表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

イジメバスターズ こぼれ話 ある視覚障害児の交友録

作者: 山谷麻也
掲載日:2026/01/12

挿絵(By みてみん)


 第1話 春らんまん


 四国の山々は水彩画を見ているみたいだった。

 目の覚めるような緑ではあっても、木によって色が違う。濃い緑、薄い緑とさまざま。ピンク色のこんもりした部分は山桜に違いない。木々には生気がみなぎっている。小杉一家は車窓から見とれていた。


 始発の新幹線で東京を出た。岡山駅で乗り換え、瀬戸の海を渡って、四国の中央部に向かう。そこで週末に露天風呂付き民宿を開いている。祖母が遺してくれた家をリフォームしたものだ。


 JRの駅でレンタカーを借りる。妻の明子と小学四年の息子・(たかし)はクルマの中で、いつになく騒いでいた。

(はり)の先生のところに寄って行くか」

 (れん)は街道沿いにある治療院の駐車場にクルマを入れた。盲導犬のエヴァンがいち早く気づいて反応している。


「いらっしゃい。これから忙しいシーズンになるね」

 鍼灸師のおじいさんは優しい笑顔で迎えてくれた。

「明子さんは花粉は大丈夫ですか。隆君、喘息発作は落ち着いてますか」

 鍼灸師が気遣う。

「お蔭さまで、親子とも調子がいいですよ」

 明子は軽く頭を下げた。


「先生。エヴァン、なんだか太ったみたい」

 エヴァンを見るなり、隆が言った。

「そうなんですよ。少しドッグフードの量へらそうかって、妻とも話し合ってるところです」

 鍼灸師がエヴァンの背中を撫でた。


 第2話 蓄音機


 民宿に着き、森のタヌエ(ねえ)さんにあいさつに行った。

 タヌエ姐さんは幼いタヌキたちに化身の術を教えていた。まだ初級コースらしく、失敗するたびに、ほかの動物たちから笑いが漏れていた。


 タヌエ姐さんは若い頃、東京に憧れて家出するも、夢破れて帰省、一念発起して消滅寸前の動物村を立て直し、今では後進の育成に力を注いでいる。

 タヌエ姐さんが家出中、村にたった一人暮らしていた連のおばあちゃんが亡くなり、人間の村は完全に消滅していた。タヌエ姐さんが悲しんだのは言うまでもなかった。


 民宿の前の坂道をクルマが上ってきた。今夜の宿泊客だ。夫婦と子どもの三人連れ。子どもは小学二年の男の子、弱視ということで、白杖(はくじょう)を突いている。


「お疲れ様です。一休みされたら、散歩にでも行かれますか。露天風呂は下の河原にあります。天然温泉なんですよ。ここにタオル類とシャンプーがあります。いつでもお入りください.。お坊ちゃんは退屈でしょうから、今、うちの息子を呼びますね」

