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シルフィは、役人の気まぐれのように度々坑道へ連れて来られた。

首輪を引かれ、犬のように這わされ、時には足蹴にされる。

そのたびにエレオノーラの胸は灼けるような怒りで満たされた。


――帝国が正しい? 亜人が愚か?

笑わせるな。

愚かで残酷なのは、自分が信じてきた帝国の方だ。

エレオノーラは帝国に強い怒りを感じるようになった。だがしかし、亜人達から見れば自分は結局嫌悪すべき帝国人と同じに過ぎない。


炭鉱に連れてこられてからの日々、エレオノーラに向けられる視線は常に冷たいものだった。

食事場に並べば、隣の席は必ず空けられる。背を向けられ、舌打ちすら浴びせられる。


「……何で帝国人がここにいる。」

「俺たちをここに押し込めた連中と同じだろうが。」

「皇女だって? 笑わせるな。血を吸う蛇が着飾っただけじゃねぇか。」


吐き捨てるような言葉が、耳に刺さる。

獣人の女が水を分ける桶を回していても、エレオノーラにだけは渡さない。

リザードマンの男たちは露骨に牙を見せて威嚇する。


それも当然だ。

帝国は長年、亜人を「獣」と呼び、搾取し、殺してきた。

その中心にいた皇女を、どうして受け入れられよう。


エレオノーラ自身も、それを理解していた。

だが屈する気はなかった。

彼女は黙々とツルハシを振り下ろし、他者より重い鉱石を背に運んだ。

「やめてくれ」などと弱音を吐くことは決してなかった。


その日も湿った空気と石炭の粉塵が舞い、カンカンとツルハシの音が響いていた。

朝から重労働が続き、亜人たちの顔は疲労で土気色になっている。


不意に――地鳴りのような低い音が坑道を震わせた。


「……ッ? おい、今の音は……。」

「天井だ! 崩れるぞ!」


叫びが広がった瞬間、岩盤が割れる鋭い音が響き、巨大な岩の塊が天井から降ってきた。

土砂と石が一気に崩れ落ち、逃げ遅れた獣人の男が岩に押し潰される。

粉塵が充満し、目も開けていられない。咳き込みながら誰もが腰を抜かしていた。


「う、動けねぇ……。」

「血が……! 死ぬぞ!」


誰も助けに近づけない。兵士たちは遠巻きに眺め、口汚く罵るだけだ。

「勝手に潰れてろ、獣ども!」


だが、ただ一人。

エレオノーラだけが粉塵の中へ飛び込んだ。


「下がれ!私が行く!」


咳き込みながらも岩の隙間に手を差し込み、全身で岩を支えた。

重圧で肩が軋み、爪が割れ、腕の筋肉が悲鳴を上げる。

血が流れても、彼女は岩を動かそうと必死だった。


「まだ息がある! 絶対に生かす!」


「無理だ、諦めろ!」と誰かが叫ぶ。

だがエレオノーラは振り返らない。

必死に呼吸を整え、声を張り上げた。


「皆、力を貸せ!ここを持ち上げれば抜け出せる!」


その必死さに、最初は動けなかった亜人たちも次々に駆け寄った。

「くそっ……帝国人のくせに……何で……!」

「考えるな! 持ち上げろ!」


十人ほどが力を合わせ、岩盤がわずかに持ち上がる。

その隙に、エレオノーラは押し潰された男の身体を引きずり出した。

血に濡れた腕、折れ曲がった脚。だが確かに、胸は上下していた。


「水を! 誰か水を持って来い!」

「……っ、まだ生きてる……!」


静まり返った坑道に、嗚咽混じりの声が広がる。

やがて誰かが呟いた。

「帝国の……皇女が、俺たちを助けた……?」


その目には、疑念と同時にわずかな敬意が浮かんでいた。

ドラコも粉塵にまみれた顔を上げ、低く言った。


「……女、お前は……ただの帝国人ではないな。」


荒い息を吐きながら、エレオノーラは腕の血を拭った。

その瞳には揺らぎがない。

「命は……誰のものでもない。見捨てられる理由なんてない。」


その言葉は、炭鉱の暗闇に確かな火を灯した。

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