第二話 はじめてのおつかい
第二話 はじめてのおつかい
時は移り、一五六〇年。
昨年元服していた賢政(猿夜叉)は一万一千の兵で二万五千の敵に初陣で勝利した。
「すごいですね!賢政様は!」
六歳になったすずは叔父・則實の話を聞き、笑顔を見せた。
「ということで近江の賢政様に祝いの刀を届けて欲しいんだ」
これなんだが、と則實は刀を取り出す。
「え!叔父様が行けばええじゃないですか!」
「ワシも鉄砲の研究やら忙しいのだ」
前回執筆した通り、この時代は刀の需要が減っていた。
なぜなら鉄砲が伝わったから。
各大名は独自に鉄砲を生産・保持しており、徐々に戦に使用されるようになっていった。
一方で刀は近距離戦や一対一では強いものの、遠距離戦には向かない。
だが、全く需要がなくなったわけではない。
刀は芸術性も兼ね備えており、備前などの名刀は贈呈品などにはもってこいなのである。
話を戻すと、則實は割と活発な人間であるため、鉄砲についても興味を持ち、最近研究に勤しんでいるらしい。
そのためすずが代わりに近江に行くことになったのだが・・・
「えーっと・・・ここどこ?」
彼女は方向音痴であった。
◆
山間を道なりに歩いていくと、石碑を発見した。
「この通りに行けば小谷城に行けるかもしれん」
そう思ったすずは石碑の案内通りに道を歩いた。
着いたのは京、清水寺。京、鹿苑寺金閣。
「・・・で、小谷城どこ?」
あと八十五キロ先である。
◆
その頃近江では、すずがおつかいに来ると聞いた賢政が庭に出て備前の方角を向いた。
二年前より背丈は伸び、声も低くなった。
それに、元服して髪を結い上げている。
ちなみに彼は元服と同時に妻を娶った。
相手は長年敵対してきた南近江の大名、六角氏の重臣・平井定武の娘。
彼女は賢政のことを想い慕っていたらしいが、とうの賢政は結婚して一年も経たずに離縁した。
彼は愛妻家として有名だが、果たしてどうなのだろうか・・・と作者は思う。
◆
「賢政様!お久しぶりです、すずです!」
以前は超えられなかった堅固な山、小谷山をなんとか登り切ったすずは、賢政に出迎えられた。
「うむ。久方ぶりだな、すず様」
「はい!」
賢政に話しかけられてすずは笑みが溢れる。
「ところで来るまでに相当時間がかかったようであるが、どこに行っておられたのだ?」
い・・・言えない・・・。
清水寺と金閣と銀閣と平等院と・・・。とすずは表情を曇らせて心の中で答えた。
◆
「方向音痴だと教えてくだされば護衛をつけたものを・・・」と賢政は呆れる。
すずはただ「すみません・・・」と恐縮する。
「あ、あと叔父様から渡すように言われたんですけど・・・」
そういうとすずは風呂敷包みを開いた。
中からは超高級品の刀、備前長船が姿を現す。
「叔父様が賢政様のために自ら打った刀なんです。使ってください」
「か、感謝する・・・」
賢政は鞘からゆっくりと刀を抜く。
その刃文、反り、反射・・・吸い込まれるような長船の美しさに吸い込まれる。
こんな一級品は見たことがない。
「あ、御代金は要らないって叔父様が」
叔父様の気持ちだから気にするな、と軽いノリですずが伝える。
「いやこれは気にしちゃうでしょ・・・」
◆
「そういえば賢政様、初陣で二倍の兵に勝ったの、すごいですよね!」
一五六〇年八月中旬、六角氏と賢政が宇曽川を挟んで戦った。
これを野良田合戦、野良田の戦いという。
この戦の勝利により、当主だった父・久政は隠居の身となり、賢政が当主となった。
敗れた六角氏は今後さらに落ちぶれることとなる。
余談だが、野良田の戦いのきっかけは、同年に起こった桶狭間の戦いだとも言われている。
そのためこの戦は『浅井の桶狭間』と呼ぶ人もいるのだとか。
だが、桶狭間の戦いで勝利したのちの天下人の名を知っている者は近隣国の者のみで、全国的にはまだ無名であったという。
◆
「すず様は嫁ぐとしたらどんな相手が好みですか?」
「え゙!?」
思いもよらぬことを聞かれて、すずの顔は赤く染まる。
「わ、私はまだ嫁ぐ気はないし・・・!そもそも・・・嫁入りがよくわかってないし・・・」
賢政は、幼子にこの質問は早かったか、と思い話題を変えようとした。
「じゃあ・・・」
「でも」
賢政の言葉を遮るようにしてすずが言う。
「優しくて、強くて格好良い…そんな人に嫁ぎたいです」
すずは満面の笑みで答えた。
◆
「帰りは来た道を戻れるか?」
「はい、平気です。ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げる。
「こちらこそ、ありがとう。則實殿によろしく頼むな」
そういうと賢政は、下山するすずの姿が見えなくなるまで見守った。
――して、数日経ったすずはというと。
すずが辺りを見渡すと、海の上に大きな鳥居が建っているのが見える。
「えーっと・・・ここどこ?」
安芸(広島県)・厳島神社である。
彼女は方向音痴であった。
自宅まであと約一七五キロメートル東に戻らなければならないのであった。
すずほどじゃないけど、作者も方向音痴です。
さらに作者は地図音痴なのでどうしようもないです。
音声案内だけが頼り。




