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カナルデの書  作者: 箱庭
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『神具』─4

Part 3

眼下にある氷刃が砕け落ちた跡を、王女は台座上より眺めていた。

 濃い氷霧が一層、視界を奪い、その様子は白い雲が流れているようだ。


「ティリシア様、ご無事ですか?」


 下よりシャトンの気遣う声が届く。だが、その姿は氷霧に消え、王女の視界には映らない。

 王女は自分の身の安全を伝えると、男の後を追うために一度、台座から降りる事にした。


 辺りを包む濃い氷霧の中へ、その姿が軽やかに舞い、吸い込まれる。

 地に降りた足音をシャトンは確認すると、トアルと共に台座前方へ回り込んだ。


 王女は一段と視界が閉ざされた白い世界に目を凝らし、男の姿を探している。

 王女が足を踏み出す度に、周囲の氷霧が体に纏わりつくのを感じた。


 右手にある白銀の剣を真下に構え、注意深く前方へ男を探すため歩き出す。

 その姿は、氷霧の中へ次第に溶け込むように消えていく。


 王女はそれ程の距離ではないためか、背後よりトアルとシャトンが直ぐに来ると考えていた。

 凍てつく寒さの最中、左腕の傷からは血が凝血し、切口を塞いでいた。


 一面の白と無音の空間が、王女の神経を注がせていく。踏み出す度に自分の靴音が大きく響く気がしていた。


「王女!」


 背後から不意に呼び止める声。振り向くと、氷霧の中より人影が揺らめいる。

 立ち止まり、目を凝らす王女の前に、人影は姿を白の間より見せた。


 見覚えのある白銀の甲冑。12騎士の印である聖円の紋の紋様が刻み込まれている。

 そこから覗かせる顔は麦色の髪があり、その髪と同じ瞳をした青年が王女を眺めている。


「シャトン?」


 見慣れた顔に右手で握る剣の力が緩み、張りつめた空間に強張る顔も元通りに戻った。


「王女、あの男は?」


 シャトンは付近を見渡しながら、氷霧に消えた男を探している。

 王女もまだ、その姿を捕えていない事を伝えると、側にトアルが居ない事に気付いた。


 シャトンは二手に別れて探していてる事を教えて、台座の方へ一度、戻るように促した。

 王女から背を向け、歩き出そうとした時。シャトンの背後で金属音と共に、何者かの強い気配がした。


 ゆっくりと振り向くシャトンの視界に入ったモノは、王女の右手に構える白銀の剣先が、自身の喉元に向けられた姿だった。


「これは? 何の真似ですか?」


 シャトンは白銀の剣先を、手で振り払おうと左手を上げた瞬間。


「動くな!」


 凛とした王女の声が行動を遮った。シャトンは王女の顔を不思議そうに眺める。

 そんな王女とシャトンの間を、何処からか流れる風が強く吹き抜けていく。


 冷たい空間に王女の声が響き渡った。


「トアルなら良かったのにね?」


 王女の目からは冷徹さが感じられ、その口元は笑みを見せている。

 困惑の表情でシャトンは、王女を只只、見つめるばかりであった。

現在、執筆の調子が出ず亀更新になっていますが;連載を止める事はありません。どの程度で更新をしていたかと言うと、1週間に1回でした。

 継続・初めての方も、今後もお付き合い頂ければ幸いです。

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