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カナルデの書  作者: 箱庭
12/56

『神具』─11

Part 3

夜も白々明け、朝霧が辺りを包む刻。

 王女達を乗せた2台の馬車が、幾人かの騎士を伴いながら、フィラモ神聖国へ向け出発した。


 聖円の紋からフィラモ神聖国へは、早馬でも約20日の距離である。

 6つ大国の王女と王子の婚約話は、幼い頃にロイ王が交していた事であった。


 双方が年頃になる頃、改めて取り計らうと決めていたらしい。

 国のない王女を気遣ってか、少し早いが身を寄せるなら、フィラモ神聖国でとの申し出である。


 フィラモ神聖国の王子である、ゼルシュタル・クーベル。

 若くして、見聞を広めるために12歳の頃に別大陸へ渡っていた。


 6つ大国の内、フィラモ神聖国は特に内密に進める事が多く、他国の干渉は避けている。

 ティリシア王国が失われたのを機に、聖円の紋の干渉さえ許さなくなっていた。


 時折、神具について12騎士が訪れようと、フィラモ神聖国は門前払いの状態である。

 ランネルセは今回の用向きついでに、内情を探りたいという思惑があった。


 王女は婚約話は断る事を決めているが、暫く協力する事にした。

 フィラモ神聖国へ正式に訪れるのは初めてでもある。まだ見知らぬ王子の顔や、国に興味を持っているのも事実だ。


 フィラモ神聖国の王子については、レブレア王やコダルも皆無で、いつ別大陸から戻ったのかさえ知らない。

 ただ、歳の頃は王女より6つ上で現在は23歳。そして、12歳まで王女同様に時折、聖円の紋へ訪れていたそうな。


「ここがフィラモ神聖国?」


 揺れる馬車の窓から顔を覗かせた王女。

 その眼下には、白く高い城壁で囲まれた城下街が見え始める。


 直ぐ側には砂漠も近いため、黄砂が混じる岩肌の道を通りながら、フィラモ神聖国へと近付いていく。

 城下街の更に先には、高さのついた丘上が覗き始め、そこにフィラモ神聖国が構えている。


 パトロド大陸の中では発展の著しい場所でもあり、珍しい魔具などを取り揃えている。

 現在、情勢が変わった事もあり、聖円の紋では12騎士が各地に散らばりながら、情報を集めている。


 王女が聖円の紋に着いた時。トアルの姿も既になく、次の任務のために離れた後で、出会う事は無かった。

 シャトンはランネルセの命により、聖円の紋を守るため居残り離れている。


 駆ける早馬がその速さを緩め始める。フィラモ神聖国へ入った王女達は早速、城へ向かう事にした。

 堅く閉ざされた城門の前。待ち構えていた案内役は、招かれた当人のみ直接内部へ進む事を許した。


 王女達はそれに従い、騎士を城門前に残して進む。


「ティリシア王女様には別の場所にて、ゆっくりとお会いしたいとの事です。こちらへ、よろしいですか?」


 赤い絨毯が道を作り出す上に、風体の良い男が王女の前に佇む。

 ランネルセ達の側には別の案内役がいる。少し戸惑いを見せた王女に、男は足を止めている。


「王女。私達とは、また後で会う事にしましょう」


 ランネルセがそんな王女の背中を押すように、笑顔を向ける。

 レブレア王とコダルも頷くと、王女から離れ、案内役と共に通路奥へ消えていった。


 肩に乗るエスフが、王女の顔を覗き込むように側を離れない。

 見送る王女の背後で男が再び声を掛け、歩き始める。その後ろを渋々、王女も歩き始めた。


 城の内部は弧を描くような高い吹抜けの天井があり、一面に繊細な彫刻が施され、白で統一されている。

 聖円の紋とはまた違う華やかさがあり、歩く度に魅了されていく。


 前を歩く男に気付かれないよう、右腕にあるオーニソガラムをそっと眺める。

 聖円の紋を出る時に、トゥベルから聞かされた話を思い出していた。


 神具は人間として実体を持つ事もあれば、召喚する事も可能だと。

 オーニソガラムに填め込まれた5つの石の内、1つが青さを増して光輝いている。


 トゥベルはフィラモ神聖国に入る前、その姿を石の中に隠していた。

 まだ神具のトゥベルが王女の手に渡った事は公に明かされておらず、慎重に考えたのだ。


 ランネルセも今回の用向きはもしかして、あらぬ方向への画策かもしれないと考えている。

