表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カナルデの書  作者: 箱庭
28/56

『風の大国』─14

Part 4

アルジュの森とルドイシュ国から離れた位置。陰が一層濃くなる黄砂の山間に、同色の巨体の翼を広げた飛竜が1匹。

 共に旅立つ人間を待っていた。


「シスアさん、ルーシェ……さん。私はこれで聖円の紋へ戻ります」


「“さん”ね……」


「……貴方も12騎士のお1人ですから」


 からかうように含みを入れるルーシェ。怪訝そうにしながらも、シャトンは先輩である目の前の12騎士へ敬意を示す。

 熱烈な包容を止めないシスアを引き離し、飛竜の手綱を引いた。


 ルドイシュ国の司教が手配してくれた飛竜。翼を上下に動かす度、突風と砂埃が吹き荒れる。

 舞い上がるシャトンを名残惜しく見上げるシスア。その呼び声がいつまでも続いた。


 飛竜は高く舞い上がり旋回すると、そのまま聖円の紋がある東方へ去っていく。


「シャトンちゃん、行っちゃった……。どうせなら私も一緒に帰りたいのに」


「……」


 闇夜に浮かぶ星空を見上げ、溜め息混じりに漏らす言葉。

 昼の暑さと違い、夜は急激に冷え込む。体を少し震わせ、恨めしく、睨むように向けた視線。


 そんなシスアをよそにルーシェは広大な砂漠地帯からルドイシュ国を目指し、再び歩き出す。

 深い溜め息と共に、諦め半分のシスアがその後ろに続いた。


「ねぇ? その書簡、なんだったの?」


「……あぁ、またややこしい役目だな」


「だから、それが何かって聞いてるのよ!」


「……」


 その問いに答える事もなく、ただ黙々と歩き続けるルーシェ。側では怒鳴り声がいつまでも続いていた。


「キュ?」


「夜中でも賑わいがあるね、この街」


 すっかり暗くなった夜空と違い、地上を照らす街灯りはどこまでも続いていた。

 昼間賑わう街並みと変わりない様子に、王女とエスフの好奇心が注がれる。


 シャトンと別れ、入り込んだ港街メカル。道端に沿うように木造建てや煉瓦造りのお店が並んでいる。

 外に用意されたテラスには人々の陽気な宴が聞え、その風貌はルドイシュ国と同じく様々な国の者が窺えた。


 皆から立ち寄るにふさわしいと聞いたロップ。その看板を探し、王女は奥へと歩みを進める。


「わ、わわ、そこをどいて!」


「え?」


 背後から若い女の声がした。酷く焦った声色に王女が振り向くと、胸の中へ大きな買い物袋を抱えた少女が飛び込んで来た。

 その反動で地面に倒れ込む。おおいかぶさるよう、少女も上になって。


 その様子を先に肩から飛び降り、難を逃れたエスフが眺めていた。

 辺りには少女から溢れ落ちた林檎や芋など、食糧が派手に散乱する。軽い傾斜のついた下り坂の道であるため、転がる物もあった。


「い、痛ぁ……あ、待って!」


 王女の体が不意に軽くなった。転がる食糧を追い掛けて少女が離れ去ったために。

 暫くその後ろ姿を眺めていた王女。体についた土埃を払いながら、側の食糧を落ちていた紙袋へ詰め直し始めた。


 エスフも手伝うように王女の元へ転がして。


「はぁ、ごめんなさい。拾ってくれてありがとう」


 程なくして、転がる食糧を拾い集めた少女が戻ってきた。だいぶ走ったのか息が荒い。

 全て拾い集めた食糧の紙袋を足元に置き、待っていた王女。その言葉に笑顔を向けた。


「本当にごめんなさい。あの道、坂だから勢いついたら止まれなくて」


「大丈夫だから、気にしないで」


 肩を並べて坂道を下る2人。お互いに大きな紙袋を抱えながら。

 暗闇に映える長い金髪が後ろでまとめられ、少女が笑顔を向ける度に揺れ動く。


 褐色の瞳に映り込む王女とそう変わらない歳の少女。

 その衣服上から身につけた白いエプロンがとても似合っている。


 少女は宿屋の娘である事と、ルドイシュ国のルド祭の影響で増えたお客のために、最近は夜でも食糧の買い付けへ行く事を話始めた。


「ね、旅人さん。名前はなんていうの? 私はナル」


「私はティリシア・シルバホーン。あれはエスフ」


