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カナルデの書  作者: 箱庭
24/56

『風の大国』─10

Part 4

「興味深い魔具……だけど、あんまり調子に乗らないでよ?」


「!」


 打って変わった王女とシスアの攻防。猛攻強いるシスアが劣勢になったように思えた時。

 不意に王女の体が少し浮き、そして地面に叩きつけられた。衝撃で周囲に立ち込める砂埃。深く窪んだ地面に、王女がうずくまるようにいる。


 一瞬の出来事に周囲からは歓声が静まり返り、皆息を飲んだ。

 痛むのか体を押さえながら、ゆっくりと立ち上がる王女。その様子を、シスアはただ見下ろしていた。


「(急に体が引っ張られたようだったけど……何も見えなかった)」


「ふふっ、大丈夫?」


 黙り込み、様子を窺う王女。どこまで本気の言葉か、その耳に届く。再び力強く握り締められたオーニソガラムの剣。

 その白銀の刃をシスアに向けて、再び動き出した。素早く窪みから飛び出し、同時に剣を振りかざす。


 聞きなれた金属音が激しくまじりあう。ただ、先程の事を警戒しているのか、距離を取るように間合いを置きながら。

 口許の笑みが止まないシスアに、王女の剣が反応する。一体何が目的というのか、ルド祭に出るように仕向けたのはシスア張本人であるのにと。


「!」


 再び王女を襲う感覚。それに気付いた時には、観覧席の側まで飛ばされていた。

 鈍い物音と共に、破壊された物が辺りに散乱する。なんとか接触する前に、オーニソガラムの防壁で衝撃を和らげ、場外を逃れたが。


 よく見ていたはずが、視界に映らない事に段々と魔力の類かと怪しむ王女。険しい眼差しが向けられるシスアは、槍を横に身構えて佇んでいた。


「さっきの、魔法?」


「さぁ?」


「……」


 とぼけた返事に深い溜め息が溢れる。衣服に付着した砂埃を軽く叩き落とす王女。

 その物音が何度か木霊する中、不意に音が止んだ。次の瞬間、残像を残して王女はシスアとの間合いを一気に詰める。


 先程とは比べものにならない動き。お互いの吐息が届く距離へと迫った時。


「パキスタキス」


 甲高く唱えられたシスアの言葉。それに反応するように、槍が形状を変えていく。

 地面を打ち鳴らす物音と共に、何かが王女の体に巻き付いた。しなるような、頑丈の皮の鞭が。


「っ!」


「ティリシア。貴方の役目、鍵は大臣が握っているわ」


「え?」


 不敵な笑みを浮かべたまま、何重にも巻き付いた王女の上半身の鞭を、勢いよく引っ張った。

 その反動に引き寄せられ、地から足が離れる王女。思わず、シスアに繋がる先の鞭を両手で握り締める。


 だが、体を締めあげながら風を切るように回され、体に食い込む鞭の襲う痛みに、手が一瞬離れた。

 それを狙ったように、シスアが巻き付けた鞭を器用に王女の体から離していく。


 ほどかれ自由を取り戻した体。だが、勢いがついた王女の体は風を切り裂く。

 宙を舞いながら、一際装飾の施された特別席に引き寄せられるよう、迫った。


 視界が目まぐるしく変わる地上と、空を交互に映し込みながら。


「オーニソガラム!」


 装飾の施された煉瓦に接触する直前、王女の声が轟いた。

 やがて間もなく、王女の体ごと受け入れた特別席。鈍い物音と共に破壊された瓦礫が散乱し、砂埃が舞い上がった。



「ぶっ、何事じゃ!」


 その瓦礫下から免れた大臣のワート。

 それでも足の踏みようのない有り様の中に、出来た空間へ座り込んでいた。正確には腰を抜かしたのか。


 視界を遮る砂埃の中、辺りを見回して状況を把握しようとする。そんな中に揺らめく黒い人影が映り込んだ。


「落ち着け。それより、首元が随分と軽くなったようだな?」


 周囲から聞こえる叫び声に比べ、この状況に特に驚いた様子もないらしい、冷めた若い男の声がした。

 その声に聞き覚えがあるのか身を縮まらせ、玉のような汗を酷く顔に浮かべ始めるワート。


