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カナルデの書  作者: 箱庭
38/56

『ヌーロの遺跡』─10

Part 5

島を照らす日差しが強くなる頃。今日2度目の汽笛がタリゲス島に響き渡った。


「やっと起きたのかい?」


 昼食を取っていた店主の目に、王女のまだ眠そうにしている顔が映り込む。

 店主にすっかりなついていたエスフも王女が側に腰を掛けると、そちらへ移動した。


「それじゃあ、アンタの好きなご主人様の食事も用意しようかね」


 席を立とうとした店主に、付近を見渡していた王女がトアルの事について呼び止める。

 その問いに、姿が見えないのは、王女達より一足先に今朝の船で旅立ったからだと、直ぐに返事が返ってきた。


 目の前に次々と並べられる料理。それらを眺めながら、言葉だけ残し去って行ったトアルの行方を考え込む。

 店主の話によれば、タリゲス島からは潮の流れの関係で東の方へしか行けないとの事。


 東といえば、やはりレブレア王のいる国になるだろう。


 王女も訪れる機会があれば、再び会えるかもしれない。


 支度を終えて店の方へと戻って行く店主を見送ると、出された食事に手を付けた。

 食事を済ませると、早速トゥベルが向かったはずと聞いた遺跡の方へ、足を向けた。


 村の賑わいに比べれば相変わらず人寂しい森。奥に進む度、聞こえていた声も小さくなり、遠のいていく。

 足元に居るエスフは、王女を案内するように前を進む。やがて、見慣れた後ろ姿がその先に見えた。


「……何してるの?」


「……」


「トゥベル?」



「……」


「人の話、聞いてる!?」


「……うるさい奴だな」


 背後からそっと声を掛けたが、中々返事のない様子に回り込み、トゥベルの目を覗き込むようにする王女。

 思えばフィラモ神聖国から随分な態度と言動。さすがに何か言いたそうにしたが、堪えている。


「先程、着いた船でそろそろ出発しようかと伝えに来たのだけど……、迷惑なら私達だけで行くからね」


 廃墟同然の荒れ地に再び何の用かと、様子を覗きに来たのもあった。

 だが、気を悪くしたのか、早々に背を向け立ち去ろうとする王女。


 その様子に、やはり気遣う気は更更ないトゥベル。溜め息混じりに振り返った。


「この地に何故、魔力が溢れているのか、気にならないのか?」


 遺跡に穴があいたせいなのか、現在、確かに微力ながらも肌に感じる魔力。

 恐らくウィンフィーユが残したものだろうと、それもいずれは消えると考えた王女は、休む事なく歩を進める。


 だが、腕を掴まれ、妨げられた。


「先程から遺跡に入っても外に出されていてな。丁度良い、付き合ってもらうぞ」


「付き合えって、中には何もなかったでしょ? それより船が……」


 半強引にトゥベルは王女と共に、遺跡の扉をくぐり抜ける。

 その様子を少し離れた場所から見送るエスフ。暫くすると、同じ場所から2人が帰ってきた。


「あれ? どうして、ここに戻って来ているの?」


「やはり駄目か。それなら、この方法にするか……」


 ウィンフィーユを見付けた時と同じく、薄暗い中に灯がだけが揺らぐ一本道。

 その通路を進んでいたのだが、いつの間にか入り口となる場所へ辿り着いていた。


 何やらブツブツと独り言を呟くトゥベル。その様子にやはり一人で村の方へ戻ろうとしたが、またしても腕を掴まれた。


「ここは魔力が溢れているから、大丈夫だろう。その目で、確かめて来ると良い」


「どういう意味? トゥベル?」


 遺跡に触れる指先。呪文を口するトゥベル。その周囲からは、白い霧が辺りに広がり始める。

 イブフルー神殿でも見掛けたような光景。霧から逃れるようにエスフも王女の肩に掴まる。


 次第に足元から上へ色濃く包み込む霧は、目の前の遺跡や腕を掴んでいたトゥベルの姿も隠してしまった。


「これは? トゥベル、一体何を……?」


 返事のない前方へ手を伸ばして、白い空間を探る。

 次第に濃霧は遠のき、辺りがわかるようになった。


「キュッ」


「どうなって……るの?」


 荒れ地に広がる廃墟の残骸と、遺跡が残されていたはずの場所。

 そこにはルドイシュ国で見掛けた土壁造りに、タリゲス島の船着き場の側で見掛けたような素朴な村が広がり、一際大きな教会がそびえていた。


 恐れて誰も近付かないと聞いていたはずが、王女の瞳に映り込む人々の姿。

 決して多くはないが、賑わいがあるように感じられた。


「この教会にいらっしゃる司教様を紹介しますね」


 辺りを見渡していた王女の耳元に、聞きなれた声が届く。

 若い村人と、この場所には不相応な騎士が通り過ぎる。そして、若い村人は教会の扉先へ姿が消えた。


 立ち止まった騎士は、王女と同じく辺りに気を配っている。


「トアル? この島を出たんじゃなかったの?」


 褐色の長い髪に白銀の鎧。女性と見間違われそうな容姿。

 その見覚えある姿は間違いなくトアルだ。今度は行き違いにならぬようにと、手を伸ばす。


 だが、トアルに触れようとした手は擦り抜けるだけだった。そんな王女に目もくれず、何事もないよう佇むトアル。

 いつもなら誰に対しても律儀に挨拶を交すトアルだが、どうやら本当にわからないようだ。


 困惑する王女。

 その背後で扉が開き、中から人が現れた。

 先程、村人が紹介すると言った教会の主、司教らしい身なりの男性。


 中へと招かれるトアルは、前に居た王女が退き遅れたにも関わらず、ぶつかる事もなく、やはり体をすり抜けていく。

 歩くトアルの後ろ姿を眺めながら、自分の置かれた状況に何となく、王女は気付き始める。


 この島に昔あったはずの村の名前は確か、ヌーロだという事も。

資料画、12騎士シャトンの絵を2枚追加。他、色々と改装しています。


 ここまでお読み頂きまして、誠にありがとうございました。(^-^)

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