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カナルデの書  作者: 箱庭
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第四部 『風の大国』

Part 4

パトロド大陸の遥か西にはフィラモ神聖国が。更に北西へ進むと、広大な黄砂の砂漠が広がっている。

 照り付ける日差しは強く、砂漠越えは一苦労であった。だから皆、砂漠を避けて海側から、この先に待ち受ける大国へ行くのだという。

 6つ大国の内1つ、風の大国へと。


「はぁっ、しつこいなぁ」


 深い森の中を時折、日差しが入り込む。その日差しを浴びた、肩にかからない程度の銀髪が煌めく。

 肩に丸まる茶色の珍獣エスフを乗せた少女が、息を切らして駆け巡っていた。軽やかに樹木の枝上へ舞い上がり、飛び移る。


 その真下では、樹木をなぎ倒しながら少女を追う紅蓮の巨体が1体。深い緑目で、その姿をとらえながら、引き離そうとするこの少女、ティリシア王女である。

 フィラモ神聖国から神具を持つために追われた王女。エスフの空間移動の術により難を逃れ、城から黄砂の砂漠へと降り立った。


 その後、彼方までの砂漠をとりあえず、夜中、ずっと歩き続けていた王女。陽が昇れば夜の陰もなくなり、体力の消耗が激しくなるために。

 幸いであったのは、方角が解らず進んだ砂山を2つ越えた時、緑広がる森があった事である。森が生息する地なら、水場も近いと考えた王女は、足を踏み入れた。


 丁度、陽も昇り出し、森に明るさが取り戻されていく頃。長時間、歩き続けた王女は、暫く仮眠をとる事に決めた。そして、森の拓けた辺りを見つけて、その巨木の幹に横たわった。

 聖円の紋から旅立った後。色々と事情が重なる事も多く、疲労がその身に残るためか、エスフが顔を覗き込むのを気にせずに。


 目を閉じた王女に、暫し頬ずりをしていたエスフ。やがて、王女の胸元でおとなしく丸まり寝ついた。それから少し時が経った頃。

 森の静寂が、鳥の一斉に羽ばたく物音と共に失われていく。王女達の方へ、低い振動が地を這いながら。


 森全体を震わせ、樹木をなぎ倒す地響き。その異様な物音に気付いた王女は、重い眼を静かに見開いた。

 まだ、おぼろげな視界で、迫る振動の先へ目をやると、深い森の間を何かがうごめいている。


 心地良さそうに眠るエスフを両腕に抱え、その場からゆっくり立ち上がり、目を凝らす。

 そんな王女の目先、禍禍しい気を放つ魔物が、樹木の倒れる地響きと共にその姿を現した。同時に雄叫びが辺りを、つんざく。


 その声に両耳を塞ぐ王女。まるで、肌を駆け抜ける電流のような声に、驚きを隠せない。

 その燃えるような紅蓮の身。何も映さないような闇の瞳。身の丈が倍はある巨体を、息を飲み眺める。巨体が動く度に辺りも揺れ動いていた。


 そんな中、巨体の魔物と目が合った瞬間。2本足で佇む魔物は、手を地に着けて4本足として王女に迫ってきた。

 巨体とは思えない素早さに驚きながらも、王女は直ぐに樹木の上へ飛び移った。


 その瞬間。


 凄まじい衝撃音と共に樹木の幹へ、巨体の頭がめり込んだ。衝撃で振り落とされないよう、枝をしっかり掴む王女。眼下では巨体がまだ動く。

 難を逃れた王女は、そのまま樹木の上を移動して、今に至る。移動の途中でエスフも目覚めながら。


 戦うには身の丈が違い過ぎる魔物を前に、何の装備もない王女は、なす術がなかった。魔法も扱えれば良いのだろうが、昔から剣術ばかりで、覚えたのは回復術や補助魔法のみである。

 トゥベルと契約を交して以来、その魔力の流れ自体も、何かおかしい事に気付いていた。暫くは使わない方が賢明だと悟りながら。


 残された道は逃げて身を隠すのみ。だが、この魔物は思ったよりも素早く、王女の追跡を止めない。

 さすがに1時間も追いかけごっこをする気もない王女は、段々と表情が険しくなってきた。何か別の方法で追い払うしかないと。


「なっ!」


 枝を飛び移る王女。

 その何本目かの時、くち果てた枝に気付かず折れてしまい、足をとられてしまった。

 傾く身に、迫る魔物が両腕を開く。触れる間近までの距離、王女の険しくなる視線が魔物と交差した。


 衝撃音と共に、辺りは粉々になった樹木が散乱し、砂埃が舞い上がる。


「グ、グガァァ!」


 歪む口許から、よだれを垂れ流す魔物。なおも付近の樹木をなぎ倒しながら。その散乱する中、王女の姿は何処にも見当たらない。


「これを塗れば、アイツに気付かれないよ」


 後ろに長い金髪をひとまとめした青年が、胸元に抱く少女の顔へ右手を近付ける。

 その透き通る褐色の目には、驚き声も出せない少女が映り込む。気にせず、手の甲と青年は何か透明な液体を塗る。


「何これ?」


 我に返った王女。塗られる液体は冷やりとしたが、すぐに乾き、匂いもしない事に気付いた。

 少し離れた樹木の枝上で、魔物を見下ろしながら青年は、なんとも優しい眼差しを向ける。


「これはアルジュの液。この森に生えるアルジュの樹木から採れるもの。人間には無臭だけど、この森と同じ匂いの状態になるんだ。あの魔物はブッドレア、匂いに人一倍敏感なだけさ」


 猛り狂うブッドレアを前にし、微動だにしない青年の澄んだ声。旅の者にしては、ただ者ではない、そんな印象を王女は受けた。

 ブッドレアに目はあるものの、実際にはあまり見えておらず、嗅覚で匂いを辿るのだという。


 確かに、暫く暴れていたブッドレアは、王女の匂いを見失ったためか、段々と遠ざかっていく。森に静寂が再び戻り出し始めた。


「……ところで、いい加減、手を離してくれると嬉しいんだけど?」


 少し頬を赤く染めた王女。その青年を眺める目はどこか不満気である。丁度、抱えられた青年の左手に王女の胸が触られているためか。


「ん? あぁ……」


 そんな王女に対し、別に気にする様子もなく、青年は手を離す。振り返り、睨む王女。

 肩に乗るエスフは、何故か男になつき、飛び移っていた。改めて眺めると、はおるマントの下は旅人か、防具をそれなりに身につけている。


 腰には、王女と魔物がぶつかる瞬間に助け出した皮の鞭が役目を終え、丸まりおさまっていた。


「危ない所を助けてくれて有り難う。私はティリシア・シルバホーン。そっちはエスフ。道に迷っていたの。ここは、どの辺りか解る?」


 じゃれるエスフを可愛がる青年は動物が好きなのか、嫌な顔一つ見せない。

 流れるような長いまつ毛に、二重。顔立ちも悪くなく、物腰も柔らかい印象が残る。


「俺はルーシェ。ここはアルジュの森。そして、ルドイシュ国の領土内だよ。あのブッドレアはルドイシュ国にしか生息してないからね」


「ルドイシュ国? そんな遠くまで……」


 遠くで鳥の鳴く声が響く。

 アルジュの森からルドイシュ国は、さほど遠くないという。ルーシェによれば、ブッドレアの群れもアルジュの森では集中しているとの事。

 ルドイシュ国へ向かう途中のルーシェと、何処かの街へ立ち寄りたい王女。2人は共にルドイシュ国へ向かう事にした。


 ルドイシュ国は、カナルデの書に記されている6つ大国の1つであり、またの名を風の大国と呼ばれている。

 聖円の紋、フィラモ神聖国より遥か北西に位置する大国であった。

第四部の連載が始まりました。資料画が全然間に合わず、申し訳けありません;。


【現在の予定】


・ランネルセ(第三部)

・レブレア王(第三部)

・これからの新キャラ

・シャトンのカラー画

・王女(第四部)

・風景

・その他



 溜っていますが、コツコツ描きたいと思います。それでは、ここまで読んで頂き有り難うございました。

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