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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

『閾値(いきち』

作者:高槻清貴
人は、殺せないから殺さないのか。
それとも――殺せるから、殺すのか。

犯罪心理学を専攻する大学院生・一ノ瀬遥は、
「人間が殺人に至る心理的臨界点(=閾値)」を研究していた。

倫理を守る理性を信じ、暴力を“観察の対象”として扱っていた彼は、
指導教授・榊のもとで極限状況下の心理実験に参加する。

だが、ある日、実験の被験者が本当に殺人を犯してしまう。
論文のための“仮想”が、現実へと侵食する。
榊は冷笑して言う――
「人は、殺せるから殺すんだよ。」

事件をきっかけに、一ノ瀬の理性は少しずつ壊れていく。

実験に関わった女性被験者・久遠沙耶の存在が、彼の中の「越えてはならない境界」を揺さぶる。

倫理、観察、理解――それらすべてが曖昧に溶け合い、
やがて一ノ瀬は、自らを被験者として“臨界”へ踏み出してしまう。

ボタンを押す指先。
押すことを選ぶ者と、押せないままの者。
世界はそのわずかな境界の上で、かろうじて均衡している。

やがて、実験の「観察」は社会全体に感染する。
誰もが互いを監視し、語ることをやめ、世界は沈黙に覆われていく。

倫理が消え、理性が沈黙したあと、
一ノ瀬が最後に見出したもの――それは、「観察することをやめた人間の祈り」だった。

沈黙の中で、なお生き続ける理性の残響。
理解が罪であり、沈黙が救いとなる世界で、
一ノ瀬は自らの最終観察を記す。

《観察、終了。》

その一行で、世界は静かに再び動き出す。
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