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カナルデの書  作者: 箱庭
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『赤と黒の大国』─4

Part 6

「さすがと言うべきか」


 城内を物珍しく見回るトゥベル。

 並んだ絵画や壺、像などの貴重品を見付けるなり、足を止めている。


 そういう品を鑑賞する事が好きなのか、飽きもせずに。

 王女の方は、価値がどうこうとまでを考える事には興味がない様で、トゥベルを放って散策を再開していた。


 エスフは森で遊び足りないのか、小川で離れたままである。

 少し歩いた先で王女は腰を掛けた。先程からはき慣れない足元の靴を見る。


 昔から華やかな王族の装束はお城を抜け出す度に、民と変わらない格好に着替えていた。

 聖円の紋でもそれなりの装束が用意されていたのだが、敢えて別の格好を選んだ王女。


 レブレア国では、父親の旧友であるレブレア王の厚意で用意されていた装束を身に付けた。

 だが、そろそろ元通りの格好に戻りたいと、痛み出した足を眺めては考え始めていた。


「また君か。そこは座る場所ではないのだが……」


 いつの間にか目の前にまた現れた者。それは、訓練場の扉前で出会った騎士であった。

 不機嫌そうな声に、王女が足の痛みを忘れて立ち上がる。


 よく見れば、座っていた場所には確かに騎士の像とは違う彫物が施されていた。

 恐らくは神聖な場所であろう事に気付いた王女が謝る。


 騎士は休むならと、通路の前を少し歩き出して案内するように振り向いた。

 目が合った王女は騎士の跡をついていく。


「君は、いつまでこちらに滞在されるのですか? ティリシア王女」


 背を向けたまま歩く騎士の問い掛け。そこに、名乗った覚えのない自分の名前が呼ばれ、驚く王女。


「あの、どうして私の名前を?」


「王が騎士団長を召集して話していましたから。今頃、騎士団長から部下達にも伝わっていますよ」


 レブレア王なりの配慮だろうが、また頭が痛くなりそうな話に王女は小さな溜息をつく。


「それで、いつまでこちらに滞在を?」


 どこか邪険そうに聞こえるのは気のせいか。最初の出会い方の仕方が不味かったからなのか。

 相手が王女だと知りながらも、変わらない態度の騎士。


「こちらには行き道に訪れただけで、早ければ明日か明後日には発ちます」


 先を歩く騎士が不意に立ち止まった。辿り着いた先は、立入りを禁止された場所によく似た扉の前であった。


「あの……、ここは?」


 王族の者が到底、立ち入る場所ではないのは明らかで、戸惑う王女。


「私はこういう場所でしか休まないため、まだ時間があるならここの散策は許可しますが?」


 気のせいか、王女に尋ねている質問というよりは、強く迫った意思が感じられた。

 断る事の出来ないままに、開かれる扉の中へ歩みを進める王女。その背後では、扉の閉まる物音が響いた。


 見渡した広間の中は簡素な造りで、中心には大きな机を囲むようにして椅子が置かれていた。

 どうやら本当に休憩する場所らしく、王女は胸を撫で下ろす。


 だが、大勢の騎士達が利用する空間にしては小さくも感じられた。

 その事を不思議に思いながら、椅子に腰掛ける王女の前に差し出された一杯の紅茶。


 同じ物を手にした騎士は壁に立ち寄り、飲み干した。

 暫しの沈黙と、王女の方へ注がれる壁際からの視線。


「君は剣をたしなむと聞いたが、どうかな? 私と一手を組むのは?」


 騎士の誘いは、王女の持て余す時間の相手を考えての事なのかもしれない。

 丁度、散策にも飽き始めていた王女は快く受け入れた。


 少し痛む足は、勝負にと手渡された騎士の装束に着替えれば問題なく動かせた。

 鎖かたびらの格好の双方。トアルから剣術を習っていた時も似たようなものであったと、どこか懐かしさを感じる王女。


「私の名はカルタニアス・メルヴィスター」


 正面、自分の前へ立てた剣先を見ながら名乗るカルタニアス。

 席の奥に用意されていた訓練場で対峙する2人。身構える王女の眼差は真剣だった。


 それはカルタニアスから発っせられる圧迫を肌で感じていたからだ。

 王女が出方を窺っていると、カルタニアスの口許が少し緩んだ。今まで不機嫌そうにしていたのだが……。


 一瞬の事。

 足元に甲冑の物音を残してカルタニアスの姿が消えた。

 風の切れる音に右横へ剣を出した王女。だが、弾かれ、続く喉への剣先に倒れて難を逃れた。


 剣を落すか、致命傷になる部分で止める程度の手合せだと考えていた王女。

 カルタニアスは最初から目的が違うように狙いを定めている。


 ただの気迫と感じていたものが、違うものである事に王女は気付き始める。

 見下ろすカルタニアスの瞳は獲物を捕えるように冷たく、残忍さを宿していた。

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