 明子が納屋に向かって隆を呼んだ。


「ごめんなさい。何やってんのかしら」

 納屋から、昭和期の歌謡曲が流れてきた。

「蓄音機、動いたんだわ」

 全員が耳をそばだてた。


 先ほど、タヌエの森から帰り、隆は納屋で何かを発見した。

 ほこりをかぶった箱だった。漣が声をあげた。

「隆。それ蓄音機・・・、どういえばいいのかなあ。昔のCDプレーヤーだよ。すごいもの見つけたじゃない」

 二人で感激していた。明子は蚊帳(かや)の外だった。


 隆が納屋から出てきて、ペコリと会釈した。すぐ小さい子が目に止まり、近づいた。二言三言かわし、二人して納屋に消えた。


 音楽は次第にスローテンポになった。やがて元気を取り戻し、元のテンポに戻る。二人は懸命にハンドルを回しているようだった。

 飽きたのか納屋が静かになった。


 第3話 イタドリ


「ボク、隆お兄ちゃんと森に行きたい」

 子どもが隆と納屋から出てきて、ママにねだった。

「そう。淳ちゃん、いいわねえ。じゃあ、隆君、よろしくね」

 隆と淳が森に出かけて行った。


「隆君。視覚障害者の手引き、慣れてるみたいね。さり気なく腕を出して、淳に肘につかまらせてるもの。感心だわ」

 淳のママが驚いている。

「お世話になっている鍼灸師の先生が盲導犬ユーザーなんです。ご苦労はいろいろうかがっております」

 連が説明した。


 隆が何かを思いついて、足を止めた。

「ここで待ってて」

 隆が(たに)へ降りて行く。


「これ、イタドリっていうんだよ」

 隆が差し出すと、淳は手でそっと触った。

「こうして、ポンと折って、ここの皮をこうして剥くと、食べられるんだ」

 淳が教えられたとおり、軽快な音を立ててイタドリの茎を折った。

「うわ。酸っぱい!」

 それでも淳は二本目をかじっていた。


 第4話 タッチ


 隆が淳をタヌエ姐さんに紹介した。

 淳はタヌエ姐さんの頭や手足。背中にタッチしていく。

「タヌキって、毛むくじゃらなんだ。言葉がしゃべれるけど、犬や猫と変わらないね。これがシッポか」


「森にはいろんな仲間がいるんだよ」

 隆は得意そうに言った。

「へえ。ボク、キツネに会いたい」

 タヌエ姐さんが合図すると、小さなキツネが現れた。


「顔が細長いんだね。やっぱ、コンコンって鳴くのかな」

 すかさず、コンコンの声。大喜びの淳だった。


「おサルさんはいるの」

 淳がリクエストした。

「いるよ。今、呼んであげるね」

 タヌエ姐さんたちも大忙しだった。


 森の動物たちが次から次へと登場した。淳も隆もご満悦の様子だった。

「隆君。そろそろ帰らんと、夕食の時間よ」

 タヌエ姐さんの言葉に従い、二人は森を後にした。


「隆君。パパとママのお土産(みやげ)に、イタドリ獲って帰りたい。ボクも、さっきのところへ連れて行って」

「じゃあ、ゆっくり降りて行こう。ボクにしっかりつかまってね」

 二人は急な斜面を降りた。白杖を支えに、淳は(すべ)りながらも転ばなかった。隆は何度も尻もちをついた。そのたびに二人は大笑いした。


 少し平坦な場所に、イタドリがいっぱい生えていた。

 淳は手あたり次第、根元から折って、ポケットに入れた。隆も手伝い、淳のズボンのポケットはイタドリでパンパンになった。


 第5話 衆目


 露店風呂から上がり、淳のパパとママは座敷でくつろいでいた。

 明子がお茶を出した。

「ここは最高ね。ありがとうございます。隆君にはずいぶんお世話になってるみたいね。淳があんなに明るく、積極的になったの初めてよ」

「杖ついてらっしゃいますけど、目はどんな状態なんですか」

 明子は言葉を選んだ。


「赤ちゃんの時、笑いかけても反応がないんです。話しかけると振り向く。それで目が悪いことに気付いたのです。おもちゃで遊ぶようになっても、極端におもちゃを顔に近づける。小学校に入学し、メガネを処方してもらいましたが、友達から『博士』ってからかわれて、メガネはかけなくなりました。白杖も学校では突いていません。友達が「おじいちゃんだ」とマネをするらしいのです。だからよく物につまずいたり、衝突したり、友達には接触したり」


 淳のパパが話を引き取った。

「よく持ち物を隠されました。下駄箱の靴を隠されたらしく、裸足で帰ったこともあります。学校に相談すると『誰かがちょっと動かすというのはよくあることなんです。そんなに目が悪いようには見えません。見にくいのならメガネをかけてはどうですか』なんですからね。メガネで何もかも解決すると思っているのです」


 淳のママも続けた。

「街で友達の声がしたので『こんにちは』とあいさつすると、『淳は見えてるのに見えないフリをしてる』って言いふらされてね。あれ以来、自分からは声をかけなくなりました」

 むごい話だった。明子は口をつぐんだ。


 庭がにぎやかになった。漣が隆と淳を見て驚いている。隆のズボンは泥だらけになっていた。

「淳君。パパとママにお土産かい。喜ぶよ」

 連が二人を連れて入ってきた。

 もう、夕食の準備はできていた。


 第6話 オールスター


「淳君。いい。一〇時のところに野菜サラダ、二時のところに焼いたお魚、四時にお味噌汁、八時にご飯、それから、真ん中に卵焼きね。はい。六時にお(はし)

 淳のママが料理の配置を教えている。

「お魚は川の上流で獲れたんだって。隆お兄ちゃんのママがね、知り合いからいただいたらしいの」


「ママ、森の動物といっぱいお友達になったんだよ」

 淳が食事もそこそこに報告し始めた。

「人間の言葉が話せるんだよ。ボク、森の動物にいっぱいいっぱい触ったんだ」


 淳のパパが訊いた。

「へえ、どんな動物がいたの」

 淳が身振り・手振りを交えながらレポートする。


「タヌキはね、こんな顔してるんだ」

「キツネの目はこんなの」

「おサルさんの手はこんな感じ。顔はね、パパみたいだったよ」

 笑いが起きた。


河童(かっぱ)のおじさんもいたよ。川が棲み家だって。頭にお皿を乗せ、口はこんなんだよ」

「それから、ツチノコはバゲットみたいで、シッポがちょこんとついてるんだよ」

 淳の話は続いた。


 一家は朝早く出発した。

 淳は隆と話し込み、なかなかクルマに乗ろうとしなかった。

「淳君。また来ようよ」

 淳のパパが乗るように促した。

「うん。きっとだよ、パパ」


 クルマが民宿を離れた。

「あ、森のお友達が見送ってくれてる。ほら、ツチノコ君の声も聞こえるよ。ほんとだってば、パパ、ママ」

 淳のパパとママは森の方角に手を振った。

「あ、あそこの河原にいる人、明子さんのお知り合いかしら。お魚いただいた」

 パパはまっすぐ前を向いたまま言った。

「そんなことはないだろ。ここは消滅集落だよ。河童か何かじゃないの」


[本編詳細はこちら]https://ncode.syosetu.com/n5587kb/15/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