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向かった先は婚約者サイラスの屋敷。

屋敷の門が開かれたとき、エレオノーラは糸が切れたように崩れ落ちた。


「エレオノーラ!?」

執事に呼ばれ、飛び出してきたサイラスが、慌てて彼女を抱きとめる。

その声は温かく、優しい。


「ひどい……傷だらけじゃないか。すぐに手当てを――」


涙が滲む。ようやく安堵できる場所に辿り着いたのだと思った。


サイラスは彼女を部屋へと導き、椅子に座らせると、柔らかく笑んだ。

「落ち着いて。温かい茶を持ってくるよ」


彼はそう言って部屋を出て行った。

やがてドアの前に数人の足音が近付く。

戻ってきたのは――アレキウスの私兵たちだった。


「……な、なぜ……?」

エレオノーラの声は震えた。

背後からは鎧の音が響き、兵たちが彼女を囲む。


その時、再び現れたサイラスは、茶ではなく冷笑を携えていた。


「何故だ……?そなたは……私を守ってくれるはずでは……!」


エレオノーラの蒼眼に浮かぶ絶望に、サイラスは嘲るように笑った。


「守る?笑わせるな……!俺はずっと、お前が嫌いだった」


「……え……?」


「誰もが称賛する皇女……強さも、美しさも、全てを持つお前に! 俺がどれほど劣等感を抱いてきたと思う!?」

怒号が部屋を揺らす。

「俺は常に、お前の影だった!婚約者として従うしかなかった……だが、心の中ではずっと、お前を憎んでいたんだ!」


その瞳には、長年押し殺してきた嫉妬と劣等感が燃えていた。


エレオノーラは唇を震わせた。

「……そんな……私を好きだと、傍で支えると言ってくれていたのは……あれは……」


「演技だよ!」

 サイラスは嗤った。

「お前が捕まるのを見られる日を、どれほど待ち望んでいたか!」


私兵たちの手が、エレオノーラの腕を掴む。

必死に抵抗するが、数人に押さえ込まれ、鎖が鳴った。


「くそっ!離せっ!」


抵抗も虚しく、サイラスはその姿を眺めながら愉悦に歪んだ笑みを浮かべていた。

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