 王女に覚悟をして入るように、あらかじめ伝えていた。


 何故そう言うのかは、6つ大国の中でもフィラモ神聖国は、昔から神具をその手中へ全て納めたいと願っていたために。


「ここでお待ち下さい。中は神聖な広間のため、身に付けられている武器はお預かり致します。城を出る際、お返し致します」


 程なく、広間に繋がる扉前まで辿り着いた。広間は教会でもよく見られる像があるだけで、質素なくらいである。

 これといって特に怪しい箇所もなく、しきたりの一貫だと考えた王女。


 渋りながらも、剣を納めた鞘を腰元から外し、男に手渡した。

 受け取った男は笑顔を絶やさず、王女が中に入るのを確認すると、その場から立ち去った。


 男の靴音が広間から離れるのを聞きながら、王女は1人、像の前で佇んでいる。


「これは何のつもりですか?」


 コダルの険しい顔が、目の前に佇む男へ向けられる。王女と別れた後、3人は広間に通された。

 そこに用意された席へ座ると、案内役の男と入れ替わるようにして、1人の男が現れた。


 その背後に兵達を引き連れて。ランネルセ達の周囲を囲むようにして並んだ。

 男は“スペリオス”と名乗り、紙と筆を静かに3人の前へ置く。


 端整な顔だちと、金髪の髪から覗かせた瞳はどこか冷めていて、血のように赤い緋色である。

 そして、3人の顔を交互に眺めながら、ある申し出をした。


 それを受け入れ、快諾の印を紙にしたためるよう促す。

 言い終わるのを見計らうように、周囲の兵からは武器を構える物音が一斉に響き渡った。


「私はゼルシュタル様の側近の1人です。この言葉は、ゼルシュタル様からのものと受け取って頂きたい」


 スペリオスは淡々と言葉を紡ぐ。その間も周囲に身構える刃の矛先は、3人に向けられたままである。


「急な事じゃな。しかも申し出のわりに、わしらに向ける刃はまるで脅しじゃな。到底、和議とも思えん」


 周囲の兵に怪訝な顔を向けるレブレア王。言い終わると同時に席を立ち上がった。


「そうですね。神具を渡せだの、今後一切の干渉もしないようにだとか。戦争でもしていたら、無条件降伏みたいですね?」


 微笑む姿は相変わらずのまま、レブレア王と同様に立ち上がり、ランネルセは手にする杖をその身に引き寄せた。


「クーベル王はご存じなのですか? このような事、許したとは思えませんよ?」


 コダルも用意された紙にしたためる気にもなれず、立ち上がり、スペリオスと対峙した。

 立ちはだかるその様子を眺めながら、スペリオスの口元だけ不気味に歪んだ。


「現国王はゼルシュタル様にあります。先代は病魔に蝕まれており、ティリシア王女の宴が催された頃、お亡くなりになりました」


 クーベル王の具合いが悪い事は昔より知れていたが、急な訃報を聞いた3人は驚きを隠せない。


「ゼルシュタル様の申し出を受けて頂きます。ここから逃れるのは、そう容易くありませんよ?」


 スペリオスの言葉と同時に、広間の中心から足元の床へ淡く光る緑の紋様が浮かび上がる。


「これは……ガードの呪文?」


 床だけではなく、横壁から天井まで、這うよう現れる。

 直ぐ様、レブレア王は腰元に備えた剣を抜き構えた。


「これは、フィラモ神聖国が新たに作り出した強力なガード。魔術に長けたランネルセ様でも、破るのはそう容易くはありませんよ? 剣豪であるレブレア王も、手勢相手ではお辛いでしょう?」


 広間に冷ややかな笑いを溢しながら、3人に押し迫る。周囲の兵も獲物を逃さないよう、囲み始めた。

 ガードは魔力を抑える効果を持つ。威力を半減に抑え込むか、全てを奪う事が可能である。


 貴重な場所は勿論、現在では国の安全対策として、ガードを用いるのが主流であった。

 魔具として、壁などに組み込む事もあれば、直接呪文を唱え、その恩恵を得る事もある。


 広間の中心へ追いやられる3人。この場を切り抜ける方法を表情には出さず、探り始めた。

密かに資料画が新しくなり、詳細付きになっています。以前より見易くなっていると思います。

 カラー画を含めトアルを3枚更新しています。ここまで読んで頂き有り難うございました。

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