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鎖の音を引きずりながら、エレオノーラは王宮へと引き立てられた。

夜空には血のような赤い月が浮かび、宮廷の灯火は不気味に揺れている。


かつては威厳と誇りに満ちていた大広間。

その玉座の前に、赤黒い染みが広がっていた。


「……っ!」

エレオノーラの足が止まる。


視線の先にあったのは――父、アレクトロ皇帝の首なき亡骸。

豪奢な衣は切り裂かれ、その体は冷たく沈黙している。

床には滴り落ちた血が池のように広がり、鉄錆の臭いが鼻を突いた。

白髪の混じりの頭は、血を垂らしながら、まるで飾りのように目前の玉座の前に置かれている。


「父上……!」

膝が崩れ、エレオノーラは震える手を伸ばした。

その瞳には、まだ温もりを宿しているかのように思えた。


「哀れなものだな。」

低く笑う声が響いた。

玉座に腰を下ろしていたのは、叔父アレキウスだった。


「偉大な兄上も、首がなければただの肉塊に過ぎん。ようやく、俺の時代が来る。」



「……外道……!」

エレオノーラは歯を食いしばり、鎖を引き千切らんばかりに体を震わせた。

「父上を殺し、帝国を穢すつもりか!」


「穢す?ははは……勘違いをするな。」

アレキウスは横に立つ少年の肩を抱いた。

怯えた瞳をしたその少年は、エレオノーラと同じブロンドの髪と碧眼を持っている。

「この子こそ正しき後継者。帝国は再び『男子の皇』の下に統べられるのだ」


「そんな子……父上に隠し子など――!」


「信じたくないのだろう?だが、民も貴族も『伝統』を望む。女に帝を任せるなど、誰も納得しない。」

アレキウスの目が獣のように細められた。

「エレオノーラ。お前の存在こそ帝国に混乱を呼ぶのだ」


「処刑せよ!」

彼が命じると、兵たちが一斉に剣を掲げた。


その時、傍らに控えていた宰相が一歩進み出た。

「……陛下。いや、アレキウス殿。」

その声音は冷ややかだった。

「彼女を殺すのは容易。しかし、死ねば一時の殉教者に過ぎません。真の地獄は――生きながら辱めを受け続けること。」


「……ほう?」

アレキウスが顎を撫でる。


「彼女を奴隷に堕とし、炭鉱へ送りましょう。

雪深い地で、泥にまみれ、希望を喪い……それこそが皇女に相応しい末路。」


「奴隷に……だと?」

エレオノーラの瞳が怒りに燃える。

「私は帝国を背負う身……屈することなど!」


「屈するしかなくなるのだ」

アレキウスが嘲り笑った。

「鎖に繋がれ、同胞に侮蔑され、やがてその誇りを削られていく……。その姿を見るのが楽しみでならん。」


サイラスが現れ、アレキウスの横で嗤った。

「誇り高き皇女殿下も、炭鉱の煤にまみれれば、ただの哀れな奴隷さ」


「サイラス……!」

 エレオノーラはその名を呪うように叫んだ。

「何故…そこまで……!」


「何故?簡単だ。俺は、お前が――嫌いだからだ!」

サイラスの笑顔は狂気を孕み、長年抑えていた憎悪が爆発したように歪んでいた。


その笑い声に混じり、鎖が再び強く引かれる。

エレオノーラは引きずられ、大広間から連れ去られていった。


赤い月が、雪深い北方の運命を照らしていた。

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