表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カナルデの書  作者: 箱庭
3/56

『神具』─2

Part 3

重く冷たい、大きく構えた白扉。その世界に王女達が入るのを確認したコダルは、“前へ”、そう言い残して閉じる隙間に姿が消えた。

 辺りは深い氷霧のためか、前方もよく見えぬ白銀の世界である。


「足元の氷に滑らないのは、コダル様が振り掛けた聖水のおかげ?」


 王女は普通に前へ歩める、足元の氷の大地に驚きを隠せない。

 何度も力強く靴を鳴らし、確かめる。側に居たトアルが、“魔力による聖水の効果”だと聞かせた。


「ティリシア様。進む前に、“これ”をお渡し致します」


 その呼び止める声へ振り向くと、シャトンが銀色の輝くブレスレットを王女へ手渡した。

 それは真ん中に小さな透明石を5つ填め込み、淡く光を放っている。


「これは?」


 手渡された物を不思議そうに眺める王女。トアルは、“オーニソガラムか”と、目を細めた。

 事情をよく掴めない王女に、シャトンが話を続けた。


「ランネルセ様より、ティリシア様にお渡しするよう預かった物。12騎士の魔具が1つ、オーニソガラムです」


 “魔具”と呼ばれる石のような鉱石には、強い魔物だけが残す魔力が秘められている。

 それは様々な形に変えては、使用されていた。中でも希少な魔物程、2つとない代物で、魔力も膨大であるとされている。


「我々の扱う12騎士の魔具は、この世に1つ限りの物ばかり。シャトンの剣柄に填め込まれた緋色の“ガイラルディア”。私の右手指にある指輪の“デルフィニウム”もそうです」


 シャトンの話に付け足すよう、トアルは静かに語る。

 王女のオーニソガラムは、現在空席である12人目の12騎士用の魔具であると。


 12騎士の地位や職務には魔具は必然で、相性の合う魔具を手にしている事を。

 オーニソガラムは最後に残った魔具であった。


「どんな性質が?」


 輝くブレスレットを、王女は右手首に身に付けながら、トアルの顔を覗き込む。

 だが、トアル自身も、その説明をするのが難しいのか、言葉を濁した。


 個々の性質は実際に確かめない限り、解らないのだ。

 ただ、オーニソガラムは12騎士の魔具でも、万能属性で特殊な代物だと噂されていた。


「そう……。なら、先に進もうか?」


 あまり深く考え込むよりは、実際に扱う時がくれば解る事。

 そう考えた王女は、2人の騎士先を歩き始める。シャトンはその様子を眺めながら、側に立つトアルへ問う。


 ランネルセが何故、12騎士の魔具を渡す事を決めたのか。本来なら、普通の人間では魔具の力も引き出せないのにと。


「王女には12騎士の資質は十分にある。心配ない」


 直ぐ様、力強く答える言葉。何か確信でもあるのか、シャトンに優しく微笑んだ。

 トアルは前を歩く王女の方へ視線を戻すと、再び歩き始め出す。


 そんな先行く2人を眺めながら、シャトンは氷霧の包む寒さの中、吐息を漏らした。

 幼少期の頃から旧知の仲である2人とは違い、最近出会ったばかりの王女を、お転婆な方だと認識する程度である。


 だから、トアルがそこまで王女に対して信頼を寄せているのを、改めて思い知らされる事となった。

 シャトンは2人の背中を追うように駆け寄る。進む3人の前には、何処までも氷霧が視界を遮った。


 何がここに存在するのか、見えないままに前を進んでいく。だが、その方向感覚は次第に白銀の世界に失われていった。


「本当に、こちらでしょうか?」


 シャトンは、体温が急激に下がるのを感じ続けていた。そう長くいるべき場所ではないと、吐息の白さが物語る。

 その時、前方に何か光が遮ったような気がした王女は、その方向へ足を向けた。


 近付くと白銀の世界に大人の背より高く、歪な形をした台座が氷霧より姿を現わした。


「何これ?」


 王女は無機質な透明色の台座に手を触れて確かめる。それは冷たく、氷のようであった。


「何でしょうか? トアル様?」


 シャトンも触れて確かめながら周囲を見渡す。トアルも近付こうとした時、静寂の世界を打ち破る声が背後から聞えた。


「何者か?」


 静かに冷たく言い放つ言葉。その声する方へ、一同が振り向いた。

 そこには、1人の男が佇み、3人を凝視していた。白い衣より覗かせた素肌は青白く、長身で端麗な容姿。


 その眼は鋭く、人ではない金色の縦目の瞳孔であった。


「魔物?」


 驚きに満ちた声を先に漏らしたシャトンは、背中に構える剣へ手を伸ばす。

 辺りを冷たい風が吹き抜け、男の銀色にも似た腰元まで伸びた髪を揺らし去った。


「待て! 我々は“神具”にようあって来た。法王も承知の事」


 今にもお互いの距離を縮めて戦いだしそうな、そんな間にトアルの言葉が入り込む。

 制止を促す言葉に、シャトンは険しい顔をトアルに向けた。


「そなた、守護者なのであろう?」


 神具のいる場所に魔物の入り込む余地が無い事を知るトアルは、男に問う。

 王女を守るように佇む2人の騎士。その背後から息を飲み、男の様子を王女は窺っていた。


「何者か? と聞いたのだよ、人間よ」


 男は右手をゆっくり胸元まで上げると、“ラクレット”と唱え、掌を3人に向ける。

 その呪文が辺りに木霊すると、広がる氷地が揺れ始め、轟音を響かせながら先端の鋭い氷が現れた。


 3人を襲う氷の刃に、トアルは避けるよう、その場を離れた。

 シャトンは王女の体を引き寄せ、歪な台座の後ろへ隠れた。


 凶器となった氷刃が、ぶつかりながら砕け落ちる音が響き渡る。

 辺りでは冷気と共に氷霧が包み込み、一同の白い吐息が一段と濃くなった。


 男はゆっくりと歩を進めながら、王女のいる台座に迫り来る。


「ナニモノカ?」


 殺気を帯た残酷な目をして。王女は身に迫る危険を前に、呼吸が早くなるのを覚える。

 鼓動の高鳴りと共に。

『神具』としてのページ数はサブタイトルです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