表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カナルデの書  作者: 箱庭
16/56

『風の大国』─2

Part 4

「一体、どういう事ですか! ティリシア様を置いてくるなんて!」


 荒らぶる感情を両手に込め、卓上に叩き付ける青年が1人。その目の前に座る神官将を睨み付けている。

 その威圧に耐えかねたのか、青年の方へ顔を向けた神官将は、溜め息混じりに口を開いた。


「だからシャトン、先程も言いましたが、故意ではありませんよ。人聞きの悪い事を言わないで下さい。“置いてきた”なんて」


「一緒に戻っていないなら、同じ事です。ランネルセ様!」


 更にその身構える両手が、卓上を激しく叩きつける。シャトンと呼ばれた青年、この青年は12騎士の1人である。

 そして、そんなシャトンをなだめる神官将は、聖円の紋を束ねる存在、最高神官将ランネルセであった。


 ティリシア王女と同じく、フィラモ神聖国へ国同士の事について赴いていたランネルセ。結局は破談に終り、追われるようにして戻ったのは、つい先程の事。

 ランネルセ不在時、聖円の紋の留守を預かっていたシャトンは早速、ランネルセの元へ出向き、事の一部始終を聞かされた。


 情勢が変わった現在、神具を持つために追われる身であるなら、危ないと、王女の身を案じるシャトン。


「落ち着きなさいシャトン。心配せずとも、神具のトゥベルもいます。そうそう、滅多な事もないでしょう。それより、貴方には新たな任務にあたってもらいます」


「ですがっ……」


「今は12騎士も方々へ散り、こちらから王女を探すより、王女から出会った方が早いのです」


 まだ戻ったばかりの王女だが、旅をしながら見聞を広めるのも悪くないと、首を真横に振りながらランネルセは笑顔で答える。

 そんなランネルセに呆れ果て、シャトンはマントをひるがえし、背を向けた。怒りがおさまらない様子のシャトンに、ランネルセは深い溜め息を溢すと、ある書簡を卓上へ置いた。


 書簡の物音にシャトンは卓上へ視線を戻すと、ランネルセの手中で転がる銀の筒が映り込む。


「それは?」


「これを、ある国に任務で赴いている12騎士へ手渡して欲しいのです。王女の宴後から連絡が途絶えてしまいました。今回はその安否も調べて下さい」


「ある国?」


「ルドイシュ国です」


 両手を組み、その隙間から覗かせる蒼い瞳が一瞬、鋭くなるのをシャトンは見逃さなかった。それ程までに、深刻なものであると事の重大さに気付く。

 王女の宴以来、方々に散った12騎士との連絡が途絶え始めていた事は、シャトンの耳にも入っていた。


「ルドイシュ国へはコダル法王の計らいにより、飛竜で送り届けてくれます。何かあれば、教会で力を貸して貰いなさい。コダル法王の命により、協力してくれるはずです」


「はっ!」


 先程までの怒りが嘘のように落ち着き、12騎士として一礼をすると、ランネルセの元を立ち去った。

 その後ろ姿を見送るランネルセは、腰掛けた椅子より外の様子が映る窓へ目を配らせた。陽が昇り始めた暁の空に、身に纏う白が染まりだす。何かを思い、ただ眺めている。


「とは言っても、やはり心配ですね……」


 聖円の紋の象徴である色、高潔の白さにかためられた執務室で、ランネルセの声が静かに木霊した。


「ね、ルーシェ? 何か祭り事でもあるのかな、この国? 色々な風体をした人達が多いけど」


 アルジュの森を抜け出た王女達は、更に砂埃が舞う砂漠を進んだ先、ルドイシュ国の城門をくぐり抜けた。

 そこで目にしたのは、黄砂を固め造られた土壁の建物が密集する街。通り一帯を押し合うよう行き交う人々。


 辺りには日差し避けの布を作り、外に出す簡単な出店も多い。その肌の違いなどを含め、街は活気があり、賑わいを見せている。

 その人込みの中をはぐれないよう、王女はルーシェの背に張り付くようにして移動する。


「確か、ルド祭の時期だったかな」


「ルド祭?」


 ルドイシュ国は港も近く、様々な移民者が増え続けるのを受け入れていた。その受け入れ先が、この街である。貴族が横行する政治も、この国特有であり、階層が出来上がっていた。

 それは人目につくようにも現している。城付近には住居を許された貴族が密集し、そこから下へ段差をつけた土地に民衆の住居が、更にその下には街が広がる。


 そんなルドイシュ国を治めているのは、先のフィラモ神聖国で国王となったゼルシュタルより更に若い、19歳のルベナ・ルドイシュであった。

 ルベナが王位継承を受けたのは、まだ幼い5歳の時。両親、そして本来なら王位を受け継ぐはずであった兄が他界してしまったため、歳はもいかぬルベナに継承された。


 まだ子供であるルベナは名ばかりの王であり、その周囲では政治への権限を持つルドマラがその実権を握っていた。

 ルドマラに属する者達は、貴族や権力者がほとんどであり、民衆はルドマラ政治に反感を抱いていた。


 そんなルベナも12歳を迎えた頃より、ルドマラ政治に異を唱えるようになったという。

 ルベナ自身は先代から続く、しきたりやルドマラの関与を余り心よく思わず、そんなルベナを民衆の支持が、あとおしするカタチとなった。


 やがて扱いずらくなったのか、ルドマラは真の国王となったルベナに遣えている。ルベナにより変わった政治はいくつかあるが、昔より行うルド祭だけは残し、現在に至る。

 このルド祭はルドマラの娯楽であったが、いつしかルドイシュ国あげてルド(風)を意味する通り、風の神を崇める神聖な祭り事とされた。


 現在では、武に心得ある者達が集まり競い合う場所でもある。毎月、執り行うルド祭には高価な品や賞金も用意されて。


「っ!」


 王女の真横を横切るようにし、現れた男に顔が当たった王女。人込みを掻き分けるように男は、罵声を浴びせながら周囲をしりぞけ進む。


「どけ、どかぬか! 全く何故ワシが……」


「お、お待ち下さい大臣!」


 男の後ろを、武装した兵が追い掛ける。王女に当たった事など気付かないのか、やがて人込みに消えた。

 その様子を、眺める王女。周囲の流れに逆らうよう、立ち止まる王女の側にはルーシェの姿は見当たらない。


「大臣?」


 周囲と異なり、一際身なりの良い男達。その立ち去った後姿を、何か気にした様子で王女は佇んでいた。

9月16日の夜に資料画を新たに更新します。ここまで読んで頂き有り難うございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