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カナルデの書  作者: 箱庭
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『赤と黒の大国』─5

Part 6

訓練場を走り回る王女。あれから、どれ程の時間が経ったのだろうか。

 カルタニアスの止む事のない剣技を前に、本当にどちらかが死ぬまで終る事はないのではないかと思える程に。


 自分が止めたいと言えば終わるのだろうかと、意を決したように王女は口を開いた。


「カルタニアス、私はそろそろ終りたいのだが……」


 カルタニアスはその言葉が聞えなかったのか、追撃の手を休めない。

 もう一度、王女が言葉にしようとした時。今度はカルタニアスから口を開いた。


「神具の力は使わないのか? それとも、扱えないのかな?」


 王女の右腕に身に付けた魔具。白銀のブレスレットのオーニソガラムへ狙いを定めた一撃。

 とっさに剣の柄で叩き落し、オーニソガラムの魔力を纏った拳を直ぐ様当てた。


 衝撃が加えられた事により、2つに砕けた剣の刃先は床に落ちた。

 手元に残る残骸にカルタニアスは目を遣る。


「武器破壊かぁ、やるなぁティリシア王女」


 訓練場に不意に聞こえた軽快な声。その方へ振り向くと、扉の前に佇むナイトナとトゥベルが見えた。

 いつからそこに居たのだろうか、ナイトナはカルタニアスの前までやってきた。


「何か用か?」


「王が呼んでたよ」


 また不機嫌そうな顔をして、カルタニアスはその場を去った。

 残された王女にナイトナが気遣いを見せる。


「カルタニアスは悪い奴じゃないんだ。奴の無礼を許してね王女」


 一体どういう事なのかと、王女はナイトナの話を聞いた。

 その頃、階下に空の陰りが見え始めた時。側近達を連れて佇むレブレア王の姿があった。


 王女との約束の場所へ赴こうとしているのだろう。カルタニアスの姿を見付けると、レブレア王は呼び付けた。


「カルタニアス。お前はまだ……そのなんだな、だから……」


 レブレア王がはっきり言えない内容を察したのか、カルタニアスは自ら切り出した。


「今の私には、この国が居るべき場所です。ご安心を」


「うむ。そうか! 王女は成行きゆえ、12騎士の魔具や神具をだな……って、カルタニアス最後までワシの話を聞かんか!」


 早早に側を離れ去るカルタニアス。その姿は再び城内に消えた。

 側近達に促されレブレア王は渋々、丘の方へと発った。


「ナイトナめ、余計な真似を……」


 王は先程の王女との事を知ったのだろう。それを告げたのは恐らく、ナイトナ。

 カルタニアスは忌忌しそうに舌打ちした。程無く訓練場から広間へ移った3人。


「カルタニアスはね、この国に来る前は聖円の紋に居たんだ。しかも、12騎士の候補としてね」


 椅子に座るナイトナ。目の前に座った王女が反応した。


「そうか……。でも、それなら何故この国に?」


 12騎士の候補者がレブレア国で何故暮らしているのかと、不思議そうにする王女。

 だが、直ぐにその理由に気付き顔が強張った。


「そう。どんなに素質があっても、肝心の12騎士の魔具が反応しなくては候補のままで終るしかない」


 その事実がわかった頃にカルタニアスと出会ったレブレア王が、この国にスカウトしてきたらしい。

 それから、5年の歳月が流れているのだと話すナイトナ。12騎士になるための条件は、王女もよく知っていた。


 たとえ希望通りになれなくても、心から聖円の紋に尽したいと残る者も多い事も。

 カルタニアスは12騎士になれない事実に許せなかったのだと、ナイトナは目を伏せる。


 王女に対するカルタニアスの態度は、12騎士の魔具や神具を授かっている王女を見て、ただ過去を思い出しているに過ぎないと。


「それにしても、もう忘れたと思っていたんだけどな……。騎士団長にも就いたし」


 レブレア国では騎士の多さから騎馬術に長けた銀騎士、魔術に長けた黒騎士。

 剣術に長けた赤騎士という風に特化しており、分り易く色分けで現している。


 各まとめ役の団長が存在しており、カルタニアスは実力で赤騎士団団長の座に就いたという。


「じゃあ、この広間は……」


「ここは、騎士団長達が使うために用意された場所。何かにつけては勝負ばかりで、壊れ物はなるべく置かないようにしているから、殺風景だけどね」


 笑うナイトナ。だが、王女はナイトナの正体にも気付いた様で、一緒に笑う事はなかった。


「私は黒騎士団団長のナイトナ。銀騎士団の団長は現在不在でね、王が動かしてる。護るべき王に出張られたら困るというのに」


 ナイトナは暫く笑い続けた後、呼びに来た部下と共に立ち去った。

 先程から無言のままだが、納得した様子のトゥベル。窓からは夕明りが射し込み始めていた。


 気付いた王女は再びお城の外へと向かった。レブレア王との約束の地を目指して。

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