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鷹の妻  作者: Rin
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第十一話 蛍舞う夜に

第十一話 蛍舞う夜に

「すず、そういえばこの時期、姉川には蛍が飛ぶんだぞ」

「蛍?」

 すずは目を丸くした。

「蛍、知らないのか?」

「はい。どんなものか見当もつきません」

 そうか、なら教えてやろう、と長政は言った。

「蛍は尻が光る虫で、綺麗な水がある場所でしか生きられない。夜、姉川に行ったら蛍が飛び交っていて綺麗なんだ」

 ちなみにすずの実家、岡崎家は主君・浦上宗景(うらがみむねかげ)の居城、天神山城(てんじんやまじょう)の麓にある。

 天神山城は辺りを沼の田園地帯で囲まれており、吉井川から少し離れている。

 そのためすずは蛍というものを知らなかったのである。


 ◆


 その夜。

 すずは侍女の(あかね)桔梗(ききょう)(みどり)を連れて下山し、姉川に来た。

「あっ……これじゃない?」

 茜が声を上げる。

 見ると、確かに尻が光る虫、蛍だった。

「綺麗……」

「わっ…!手に乗ってきた!」

 侍女たちも初めての蛍に大騒ぎである。


「すず達も来てたのか」

「と……殿!?」

 すずはびっくりする。

 騒いでいた侍女たちも静まり返り、礼儀を正す。

「それにしても本当に綺麗だよな、ここの蛍は」

 長政がすずに微笑みかける。

「あっ……!はい……そうですね」

 すずも照れくさくなってしまう。

「あ、ほらすず。そっちいったぞ。捕まえろ!」

「うぇっ!?あっ……はい!」

 すずは蛍を追いかけまわす。

 それを見て長政は、まだ『少女』が抜けきっていないすずを愛しそうに眺める。

「殿!捕まえました!」

「おっ、本当か?」

 すずが椀状にした手を持ってくる。

 そっと開けると…。

「うわ、潰れとる……」

 すずは捕まえる力を間違えたようだ。

 げんなりとしたすずを見て長政は堪えきれなくなった。

「あはははははっ…!」

「ちょ、殿!何がそんなに面白いんですか!」

「いや……まだまだすずも子どもだなって……ははははっ。まだ娶るのは早かったかもなぁ」

 最後の一言を聞いた瞬間、すずの目からは涙が零れ落ちた。

「……そんなこと、言わんでください」

「おお、すまんすまん」

 長政は必死で謝るも、すずの涙は止まる気配がない。

「殿に娶ってもらえて……こんなに幸せなのに……!なんでそんなこというんですかあぁぁぁ!!」

「すず……」

 長政はすずに申し訳なくなり、肩を抱き寄せる。

「すまないな。俺がもう少し考えて発言すればよかったな。だがひとつだけ言っておく。俺はすずを娶れたことに後悔はしていない。お前を娶ってから毎日は格段に楽しくなった。お前のおかげだ」

 そういうと長政は、涙が伝うすずの頬に接吻(キス)をした。

 すずは身を縮こませて可愛らしい反応をする。

「殿……私も……殿に嫁げて……」


 そこまで言うと、突如として水瓶をひっくり返したような大雨が降ってきた。

 確かに周りに蛍ももう飛んでいない。

「すず、走れ!屋敷に戻るぞ!」

「はぃいいい!!」

 すずの侍女たちも後を追ってくる。

「足元、滑りやすいから気をつけろよ」

 途中長政の指導も入りつつ、なんとか山を登り、屋敷に戻る。


 ◆


 すずの部屋の縁側にて、二人は一息つく。

 すずは懐から手拭いを取り出し、長政の顔を拭いてやる。

「おお、すまない。あとは自分でやる」

 長政はすずから手拭いを受け取って、濡れた顔や頭を拭く。

 すずはその間に縛っていた髪紐を解き、染み込んだ水を絞る。

 すると眼前に手拭い。

 長政が吹き終えてすずに渡してくれたらしい。

「あ、ありがとうございます」

 すずは顔を拭き、その後髪に染み込んだ水を吸い取っていく。

「その匂い、好きだ」

「え?」

「すずのその髪の匂い、好きだ」

 髪を拭くたびにふわっと揺れる、すずの匂い。

「そ、そんなこと仰らないでください!」

「はははっ。揶揄ってるわけじゃないけどなぁ」

 笑う長政と、恥じらうすず。

 いつのまにか雨は止み、日が昇ろうとしていた。

みなさんは蛍は見たことがありますか?

作者は一度だけ、幼稚園児の時に見に行ったことがあります。

また、作者の父の故郷(ど田舎)は蛍で有名です。

現在蛍は絶滅危惧種に指定されるなど昔よりも見ることは少なくなってきているようですが、とても幻想的ですので、機会があればぜひ。

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