「ルベナ様、ご無事でしたか! 先程のは一体……。首元ですか? あぁっ! 無い!」


 体中を叩き触るように何かを探す。周囲を見回しながら瓦礫をどけて、地面にはいつくばるように何かを探し始める。

 そんなワートを見下ろすルベナ。衣の影から、溜め息混じりの低い声がした。


「鍵は私が取り戻そう。お前は逃げた12騎士を探し出すのだな」


「ル、ルベナ様?」


 その声に振り向くと、砂埃に揺れる人影はすでに消えていた。ルベナの残した言葉に、思い出したように12騎士であるシャトンがいる方を振り向く。

 だがそこには、居るべき人影は誰も存在していない。


「誰かおらぬか! 逃げた12騎士を捕えよ! それと、ルド祭に残った最後の2人もな!」


 破壊された壁穴からよく見える地上。

 だが人の姿はおろか、特別席に入り込んだ娘の姿も消えている事に気付いた。


 今回の一件と、神聖なルド祭を台無しにした事への責任。もしくは、12騎士の仲間ではないかと、問い詰めるために声を荒げる。

 城内と街へ繋がる城門を目指し、ワートの呼び声に集まった兵士達を連れ、石畳続く外を目指し駆け抜ける。


 暫くした先。

 会場や受付、街に繋がる4方向に位置する大きな噴水前へとやって来た。そこに見覚えある姿をとらえた。


「おぉ、司教様ではないか! ご無事じゃったか……ところで、一緒にルド祭を観戦しておった若い騎士を知らぬか?」


「はい。彼ならあの出来事に紛れて、ここを通りました。城門へ向かったと思います。私も追い掛けたのですが、途中で見失いました」


「あいわかった。暫く騒がしくなるため、ここにいた方が安全じゃ。行くぞお前達!」


 外の光が続く石畳を大臣と騎士が行く。その姿が見えなくなった頃。

 司教が辺りを酷く気にしながら、受付のある部屋へと入り扉を静かに閉めた。


 その扉越しからは、人々が行き交う物音が忙しなく続いた。ルド祭の主役が誰もいなくなった会場から帰る者。

 先程の騒ぎに恐れて、家路を急ぐ者。ワートのあとを懸命に追う騎士など。そんな外の様子に耳を傾けている司教の背後から、物音がした。


「司教様。それでは、私達はこれで行きます」


 落ち着いた澄んだ声。その方へ、穏やかな笑顔を向ける。

 そして、扉とは反対方向にある大きな外窓へと近付いた。司教が衣服から取り出した鍵を使い、窓を開ける。


 あまり使われていないためか、歪な物音が響いた。


「ここを通れば誰にも見付からず、外のジュブルの森付近まで出れるはずです。お気を付けて……シャトンさんに、ルーシェさん」


 その優しい言葉に頷く2人の若い男。やがて窓を通り抜けて、駆け出していった。

 その背後からは、再び窓が閉められる物音が聞こえた。木々に覆われ、外の日差しを遮る薄暗い石畳の道に、2人の足音が響く。


 街のあるルドイシュ国とは反対の方らしく、駆け進む度に人の声が遠のいた。


「おい、先に言っておくが、貴様を信用したわけではないぞ。あの時、ティリシア様が特別席に入り込んだ時、“逃げるぞ”と、無理矢理連れてこられたが……」


 怪訝な顔で側を走る男を睨みつける。だがそんなシャトンを気にもとめない言葉が返ってきた。


「そのおかげで逃げ出せただろう? ティリシアの事なら、心配はいらない」


「この先を進んで、外にティリシア様がいなければ、どうなるのかわかっているな?」


「ふっ、怖い事だ……」


 威嚇するシャトンに、たしなめる男。

 あの場から逃れ、司教からとりあえず部屋に身を隠すようにと言われ、それに従った。


 何故か一緒にいた兵士の男も入り込み、司教とは知り合いの様子で何かを小声で話していた。

 部屋に残されて待つ間に聞けた事は、“ルーシェ”と男が名前を告げた事だけだった。あとは外で王女に会えると。


 油断ならない側の男ルーシェに、今はただついていくしかない。ひたすら先が薄暗さを増す石畳の先へと。

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