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カナルデの書  作者: 箱庭
23/56

『風の大国』─9

Part 4

「ストック!」


 地上より現れた風の渦は天に昇るような、その範囲を広めながら付近にいた者達を飲み込み、観覧席へ吐き出した。

 術を唱えた者の側へ、渦に捕まらないよう迫る王女。


 王女の姿に気付いた術者は逃れようとするが、その片腕を掴まれて勢いよく観覧席の先に飛ばされた。

 遠ざかる術者に呼応して、渦も付近からおさまり始めた。


「!」


 不意に感じた背後の気配。振り向き様に銀の剣を構える。何かと交えたらしい金属音が煩く響き渡った。

 王女に向けられた刃。長く伸びた細身の槍の先に、見慣れた顔が映り込む。


「シスア?」


「さっきの術者のおかげで私達だけみたいよ?」


 王女は視線だけ動かし場内を見渡すと、シスアの言う通り渦の消え去った後には、2人の姿しか確認出来なかった。

 再びシスアの方へ戻す視線。その刃は交えたままに。


「……じゃあ、これで終りだよね?」


「? 何の事よ?」


「ルド祭で優勝するための“協力”なんでしょ?」


「……」


 交えた刃が不意に軽くなる。王女から槍を引いたシスア。

 元通り体横で構える姿に王女は安堵する。だがそれも束の間、風を切る音が再び王女の耳元で聞こえた。


「どういうつもり?」


「何が?」


 段々と険しくなる王女の目には、再び槍の矛先を向けたシスアが映り込んだ。

 何を考えているのか、笑みが絶えないシスアに王女は後退りした。


「そういえば、シャトンちゃんとは本当にどういう関係なの?」


「え?」


 落ち着き払った声色と打って変わった殺気。シスアは王女の答えを聞く事もなく、槍の攻撃が繰り出した。

 それをなんとか交す王女。シスアの態度に戸惑い、逃げ延びるので精一杯だった。


 地を力強く踏みしめる王女。浮いた体がシスアから距離を置くよう遠のいた。


「シャトンは事情で少し旅した仲間……」


「旅?」


 変わらず一方的に迫るシスア。王女は堪らず剣を振るう。交わる度に金属音の悲鳴が響く。

 そんな2人の攻防に、場内からは歓声が沸き上がった。女性だけ残るルド祭も珍しく歴代初めてだと、どちらが残るのか楽しみにしながら。


 耐えしのぐ王女には、何故シスアと戦わなくてはならないのか、そんな戸惑いが剣に現れる。

 一方のシスアには、握り締める槍から出される攻撃に迷いはない。


「“協力”って優勝するためじゃないの?」


「……戦うのが嫌い? それとも怖いの?」


「何言ってるの?」


 槍の軌道が王女の両手の甲を捕えた。何かが砕ける物音と共に硝子片が地に散らばりだす。


「!」


「魔具“ガウラ”。力を増幅させる物ね。参加者を白線より外や、観覧席に押し出していた力の源」


 出来る事なら、誰かと刃を交す事なく終わらないかと、許された魔具の1つを身に付けていた。

 それを見抜いた事と同時に、的確に捕える槍さばき。警戒を強めるよう間合いを置く。


「……」


「魔具には詳しいから。馬鹿力は使えなくなっちゃったけど、その剣もお飾りかな?」


「……本当に戦う気?」


「手加減なんか必要ないわよ!」


 お互いの刃に力を込め合う。時折風が行き交う地上では、そんな2人を砂埃が姿を隠した。

 攻防を見下ろす特別席から、深い溜め息が溢れる。王女の身に危険が及ぶのを避けたいと、今にも会場へ飛び込みそうなシャトンが。


「まさかシスアさんがいるとは。ティリシア様……」


「あのお2人、シャトンさんのお知り合いですか?」


「はい」


「そうですか、奇遇ですね。ルド祭で女性だけが残るのも、私の記憶では初めてですよ。どちらが優勝するんでしょうね?」


「いえ、それは多分……」


 途中で口をつぐんだシャトン。その様子に、司教は首を傾げた。

 シスアが何者か知るシャトンには、この先の勝者が誰であるかわかるのか。


「はぁっ!」


「っ!」


 競り合うように重なる武器。王女の握る銀の剣が宙に舞う。シスアの巧みな槍先と回転させる柄攻撃に手から弾き出された。

 そんな無防備な王女に向けて、槍先が近付く。王女が身をかばうよう、右腕を前にした時、眩い光と共に槍先を弾く物音が響き渡った。


「! 何?」


「……オーニソガラム?」


 王女を守る盾として現れた魔力の力。シスアは王女の側から距離を置くように身を引く。

 歪む空間の先にいる王女が、魔具を持っていた事に驚いたのか。


「ティリシア。魔具を持っているなら、さっさと使いなさいよ。剣だけで勝つつもりだったの?」


「いや、これは……」


 イブフルー神殿で初めて垣間見た力。だが、王女の意図で発動しているわけではない。

 フィラモ神聖国でトゥベルがオーニソガラムの石に身を隠して以来、魔力の流れにも違和感を覚え抑えていた。


 出来るなら、オーニソガラムの力は借りたくないと、王女は手を引っ込める。

 発動された魔力の壁は徐々に薄らいだ。


 見届けるよう、動かない両者。

 やがてどちらともなく地を蹴る物音。王女は手放した剣を再び掴むために。シスアは決着をつけるため。


 身に迫る槍先を交すように、弾く物音。武器を持たない王女が手を振りかざす度に響き渡る。

 先程のオーニソガラムの力かと、シスアは四方から自在に突き出す。だが風を切るように、何か細長い影が横切り遮るばかり。


 やがて地に突き刺さった剣を抜き取った王女。その剣をシスアへ向け放った。

 勢いよく迫る剣を槍で弾き返す。その一瞬を逃さず、間合いを詰める王女。


 姿勢を立て直すシスアが、槍を身構え受け止める。

 幾度となく重なり合う2人の武器。王女が手放した銀の剣は地に落ちているのに。


「何なのその魔具は? 今度は剣?」


「はあぁぁっ!」


 王女の手に握り締められた白銀の剣。

 手首のオーニソガラムから繋がる鎖と共に現れていた。


 王女が望んだ事なのかわからないまま、ただ目の前にいる敵を倒さんとばかりに。

資料画、以前から絵のリンク先が表示されなかったのを直しています。


 3月上旬中には重要人物に、レブレア王を設置予定です。機会がございましたらご覧下さいませ。


 『風の大国』は、あと5話以内の更新で完結します。

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