⑤
……熱い。
背に走る焼けつくような痛みで、意識がゆっくりと浮かび上がってくる。
瞼を開けると、岩壁の影に囲まれた狭い空間。灯り代わりのランプがひとつ、弱々しく明滅していた。
「目ぇ覚ましたか。」
低く荒んだ声。
顔を向けると、短く切り揃えられた髪と鋭い瞳を持つ獣人の少年がいた。
肩にかけた毛皮はぼろぼろだが、その体躯には強靭な筋肉が浮かんでいる。
「お前、馬鹿か?」
少年――クリフは呆れたように言い放った。
「人間の皇女様だって聞いたが、何であんな真似をした。」
エレオノーラは血の滲む唇を噛み、声を絞り出す。
「見過ごせなかった……。弱き者を……守るのは当然だ。」
「当然?」
クリフは鼻で笑った。
「その“当然”で、ここじゃすぐ死ぬんだよ。」
ランプの光に照らされる彼の瞳は、怒りと諦めに濁っていた。
「帝国の兵に家族を殺された俺に言わせりゃ……お前みたいな奴が一番腹立つ。」
「ならば、黙って見過ごせというのか。弱き者が虐げられるのを。」
クリフは肩をすくめる。
「見過ごすしかない場所だ。ここは鉱山、力なき者は生き延びられない。あんたが背中を晒したところで、明日にはまた誰かが鞭を受けるだけだ。」
冷徹な理屈。それでもエレオノーラは引かなかった。
「それでも――私は屈しない。泣き叫ぶことも、命乞いすることも決してしない。皇女であろうと、奴隷であろうと……私は私だ」
一瞬、クリフの瞳がわずかに揺れた。
呆れとも、嘲りともつかぬその視線に、しかし興味の色が混じる。
「……あんた馬鹿だね。」
そう言いながらも、クリフは手元の布を投げてよこした。
「血が滲んでるよ。これでも羽織ってて。寒さで死なれたら、面倒だから。」
エレオノーラは布を受け取り、唇を固く結んだ。
――帝国を取り戻すまで…私は絶対に屈しない。




