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カナルデの書  作者: 箱庭
45/56

『赤と黒の大国』─3

Part 6

「王女様!」


 王女とトゥベルが城門を抜けた時、呼び止める声がした。

 若い侍女と小柄な老いた男が2人の前に現れた。


「貴方達は……」


 どこか懐かしく、見覚えのある顔の者達。それは、ティリシア王国が健在の時、お城に居た者達であった。

 その当時、老いた男は大臣を務めており、侍女は幼い王女の世話係をしていた。


 ティリシア王国の滅びの時に難を逃れる事の出来た、数少ない生存者である。


「本当に、よくご無事で!」


 王女の側に駆け寄り、侍女は強く抱き締めた。


「こら、控えぬか!」


 直ぐ様、相変わらず小言煩い大臣の声が響く。だが、その目には涙が滲んでいた。

 あれから、生き残った者達の大半がレブレア国に迎え入れられている事を知らされた。


 今では2人共、幸いな事に役割もそのままでレブレア王のお城に務めているのだと言う。


「ですが、我々はティリシア王国が復興されましたあかつきには、王女のお側に戻りますからな」


 大臣の意気込みに苦笑いを浮かべる王女。


「すまない。私は……、ティリシア王国の復興や王女として生きる事を望んではいない。今は何故国が滅び、父上が殺されたのかを知りたいんだ」


 危ない事は止めるようにと、口を挟む侍女。だが、大臣からは意外にも侍女とは正反対の言葉が聞けた。


「本当に宜しかったのですか? せっかく、戻られた王女様を行かせてしまって……」


 更にお城の奥へ進む王女達の後ろ姿を見送りながら、侍女が不安そうに声を漏らす。


「ふむ。王女が素直に言う事を聞かれるような方でないのは、お前もよく知っているじゃろう? 心配せずともよい。あの頃とは見違えたお姿に、側に居た者は恐らく……」


 それ以上を大臣は語る事なく、務めるべき場所へと戻って行った。

 侍女も去った後、王女達の跡を追う甲冑の足音は止む事もなく、お城の奥へと続いていた。


 内部に構える一際、大きな騎士の像。階段を挟むように2体並ぶ階下から王女が見上げている。


「我等に何か用でも?」


 階段から数本、外まで続く左右に並ぶ四角い石柱の陰から王女の姿を覗いていた人影。

 更に、その背後から声がした。


 振り返る人影の前に、いつの間にか王女の側を離れていたトゥベルが腕を組み、佇んでいる。


「貴方は、レブレア国の騎士ですね?」


 先程まで階下に居た王女もトゥベルと人影を挟むようにして側に歩み寄った。

 2人に気付かれていた事を察した騎士は、足元で甲冑を一つ鳴らして王女に敬礼をする。


「失礼。私はナイトナ・シベルト・ヨーク。ナイトナと呼んで下さい」


 レブレア国の紋章を身に纏う黒い甲冑の騎士は目を細めて笑った。

 漆黒の短い髪に同色の瞳。端整な顔だちの青年だ。その色はレブレア国特有の者の証である。


「そう警戒しないで下さい。私は、ただ可愛い客人を一目見ようと思っただけですから……」


 そう軽快に話すナイトナの視線は王女に絡み付く。

 一気に間合を詰めると王女の両手を取り、握り締めた。


 呆気に取られて声も出せない王女に更に道案内をと、申し出る。


「間に合っている」


 王女とは対照的に冷静なトゥベルが間に入り、断った。その目は少し苛ついていた。


「それは残念。気が変わりましたら、いつでも声を掛けて下さい。お待ちしていますよ」


 相変わらず、笑顔のままのナイトナ。

 トゥベルに睨まれている事がわからないのか、それとも気にしていないだけなのか、お城の上階へと姿が消えた。


「変わった人……」


 ぽつりと呟く王女。格式と礼儀を重んじるレブレア国の騎士にしては、珍しい振舞に驚いたようだ。


「怪しい奴の間違いだろう? 気付かなかったのか? 一目見るだけならなにも跡をつける必要もなかろう。それに、私を女と見間違えなかったしな」


 ナイトナの笑顔の裏に確かな思わくがあった事を示唆され、緩んでいた心を引き締める王女。

 まだ幼い子供頃に訪れた時とは違い、今は神具を身に付けているのだ。


 そこが、たとえ気の安らぐ懐かしい国であっても、何も起こらない保証などは無い。

 先のフィラモ神聖国での一件を含めて。それでも、やはりと王女は溜め息をつく。


「そう疑ってばかりいるから、こんな顔になるのよ」


 トゥベルの能面のような顔真似をする王女。美しい顔が台無しである。


「……お前も変な奴」


 少しも笑う事なく、お城の奥へ続く階段を上り始めたトゥベル。

 無視された王女も静かに元通りの顔に戻して、跡を追った。

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