第04話:深夜ラジオの告白
六畳一間の自室。
机の上に置かれたスマートフォンから、楽しげな笑い声が流れている。
深夜零時を回った頃に始まる、大人気アイドルグループ『サンシャインイン』の冠ラジオ番組。
私はベッドの上に寝転がりながら、イヤホンから鼓膜に直接響く彼らの声をじっと聴いていた。
「さあ、続いてはリスナーからのふつおた(普通のお便り)です。『メンバーの皆さんが、最近食べて美味しかったものを教えてください』とのことですが……コウ、どう?」
「最近食べて美味しかったもの? うーん……苺の特大パフェかな」
「はあ!? コウって、甘いもの食べれたの?」
「コウがパフェ!? いやいや、絶対嘘だろ。マジでキャラじゃないって!」
(うそっ……)
イヤホン越しに聞こえてきた煌くん――いや、昨日『山田太郎』として私を連れ回した彼の言葉に、心臓が大きく跳ねた。
ラジオブースの中で他のメンバーたちが「どこで食べたんだよ!」「コウだけマネージャーの奢り?」と面白おかしく茶化し、ドッと笑いが起きている。
「いや、俺の顔よりずっと大きなパフェだったんだよ? 感動しない?」
「お前、テンション高っ! なんか最近のコウ、変に柔らかくなったっていうか、人間味が出たよなー」
「わかる。昔はもっと、触れたら切れるナイフみたいなオーラ全開だったのに」
メンバーたちの遠慮のないツッコミに、煌くんは「そうかな?」と無邪気な声で笑っている。
仲の良いトップアイドルたちの、微笑ましい深夜のフリートーク。
全国でこのラジオを聴いている何万人というファンたちが、SNSにリアルタイム投稿し「顔より大きなパフェ」が、トレンドワードになっていた。
何万人というファンを熱狂させる彼のプライベートな時間の断片を、世界中で私ひとりだけが共有している。
背徳感と、とてつもない優越感が混ざり合い、胃の奥が熱く焼けるように疼いた。
「まあ、パフェの話はこれくらいにして。……そろそろ時間ですね」
不意に、ラジオの空気が少しだけ切り替わった。
さっきまでの無邪気な笑い声がスッと消え、深夜の静寂に溶け込むような、低くて艶のある声が私の耳元を撫でる。
「それではここでお聴きください。来月リリースの新曲です。……今回は、僕が作詞を担当しました」
「おおっ! ついに解禁だね。どんなテーマで書いたの?」
「テーマは……何百年も前の時代。遠く離れた場所へ輿入れする悲劇の姫君と、その道中を命懸けで守り抜こうとした、名もなき護衛の物語です」
ドクン、と。
強い力で、肋骨の裏側を蹴り上げられたような気がした。
「……どうしても叶えたかった悲恋の物語を、想像して書きました。サンシャインインで、【久遠の約束】」
彼の曲紹介と共に、重厚なストリングスのメロディがイヤホンを満たす。
そして、彼のソロパートの第一声が流れた瞬間、私はベッドの上で弾かれたように身を起こした。
『――夜風に舞い散る薄紅色の桜の花びらが 焦げた匂いを掻き消してゆく』
(桜の花びら……それに、あの炎の匂い……っ)
背筋を、氷のような悪寒が駆け抜けた。
間違いない。
この曲の歌詞には、昨日私たちが歩いた桜並木や、そこで私がフラッシュバックした『木材が焦げる匂い』と『血の匂い』の光景が、克明に刻み込まれている。
全国のリスナーたちは、この愛の歌を「素晴らしいファンタジー」「切ないフィクション」として、極上のエンターテインメントとして消費している。
けれど、私だけはそうではないと知っている。
それなのに、大切な何かを私は忘れてしまっている。
私は、汗ばんだ手でスマートフォンをぎゅっと握りしめ、それを思い出そうと暗い部屋の天井を見つめ続けていた。




