐘を鳴らしても止む事のない話し声。

 レブレア王とコダル法王も色々と積もる話があるようで、同じく席を離れなかった。


「あぁ、煩いなぁ。ティリシア、抜け出さない?」


 隣に座るミーヴィが王女を覗き込んだ。

 退屈そうにするミーヴィは席を立つと、王女の腕を掴んだ。


 引き摺られるようにして広間を抜け出ると、庭の方へ向かう。

 大きな噴水の所まで来ると王女の肩からエスフが飛び下り、水面を覗いていた。


 川の時といい、エスフは水に映る影が面白いようだ。

 噴水の縁に腰かけるミーヴィ。王女はずっと聞きたい事を話した。


「私の正体? 深刻そうな顔をしてるから、もっと違う事と思ったのに。例えば、恋のお悩み相談とかねん」


「恋……?」


「そう! ティリシアは可愛いから、誰か良い人でもいるんじゃないかと思ったんだけど、まだとか?」


 王女の両手を握り締めながら迫るミーヴィ。その気迫に王女は困った顔をする。

 ナルといい、どうして女の子はこうも他人の色恋が気になるのだろうかと。


 王女が返事に困っていると、ミーヴィの手の動きが怪しくなった。

 手から肩へと移動すると、王女を抱き締めてそのまま背中と腰に伸びてきた。


 振り解こうとしても、浴場の時と同じように力強く押さえつけられている。


「ミーヴィどうしたの?」


「ティリシアには想う人はいないのね?」


「ミーヴィ?」


 嬉しそうに声の弾むミーヴィに戸惑う王女。気のせいか、顔がお互い近くなっていた。

 鮮やかな赤い瞳が王女を捕えている。まるで、獲物を狙うように。


「王女には近付くなと、言ったはずだが?」


 辺りの気温が下がり始める。静かにミーヴィを睨む者が佇んでいた。


「トゥベル? どこに行ってたの?」


 ウィンフィーユに逃げられた後、見掛けてからランネルセのすすめで休んでいた王女。

 目覚めた翌朝にトゥベルの気配はなかった。


「私の心配より、自身を心配しろ。いい加減にせぬか、ミルヴィンケス!」


「……ミルヴィンケス?」


 噴水の場所には王女とミーヴィしか居ない。トゥベルは誰を呼んだのだろうか?

 王女を締め付ける手が少しだけ緩んだ。

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