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鷹の妻  作者: Rin
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第七話 病に冒されて

第七話 病に冒されて

 すずは体調を崩した。

 浅井家に嫁いできてまだひと月。

 慣れないこともたくさんあるのに心配と迷惑をかけてしまう。

 この時代の医療は当然現代よりも発達していない。

 そのためただの風邪でも結構おおごとなのである。

「お医者さまもお手上げですか…」

「お薬も全然効きません…」

 侍女たちが口々に不安の声を上げる。

「こうなった上は……」

 すずは布団に横たわりながら何かしてくれるのかと侍女たちに期待をする…も。

「私、祈祷師を呼んできます!」

「では私はお札を」

「念仏を唱えておきます!姫さま、安心なさって」

 この時代以前の最終手段は神仏頼みである。

 現代人からみればかなり胡散臭いのだが当時はこれで治ると本気で信じられていた。


 ◆


「すず様、お市様よりお見舞い品です。精をつけて早く元気になるように、とのこと」

 お市の侍女が飯を運んできてくれた。

 すずは頭痛と倦怠感に襲われながらも頑張って体を起こし、飯を食べようとする。

 だが、献立を見るなり食欲が失せた。

 かなり脂っこいものや、味が濃いものばかりである。

「…食べたくない」

「姫さま!ちゃんと食べないと早くよくなりませんよ?」

 侍女のひとり、(みどり)に叱られる。

「でもこんな重たいもの食べられない…戻しちゃう…」

「食べなさいったら食べなさい!」

 結局すずは口に無理やり飯を押し込まれ、吐き戻してしまった。

 それ以降、なかなか飯が手につかなくなった。


 ◆


 その後熱に浮かされたすずは、食事はおろか水ですら飲みたくないと思い始めた。


 慣れない環境に寒暖差が激しい気候。

 さらに兄の死によりすずの心身は気がつかないうちにぼろぼろになってしまっていた。

 さらに、浅井家の中で唯一心を開いている、夫・長政もかなり多忙で部屋に籠っているとなかなか会えないものである。


 夜になり、すずは一人天井を見つめる。

 寂しい。

 灯りは行燈(あんどん)の弱々しくて頼りないもののみ。

 布団に身を包めた、その時。

「すず」

  ――長政の声だ。

「すず」

 ――でもこれもどうせ夢であろう。

 風邪をひいている時は幻覚とか幻聴とかあるって言うし。

「夢なんかじゃないさ。ほら、こっち見て」

 すずが布団から顔を出すと…。

「え?殿…?」

 すずは半信半疑である。

 夜中だし、熱にうなされているし。

「すずの侍女からすずが病だって聞いたから一大事だと思って見舞いに来たんだ。突然の訪問、許してくれるか?」

 そういうと長政はすずを抱きしめた。

「あつっ…!すず、熱もあるのか?」

「うん……」

 すずは力無く答える。

 長政も、自分に身を委ねるすずの力が弱々しいことに気がつく。

「飯は食べられないのか?」

「……食べたくない」

 そうか、と長政は一瞬考え込む。

「ちょっと待っててくれ」

 そういうと、長政はすずの部屋を出て行った。

 ――行かないで…。

 そう伝える気力もなく、すずはそのまま布団に倒れ込む。

 数十分後、長政はお椀とさじを持って部屋に戻ってきた。

「すず、これなら食べられるか?」

 長政が手に持っていたのは、おかゆだ。

「……おかゆ、食べたい」

 すずは本当に腹は減っていた。

 出されたものが脂っこいものばかりだったせいで、食欲が失せていただけなのである。

「そうかそうか。無理はするなよ。俺が食べさせるから。すずは起き上がれるか?」

 長政の介助のもと、すずは身を起こす。

「俺が作ったから、味気ないかもしれんが我慢してくれるか?」

 そういうと、長政はお椀からおかゆを掬い、すずの口元に持っていく。

 ぱくっ。

「……おいしい」

 すずの口から笑みが溢れる。

「ならよかった。もっと食うか?」

 長政の問いかけに、うんうんと頷く。

「ほれ、あーん」

 長政が作ったおかゆは米の硬さがちょうどよく、熱さもぬるめで胃に通りやすい。

 それに米そのものの味が生きていて、噛めば噛むほど甘味が出る。

 

「よく食べたなぁ。もうお椀が空っぽだ。明日も様子を見にくるからな。あれ」

 長政の視点が自分の頬にあることに気がつく。

「……な、何?」

「米粒がついとる。取ったげる」

 そう言うと長政はすずの頬に手を伸ばし米粒を取る。

 そして、そのまま米粒を口に運ぶ。

「あ……!」

 驚くすずに、悪戯っぽい目を向ける長政。

 二人の距離は確実に今日また一歩近づいた…気がした。


「おやすみ、すず」

 長政に頭を撫でられ、すずは高揚感を纏ったまま眠りに堕ちていった。

江戸時代中期や文明開化に至るまで、日本にはこれといった本格的な医療知識はありませんでした。

(正確には一応あったのですが、云百年前の中国の知識とかなんですよね、基本的には)

なので、平安時代以降はお札をもらったり、邪気を払ったり、念仏を唱えたりして風邪を治していたそうです。

…本当に治ったんでしょうか(苦笑)。

あと、すずは『小さい』『小柄」と書いていますが、実際の身長は147cm(4尺9寸)くらいです。

この時代の女性平均身長は約145cmなので、少し上背なことがわかります。

とはいえ、現代人から見たら小柄ですよね。

長政の身長は180cm超え(史実)の為、余計にすずは可愛く見えるのでしょう。

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