②
向かった先は婚約者サイラスの屋敷。
屋敷の門が開かれたとき、エレオノーラは糸が切れたように崩れ落ちた。
「エレオノーラ!?」
執事に呼ばれ、飛び出してきたサイラスが、慌てて彼女を抱きとめる。
その声は温かく、優しい。
「ひどい……傷だらけじゃないか。すぐに手当てを――」
涙が滲む。ようやく安堵できる場所に辿り着いたのだと思った。
サイラスは彼女を部屋へと導き、椅子に座らせると、柔らかく笑んだ。
「落ち着いて。温かい茶を持ってくるよ」
彼はそう言って部屋を出て行った。
やがてドアの前に数人の足音が近付く。
戻ってきたのは――アレキウスの私兵たちだった。
「……な、なぜ……?」
エレオノーラの声は震えた。
背後からは鎧の音が響き、兵たちが彼女を囲む。
その時、再び現れたサイラスは、茶ではなく冷笑を携えていた。
「何故だ……?そなたは……私を守ってくれるはずでは……!」
エレオノーラの蒼眼に浮かぶ絶望に、サイラスは嘲るように笑った。
「守る?笑わせるな……!俺はずっと、お前が嫌いだった」
「……え……?」
「誰もが称賛する皇女……強さも、美しさも、全てを持つお前に! 俺がどれほど劣等感を抱いてきたと思う!?」
怒号が部屋を揺らす。
「俺は常に、お前の影だった!婚約者として従うしかなかった……だが、心の中ではずっと、お前を憎んでいたんだ!」
その瞳には、長年押し殺してきた嫉妬と劣等感が燃えていた。
エレオノーラは唇を震わせた。
「……そんな……私を好きだと、傍で支えると言ってくれていたのは……あれは……」
「演技だよ!」
サイラスは嗤った。
「お前が捕まるのを見られる日を、どれほど待ち望んでいたか!」
私兵たちの手が、エレオノーラの腕を掴む。
必死に抵抗するが、数人に押さえ込まれ、鎖が鳴った。
「くそっ!離せっ!」
抵抗も虚しく、サイラスはその姿を眺めながら愉悦に歪んだ笑みを浮かべていた。




