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カナルデの書  作者: 箱庭
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『赤と黒の大国』─11

part 6

扉を開くとランネルセとトゥベル、ミーヴィの姿が見えた。

 そして3人を前にして座り、悪態を付いてるウィンフィーユがいる。


 正確に言うと、ウィンフィーユは仕方なく座っていた。

 目の前の鉄格子のせいで。その鉄格子は魔力が込められているのか、ウィンフィーユには解けないらしい。


 目覚めたウィンフィーユはいつも以上に不機嫌で、王女の姿を見ると更に怒りが増していた。


「王女もウィンフィーユに何か聞きたい事があるのでしょう?」


「ええ、まぁ……。それよりランネルセ、どうして聖円の紋ではガードを備えていないの? それがあれば……」


 女神官将から聞いた事を尋ねる王女。

 ティリシア王国も備えていたが、滅びの間近に相次ぎ何者かの手により破壊されていた。


 もし、それがあれば何か変わっていたのかもしれないと王女は思っているのだ。


「何故って、王女もこの国に出入りする者達の事を知っているでしょう? 隔たりなく、受け入れている国が争うのを前提でそういう物を備えるのは、あまり好みませんね」


 神官将や騎士達も聖円の紋では争う事を前提ではなく、誰かを守るためにと教えられている。

 だが現状はフィラモ神聖国の事もあり、二度とないとも言い切れない。


「この国の事ならランネルセが居るから心配ないわよん。それより、今はウィンフィーユの事をどうするかよん!」


「俺に話はねぇ! さっさと、ここから出しやがれ!」


「それは駄目だな。お前の力を狙う者の中には、フィラモ神聖国の者がいるかもしれんしな」


 王女と離れてからこんなやりとりが続いているらしく、トゥベルはうんざりした様子であった。


「ウィンフィーユ、そういえば怪我は大丈夫なの?」


 酷い有様だった事を知っている王女は鉄格子に歩み寄った。

 トゥベルとミーヴィは元気であるが、ウィンフィーユには未だに疲れが見える。


「ほおっておけ。そいつは治すのを拒んだのだ」


 冷たく言うトゥベル。ウィンフィーユを睨みつけると出て行ってしまった。


「ティリシア、まだ上は大変だった?」


「落ち着いてきたけど、灯りも少なくて大変みたい」


「そう。じゃあ、私もお手伝いをしてこようかな?」


 ミーヴィも去り、ランネルセは扉の前で待っていると言い残し、部屋を出た。

 鉄の扉が閉められ、2人きりになった王女はウィンフィーユの前に座る。


「俺は何も喋らないからな!」


 子供のようにふて腐れた態度のウィンフィーユを見た王女は笑う。

 神具については幼い頃から色々な噂を聞かされていた。


 それは、どれも怖いものだと想像させるものばかりである。

 だが、トゥベル含めウィンフィーユも人と変わらない感情があり、王女は興味深く思っていた。


「変な奴だなお前……。俺が怖くないのかよ?」


「鉄格子の中に居るのに怖いも何もないな。それより、怪我は自分で治せないのでしょう? 治してあげるから……」


 いつまでも塞がらない傷もあるのに、それでも威嚇を止めないウィンフィーユを見て、そう思った王女。

 不機嫌なのは怪我のせいもあるようだ。


 トゥベルなら他人を含めて直ぐに治せる。それに、治そうとしたと言っていた。

 つまり、ウィンフィーユはそういう魔法が扱えないという事だろう。


 側に近付こうと、鉄格子に手を掛けた王女。


「私も治癒が凄い得意じゃないから、初級程度の直に触れて治すやつしか出来ないの。だから、そんな身構えてないでこっちに来てくれる?」


 王女から後退りして、鉄格子とは反対にある壁に背をつけたウィンフィーユ。

 暫く硬直していたが真っ直ぐに見る王女に舌打ちすると、嫌々ながらも元の位置に戻ってきた。


「こんな事をしても、何も喋らないからな!」


 腕を伸ばすウィンフィーユに触れると、魔法を唱え始める王女。

 治癒魔法を使い過ぎて魔力が既に少ししか残っていなかった。


 傷が消えて顔色が良くなり始めたウィンフィーユ。それに対して、王女の方は次第に疲れを見せ始める。

 それは魔法のせいだけではなかった。鉄格子は魔力を吸うようにしてあったのだ。


 王女が気付いて戻そうとした時、ウィンフィーユがその手を掴んだ。


「お前、知っていたな? だから、わざと鉄格子の手前で止まるように伸ばしたのか……」


「要らぬ御節介をやくからだ。この部屋は特殊らしく、防音対策もあるみたいだな。何故、奴がお前だけを残したのか……まさに油断大敵だな」


 ウィンフィーユの金色の瞳が怪しく光った。

 王女の意識が次第に魔力と共に奪われていく。


 やがて瞳を閉じた王女の顔を掴むと、ウィンフィーユは満足そうに微笑んだ。


「王女! 王女、しっかりして下さい!」


 開いた王女の視界が揺れた。そこにランネルセの心配そうな顔が映り込んだ。

 ランネルセの腕から起き上がると王女は辺りを見回す。


「ウィンフィーユは?」


「彼なら逃げましたよ。まさか、あんな所から出るとは思いませんでしたが……」


 ランネルセの見上げた先に見えた空気穴。

 それは鉄格子の中の足場もない高い天井側にあり、壁に不自然な穴の痕跡だけが残されていた。


 恐らく、ウィンフィーユの持つ特殊な爪痕だろう。

 空気穴の先は外界。

 何処へ行ったのかは、もうわからない。


「何かされたのですか?」


「いや、何も覚えていない。魔力はその鉄格子に吸われたみたい。意識を手放す時、ウィンフィーユが何か耳元で言ったような気はするけど……」


 それ以上は思い出せないと王女は言う。2人も地上へ戻った。

 まだ深夜のはずが、聖円の紋は煌煌とした灯りに包まれており明るくなっていた。


 それは、先程までなかったはずの灯りである。聖円の紋を囲むように配置された燭台。

 不思議な事にその炎は誰が薪を焼べる事もないまま、夜明けまで燃え続けていたという。


 王女が魔法による炎だと知ったのは、各国の集まりが始まった頃であった。

残り3話分の更新で第6部は完結します。年内予定です。

 ここまでお読み頂きまして、誠にありがとうございました。(^-^)

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