 2人より少し前を駆ける茶色の珍獣を見る。

 時折、珍しそうに立ち止まり辺りを窺う。そして王女達が近付くと、また前を行く。


「ティリシアさんね。泊まる所は決めた?」


「いえ、まだ。ロップという宿屋を探していて……」


 ナルの顔が一瞬驚いたように見えたが直ぐ様、笑顔が戻った。

 一段と明るくよく通る声で、自分の所に泊まるよう勧め始める。


 夜もすっかり更け、王女はその言葉に甘えたいが、ルドイシュ国からの追手がいつ現れるかもしれない。

 そんな理由が思い浮かび、言葉を濁した。だがナルは気にせず王女の衣服を少し引っ張り、坂道をどんどん下る。


「ナル、私は……」


「私の宿屋はこの街1番って言われてるの。お父さんの料理も美味しいし」


 坂道を下り、右の角を曲がると港が近いのか、潮の匂いが一段と強まった。

 街灯の続く煉瓦道を進むと、一際賑やかな場所が1つ。


 陽気な歌声に楽器の音色。人々の行き交う笑い声。ナルはその場所に近付き、王女の方を振り向いた。


「ようこそ。我が家のロップへ」


「……」


 ナルは呆気に取られた王女の顔を楽しむと、有無を言わさず宿の中へ引き入れた。

 木造の軋む音がまた増えた宿屋。1階は酒場らしく、入り込むと強い酒の匂いが漂う。


 2人が通ると、泥酔混じりにナルの名を呼ぶ声が辺りから聞こえた。

 この宿屋の可愛い看板娘の登場に、男達は特に嬉しそうに。


 その間を通り抜け、木造の階段を勢いよく上がり、奥の廊下先の一室へ王女は通された。

 部屋は一際大きく、両扉の開閉で迎入れる。中に入ると、テーブルに生けられた花の良い香りが漂いだす。


 清楚な白で統一されたソファー、クローゼットやベット。

 テラスから時折吹き込む風に揺られるカーテンなど、家具一式が揃えられていた。


「この部屋を使って下さい。宿代は気にしなくていいから。さっきぶつかったのと、荷物を運んでくれたお礼」


「でも……」


「いいから、いいから。荷物を置いたら、何か飲み物を持って来ますね」


 戸惑う王女に、片目を閉じて可愛く合図を送ると、ナルは部屋をあとにした。

 改めて見渡す部屋に、安堵の溜め息が漏れる。深く沈むベッドの居心地の良さに、疲れた体が癒された。


 夜風が心地良く眠りへと誘う。聖円の紋を離れてから気の休まる事のなかった日々。

 エスフも疲れていたのか側で丸まり、おとなしくなった。


「ティリシアさん寝たの? ……ねぇ、ルドイシュ国のルド祭へは行った? 私はここがあるから見逃したけど」


 虚ろな意識の王女の側に静かに座るナル。

 テーブルに置いた、紅茶の注がれたカップからは、湯気が立っている。


 花の香りに混じり、更に良い匂いが辺りを包み込んだ。

 眠気の中、宿屋から聴こえる物音が子守唄のように届く。虚ろな王女を覗き込むナルが語るおとぎ話も同様に。


 ルド祭で時折り、ルドイシュ国と乾いた大地を見守る守護神が見られる話。

 普段は目にする事は叶わないが、その日は特別に現れ民でも拝める事が出来ると。


 普段はお城の奥深くにいて、許された者しか出会えない。

 そこに辿り着くには、アルジュの葉を型どった金色の鍵が必要だと。


 昔から何でも願いを叶えてくれると語られていた。


「その神様の名前ね、イルヴァムール様っていうの。私も会いたいな」


 風を受け、揺れるカーテンから覗いた闇夜に淡く光る星々。

 小さいながも力強く輝いていた。深く寝入る王女の吐息を包むように、風が運び去っていく。

「風の大国」はこれで完結しました。次話、第5部からは「ヌーロの遺跡」が始まります。


 資料画も色々と更新しています。それでは、少し完結秘話。(笑)


 この第4部、第1部を読んでいた方なら、色々と懐かしい名前が登場した事にお気付きかと思います。


 第5部では更に深く立ち入る予定です。新キャラ共々、また読んで頂けると幸いです。


 ここまで読んで頂きまして、ありがとうございました。(^-^)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