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坑道での大事故の後、空気は僅かに変わった。

嫌悪の目が完全に消えたわけではない。だが、エレオノーラを睨みつけていた者たちが、ふとした瞬間に視線を逸らすようになった。

彼女が岩の下敷きになった亜人を救い出した姿は、否応なしに皆の目に焼きついていたのだ。


その中心で動いていたのはクリフだった。

獣人の少年は奴隷たちの間で自然とリーダーのような立場になっていた。強さと度胸に加え、兵士の目を盗んで食料を分け与え、皆を生かしてきた。誰もがクリフに一目置いていた。


ある夜、坑道奥の暗がり。

クリフは仲間の数名を集め、低い声で囁いた。

「脱出を決行する。外にいる仲間が爆薬を仕込んだ。合図は――三日後の正午だ。」


緊張した空気が走る。

その場にいたドラコが重々しい声で問うた。

「……で、帝国の姫をどうする?」


全員の視線が、一人へと向けられた。

金の髪と碧眼――帝国の象徴を宿した皇女。


空気は重く張り詰め、周囲の亜人たちの視線にはまだ露骨な嫌悪が滲んでいた。


クリフはしばし沈黙したのち、ゆっくりと立ち上がり、エレオノーラの前に歩み出る。

「エレオノーラ。俺たちは脱走を計画してる。成功するかは五分五分……いや、三分もないかもしれない。」


「……」

エレオノーラの碧眼は、黙って彼を射抜くように見つめ返す。


クリフは鼻で笑った。

「あんたは愚かだ。俺たちを救うでもなく、ただ兵士に逆らって鞭を受ける。皇女だってのに、こんな地獄で死ぬ気で働いてやがる。」


周りの亜人たちがざわつく。嘲りと半ば呆れの入り交じった声。


「だが……いざという時、あんたの存在は役に立つ。兵どもにとっちゃ『皇女』って札は特別だからな。盾にすれば、俺たちの逃げ道が開けるかもしれない。」


一瞬の沈黙。

クリフの瞳が、揶揄するように細められる。


「どうだ、皇女様。あんたも俺たちと一緒に賭けてみるか?」


挑発的な言葉だった。だが、その裏には“認め始めている”気配も微かに見え隠れしていた。


エレオノーラは拳を握りしめ、真っ直ぐに答える。

「私が盾になるなら、構わない。けれど……私はただの駒では終わらない。生き延びて、必ず取り戻す。帝国を。」


碧眼の奥に燃える光に、数名の亜人が言葉を失った。

ドラコは無言で腕を組み、やがて一度だけ、重々しく頷いた。


「……いいだろう。だが足を引っ張れば容赦せん。」


こうして――エレオノーラはついに、半信半疑ながらも脱出計画に加わることとなった。

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