⑥
暗闇と岩壁に閉ざされた炭鉱の日々は、残酷なまでに単調だった。
朝は鐘の音で叩き起こされる。
与えられるのは、冷えきった薄いスープと、硬いパンの切れ端が二枚。歯を立てれば、砕ける前に歯が欠けそうなほど固い。
食事を終えるや否や、奴隷たちは松明を掲げられ、坑道へと追い立てられる。
岩を砕き、鉱石を掘り、土砂を運ぶ。ただそれだけの作業を、日が沈むまで繰り返す。
――死ぬほど働け。倒れれば鞭が飛ぶ。それがここの掟だ。
エレオノーラは剣で鍛えた肉体を持っていた為、最初は人並み以上に動けた。
だが、食事の量が圧倒的に足りない。
三日、五日、一週間と経つごとに、体力は削られていった。鉱石を入れた籠が以前よりも重く感じられ、呼吸が荒くなるのが自分でも分かる。
そんなある日。坑道の隅で、ふいに肉の芳しい匂いが漂った。
「……腹減ってるだろ。」
背後から差し出されたのは、薄切りの干し肉だった。
振り返ると、クリフがいた。煤で黒ずんだ顔の奥で、金色の瞳が皮肉げに光っている。
「厨房の連中と仲良くなってね。少しくらいなら分けてもらえる。」
「……自分の分を、私に?」
エレオノーラは訝しげに問う。
「勘違いすんな。英雄気取りで倒れられても迷惑なんだよ。あんたが人目を引くと、俺にも火の粉が飛んでくるからな。」
口では突き放すように言いながらも、クリフは干し肉を押しつけるように渡してきた。
肉のしょっぱさと油の旨味が、弱りきった体に染み渡る。エレオノーラはわずかに目を細め、静かにそれを噛みしめた。
――そして、その翌日。
巨大な影が坑道の奥から姿を現した。
人の二倍近い背丈、全身を覆う硬質な鱗。
鉱石を詰め込んだ荷車を、片手で引きずって歩く姿は、もはや人ではなかった。
「……あれが、ドラコだ。」
クリフが低く囁いた。
「ドラコ?」
「リザードマンきっての戦士だった奴さ。戦場じゃ、十人分の力を持つ化け物だと恐れられた。けど、今はただの奴隷だ。」
休憩の合間、エレオノーラは勇気を出して声をかけた。
「あなたは……戦士だったと聞いた。」
巨体のリザードマンは、しばし沈黙した後、鈍い声で答えた。
「……そうだ。かつては剣を振るい、仲間を守った。だが今は違う。俺に残ったのは、この鱗と……一日の食事だけだ。」
そう言って、口元をわずかに歪める。
その眼差しには、かつての誇りも怒りもなく、ただ「諦観」だけが宿っていた。
エレオノーラは胸の奥に、重たいものが沈むのを感じた。
――ここでは、どれほどの力を持っていても、全てを奪われ、ただ食うために生きるしかないのか。
だが、彼女の碧眼は揺るがなかった。
「……私は、諦めない。」
その言葉に、ドラコは小さく首を振り、低く笑った。
「愚かで……強い女だな。」




