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カナルデの書  作者: 箱庭
21/56

『風の大国』─7

Part 4

「誰か、そこにいるのか?」


 周囲の静けさを払う声が、辺りに木霊する。

 城を預かる門兵が、険しい顔で手にした槍を身構えながら、樹々の間に目をこらしていた。


「おい、どうした?」


 その、ただならぬ様子に、同じく手に先端のとがる槍を身構えて、仲間がもう1人、駆け付けてきた。


「……いや、なんでもない。ここ辺から、人影が見えた気がして確かめていたんだが、勘違いらしい」


「そうか」


 歯切れの悪い言葉を残しながらも、2人の門兵は樹々に背中を向け、歩き始めた。門兵の職務に戻るために。

 門兵が遠く離れた時、見回していた辺りの樹木から、葉がヒラリと舞い落ちた。


 王女の口を手で押さえたまま、抱きつくようにして体を引き寄せ、離さないルーシェ。門兵の近付く気配に気付き、樹木上へと逃げ延びていた。


「むっ、んん……」


 その手を振りほどこうと試みる王女。だが、その度に、より強く抱きしめられる。

 樹木を背中にルーシェは、王女の耳元に口を寄せた。ルーシェを背中にする王女は、最初に出会ったアルジュの森と似通った光景であった。


 だが、今は救うためでなく、捕えるために抱き寄せられている。


「ここじゃあ、落ち着かないな。場所を移るか……」


 王女を軽々、片腕で抱き抱えながら樹木の上を飛び移り、城から離れ、やがて街との境目である塀を越えた。

 着地も間もなく、ルーシェはそのまま街の中心地を通り過ぎ、何処かへ移動する。暴れる王女に微動だにしないで、顔色一つ変えずに。


 王女から振り落とされないように、首へしがみつくエスフ。街を行き交う人々の中へ、その姿を消して行く。


「ルーシェ! 離してよ!」


 やがて、街の路地裏から、何処かの建物へ入り込んだルーシェは、そのまま王女を側にあった寝具へ落とした。

 その重みの反動で、軋む寝具。更に重みが加わり、王女の体上に影が伸びる。


「……アンタ、ルドイシュ国と何か関わりあるのか?」


 先程まで殺気を放っていた視線とは違う、褐色の両目が王女を顔を覗き込む。だが、王女を逃さないように両腕をしっかりと掴み、寝具に押し付けている。

 ルーシェの豹変した態度に驚きつつも、間近へ迫る顔に、王女は少し頬を赤らめた。痛みを覚える腕と、息苦しさ。


「わ、私は……」


 王女が口を開き掛けた時。

 部屋の扉が勢いよく、何者かによって開かれ、誰かが入り込んだ。その物音に、2人の視線が向けられる。

 視線を這わせた部屋は木造で、寝具の他にはこれといった物のない質素な造り。


 その間取りと部屋の様子は、今朝まで過ごした宿屋に似ていた。

 2人の元まで迷う事なく進む何者かの足音は、次第に大きくなり、やがて立ち止まった。

 交わる3人の視線。


「“ん?”」


 3人が同じ言葉を口にする。見覚えある顔であったためか。

 寝具に横たわる2人を見下ろす視線。やがて、勢いよくその内の1人を寝具から蹴り落とした。


 王女の体から重みが消え、床下では鈍い物音が1つ。その状況に戸惑う王女。

 体を起こし、寝具から落ちたルーシェを眺め、視線を蹴り上げた者へ戻す。そんな視線に気付かない乱暴者は、そのまま床下に座るルーシェへ歩み寄ると、胸ぐらを掴みあげた。


「こら! 何してたのよ? 随分と来るのが遅かったじゃない!」


 勢いよく揺さぶられるルーシェ。慣れているのか、特に驚く事もなく、抵抗もしない。


「あ、あの……?」


「あぁ? ……あれ? ティリシアじゃない」


 そんな2人へ、か細い声が届く。王女の方へ振り向いた者は、驚き目を見張る。

 甲高い声。

 先程まで一緒であったシスアの姿が、そこにあった。


「何してるの……こんな所で?」


「シスアこそ、ルーシェと知り合いなの?」


 お互いの顔を見合わせる。そんな2人の間に、ルーシェの深い溜め息が入り込んだ。

年内、最後の更新です。お付き合い、有り難うございました。

 来年、2008年〜も『カナルデの書』を、どうぞ宜しくお願い致します。


 中々、資料画の更新が出来ず申し訳けないです;。以前から密かに、個人HPのリンク先を資料画へ掲載しています。


 ご興味を持たれましたら、一度お越し下さい。小説の更新状況も、早目に解ると思います。それでは、よいお年を。

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