第十話 春のうららの小谷城
第十話 春のうららの小谷城
桜が舞い散る四月。
「すず。そこにいたのか」
「殿」
すずは桜の木の下に立っていた。
「小谷城にも桜、あるんですね」
「ああ。風流だろう?」
「桜といえば昔、岡崎の実家で花見の宴を開いたことがありました。主君の浦上宗景殿が宴会好きなだけだったんですけど、それが楽しかったのを思い出して」
「宴……か。開くか?」
「え?」
◆
そんなこんなであれよあれよと宴会の準備が整ってしまった。
――どうしよう……私の一言で決まっちゃった……申し訳ない……!
長政は家臣たちと酌み交わし、最近ずっと見せることのなかった柔らかな笑顔を見せた。
それを見てすずも安心する。
飲み終わった酒を下げようとすずが立ち上がると、酔った長政に引き止められた。
「すずも飲んだらどうだ?」
「いや…私、お酒飲めませんし…」
「いいからいいから。直経、すずの分の杯を用意してやれ」
長政は家臣・遠藤直経に命令してすずの分の酒を用意する。
目の前の透明な酒。
すずは勇気が出ない。
「すず、飲まないのか?なら俺が飲ませてやるが……」
「い、いいです!自分で飲みますから!」
杯を手に取り、震える手で口元に運ぶ。
口に含み、ごくり、と喉を鳴らす。
一瞬ですずの顔は赤くなった。
そう、泥酔してしまったのである。
「はは、すずの顔、真っ赤だ」
「わ、わらし赤くなっれません!」
「すずは風当たりのいいところで休んどけ。な?」
不服そうな顔をしながらすずはふらつきながら縁側へ行く。
縁側には、茶々を抱いたお市が座っていた。
「あら、すず様。随分と泥酔されているようで」
「わらし、お酒に弱いもろで…」
「まあ、兄上様によく似ていること」
すると、茶々が背を反って大泣きを始めた。
「あ、お市様。茶々様を貸してくらさい」
お市は一瞬嫌そうな顔をした。
そりゃ、泥酔しきっている嫌いな相手に大切な我が子を預けたくもないわな。
だが、今は宴の真っ最中。
ここで泣きっぱなしにされて宴の雰囲気を悪くするのは皆に申し訳ない。
お市は渋々茶々をすずに預けた。
すずは、茶々をしっかり持ち、膝に乗っけて軽く上下にポンポンしたり、目線の高さまで茶々の体を持ち上げたり。
茶々は喜んで奇声を上げる。
新米母親のお市は勉強になる、とばかりにこちらをジロジロと見つめてくる。
「すず様は子どもはいないし、兄弟も歳の離れた兄しかいないって聞きましたけど…その遊び、どうやって……?」
お市が不思議そうに質問する。
「ああ、これは甥の時によくやってたんです。私が八歳のときに甥が生まれて、よくこうやってあやしてたんです」
やがて、茶々は遊び疲れてぐっすり眠る。
「……ありがとうございます、すず様。今回ばかりは助かりました」
お市に感謝を述べられ、すずはさらに赤くなる。
そこへ、長政がやってきた。
「あ、殿……!私の発案で急遽宴会を開いてしまって……申し訳ないです」
すると、長政は意外だ、と言わんばかりの顔を見せた。
「そのくらい気にするな。久しぶりの宴会だし、今年の桜は格別だしな。茶々もすずもいる」
そういうと、長政は茶々の頭とすずの頭を撫でる。
「わ、私を子ども扱いしないでください!」
「あら、でもすず様は鬢曽木(成人式)も終えていないじゃない。来年なのでしょう?」
お市に水を差されては反論の余地もない。
「ははっ。そうか、すずの鬢曽木は来年かぁ」
隣で長政も笑う。
「来年も……このようにお前たちと桜を見上げたいものだなぁ」
「約束……ですよ?」
お市が長政に寄り添う。
負けじとすずも長政の近くに寄る。
「私とも約束してください!来年も桜を見ると」
「ああ。もちろんだ。約束する」
長政が飲みかけた杯に、桜の花びらが一枚、はらりと落ちた。
すずは15歳(実質13、4歳)です。
当然ですが、未成年飲酒で現代なら捕まります。
ただこの時代は何歳でも飲酒は可能だったんです。
何度も言いますが、今の日本では未成年は飲酒厳禁ですよ。




