④
――なぜ。
幾度も心に問いかける。
なぜ、私が。なぜ、父上が。なぜ、帝国が。
鎖で繋がれ、裸同然の身体に粗末なボロ布一枚。
雪の舞う寒空の下、奴隷たちを詰め込んだ馬車は揺れながら北方へと進んでいた。
耳に響くのは、隣に押し込まれた獣人や亜人たちの咳、呻き、怨嗟の声。
吐く息は白く、全身を刺すような冷気が骨の髄まで侵食してくる。
かつて玉座に座すはずだった皇女――その面影は、血と泥にまみれて薄れつつあった。
しかし蒼眼の奥にはまだ炎があった。
「……私は……屈しない……」
自分に言い聞かせるように呟く。
※※※
到着したのは、岩肌を穿った鉱山の入口。冷たい風と、土と血と煤の臭いが混じり合った息苦しい空気が流れている。
鎖に繋がれ、馬車から引きずり出される。足も鎖で繋がれ、ボロ布一枚の身。周囲には角の折れた獣人や、羽根を煤に汚された鳥人、痩せこけた小鬼族など、さまざまな亜人が無言で立ち尽くしていた。
「へえ……これは珍しい客人だ。」
見張りの兵士の一人が、口元を吊り上げた。
「おい見ろよ、あの顔。例の『皇女様』じゃねえか。こんな所まで落ちて来るとはな。」
周囲の兵士たちが下卑た笑いをあげる。
「金色の髪も台無しだな。泥にまみれた姫様か。」
「皇族も、ここじゃただの奴隷よ。」
嘲りの声は突き刺さるようだった。けれどエレオノーラは顔を上げ、何も返さなかった。
膝を折ることも、泣き叫ぶことも、彼女はしなかった。瞳は冷たく、炎のように燃えている。
やがて奴隷たちは列を組まされ、炭鉱の暗闇へと追い立てられていく。薄衣の亜人たちが石を掘り、岩を担ぎ、咳き込みながら働かされる光景が広がっていた。
「立て!怠けるな!」
監督役の兵が怒鳴り声を上げる。
その視線の先で、一人の老いたリザードマンが膝を折った。
痩せこけた体は震え、鉱石を抱えたまま地に伏した。
「動けんのか?なら死ね!」
振り下ろされる鞭――。
その瞬間、エレオノーラは駆け出していた。
「やめろ!」
咄嗟に身を投げ出し、鞭を受け止める。
背中に焼けるような痛みが走る。
再び、容赦なく鞭が振るわれる。
肌が裂け、血が舞い、足が崩れ落ちた。
「くっ――!」
声は掠れ、それでも盾のように立ち塞がる。
鞭が十度、二十度と打ち下ろされる頃、視界が揺らぎ、音が遠のいた。
――父上……母上……。
意識は闇に沈み、雪の冷たさだけが最後に残った。




