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――なぜ。

幾度も心に問いかける。

なぜ、私が。なぜ、父上が。なぜ、帝国が。


鎖で繋がれ、裸同然の身体に粗末なボロ布一枚。

雪の舞う寒空の下、奴隷たちを詰め込んだ馬車は揺れながら北方へと進んでいた。


耳に響くのは、隣に押し込まれた獣人や亜人たちの咳、呻き、怨嗟の声。

吐く息は白く、全身を刺すような冷気が骨の髄まで侵食してくる。


かつて玉座に座すはずだった皇女――その面影は、血と泥にまみれて薄れつつあった。

しかし蒼眼の奥にはまだ炎があった。


「……私は……屈しない……」

自分に言い聞かせるように呟く。


※※※


到着したのは、岩肌を穿った鉱山の入口。冷たい風と、土と血と煤の臭いが混じり合った息苦しい空気が流れている。


鎖に繋がれ、馬車から引きずり出される。足も鎖で繋がれ、ボロ布一枚の身。周囲には角の折れた獣人や、羽根を煤に汚された鳥人、痩せこけた小鬼族など、さまざまな亜人が無言で立ち尽くしていた。


「へえ……これは珍しい客人だ。」

見張りの兵士の一人が、口元を吊り上げた。

「おい見ろよ、あの顔。例の『皇女様』じゃねえか。こんな所まで落ちて来るとはな。」


周囲の兵士たちが下卑た笑いをあげる。

「金色の髪も台無しだな。泥にまみれた姫様か。」

「皇族も、ここじゃただの奴隷よ。」


嘲りの声は突き刺さるようだった。けれどエレオノーラは顔を上げ、何も返さなかった。

膝を折ることも、泣き叫ぶことも、彼女はしなかった。瞳は冷たく、炎のように燃えている。


やがて奴隷たちは列を組まされ、炭鉱の暗闇へと追い立てられていく。薄衣の亜人たちが石を掘り、岩を担ぎ、咳き込みながら働かされる光景が広がっていた。


「立て!怠けるな!」

監督役の兵が怒鳴り声を上げる。


その視線の先で、一人の老いたリザードマンが膝を折った。

痩せこけた体は震え、鉱石を抱えたまま地に伏した。


「動けんのか?なら死ね!」

振り下ろされる鞭――。


その瞬間、エレオノーラは駆け出していた。


「やめろ!」

咄嗟に身を投げ出し、鞭を受け止める。


背中に焼けるような痛みが走る。

再び、容赦なく鞭が振るわれる。

肌が裂け、血が舞い、足が崩れ落ちた。


「くっ――!」

声は掠れ、それでも盾のように立ち塞がる。


鞭が十度、二十度と打ち下ろされる頃、視界が揺らぎ、音が遠のいた。


――父上……母上……。

意識は闇に沈み、雪の冷たさだけが最後に残った。

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