7.JA(農協)悪玉論について【生産者虐め?】
JA(農協)は、主に農業者(農家さんや農業法人など)が組合員になり、農業生産力の増進や農業者の経済的社会的地位の向上を主な共通する目的にとする協同組合です。
つまり、JAは生産者(農家さんや農業法人など)が出資者であり運営者でもあります。
出資者であり運営者である組合員(生産者)を虐める理由も利点もありません。
全体(JA)の方針と所属する個人(組合員個人)の思惑が一致しないのは、人間の集団である以上はJAに限らず当然ある話です。
ですから、JAへの不満を表明する生産者がいるのは当たり前な話です。
(1)JAの買取方法
『JAは米農家から安く買い叩いて儲けているじゃない』
よく見かける印象がありますが、誤解かミスリードがあると思います。
そもそも論ですが、協同組合は基本的には営利を目的としていないので、利益(非営利組織では「利益」ではなく「剰余」という言い方が使われる例が多いようです)が得られたら組合員に還元します。
その還元方法ですが、協同組合原則の第3原則「組合員の経済的参加」の中に剰余金の配分方法があるのですが、その配分方法の一つに『協同組合の利用高に応じた組合員への還元』という旨の文言があるように、直接の還元の場合は、協同組合のサービスを利用した金額に対しての返金(利用割り戻し)の形が好まれます。
ですから、百歩譲ってJAが中抜きしていたとしても、その中抜きしたお金は組合員に還元されます。
同原則に『出資金に対して配当がある場合でも通常制限された率で受け取る』とあるように、出資金に対する配当金(出資配当)は、あまり好ましい還元方法とは考えられていません。
そういう還元方法が好みなら株式会社にして株主になってくださいってことですね。
同原則にある利用割り戻し以外の他の剰余金の配分方法は『協同組合の内部留保にして協同組合の発展のために使うことでの還元』と『協同組合の活動以外の活動を支援をすることで協同組合の社会的地位の向上を図ることによる還元』という旨の文言があります。
こちらは間接的な還元ではありますが、組合員に還元しているのは間違いありません。
そうは言っても、異様に安く買って高く売っているように見える絡繰りがあります。
それはJAの農産物の買取及び販売におけるリスク回避策です。
JAが生産者から農産物を買い取るばあい、基本的には二通りの買い方があります。
一つは一括払いで、もう一つは概算払いと本精算の二本建てです。
(1-1)一括払い
一括払いは普通の商取引と同様で、JAと生産者が価格や数量や納品時期などの納品条件が合意できたら取引するというもの。
JA以外の業者との取引は通常この方法が採られます。
通常というからには他の取引方法もあるのですがここでは割愛します。
この一括払い方法は、売り手も買い手も在庫リスクや価格変動リスクを負っています。
市場価格が変わってその時に売買したから損したとか売買していたら儲かったのにという事が起こりえます。
これは需給関係で市場価格が変動する以上は避けられないものです。
但し、収穫からスーパーなどの店頭に並ぶまでの時間が比較的短い農産物(野菜など)なら、ある程度の市況は読めますのでこの契約形態になることが多いと聞いたことがあります。
(1-2)概算払いと本精算の併用
もう一つの二本建てですが、これは収穫から店頭に並ぶまでの期間が長くて市況を読み切れない農産物の価格変動リスクを小さくするための方法です。
典型例が米です。
米は基本的には一年に一度の収穫で一年間売ることになります。
秋の収穫の前の段階で収穫までの天災などでの収穫の減少やら来年までの全国的な需給状況や価格推移を完璧に読み切った買取価格と買取数量をJAが提示することも生産者が要求することも不可能だと思います。
ですから、収穫前の段階で「概算払い」といって一旦の価格を提示して納品された量に応じて概算金を支払います。
収穫時期の前に提示するのは収穫したらすぐにJAに納品できるなら生産者は保管場所を確保しなくてもよいので収穫時期の前に概算金を提示します。
そしてJAは概算金で仕入れた米を保管しながら売却していきますが、この一年間の米の営業利益を納品量などに応じた額の「本精算金」を納品した生産者に支払います。
これはJAは協同組合であり、生産者はJAの議決権を持つ組合員なので取引内容を全て自らの目で見て確認できるから成り立つ方式とも言えます。
市況の変動や納品数量の読みが大外れして損失がでてしまうと、本精算がマイナス、つまり概算金を受け取った生産者に「お金返して」という事態にもなりかねません。
“そんなのはJAの判断ミスなんだからJAがかぶれよ”という意見も一理ありますが、そのJAを運営しているのは当の生産者でもあるのです。
他の生産者に“俺の利益のためにみんなは損をかぶってくれ”っていうのは難しいですよね。
まあ、他の生産者もお互い様なところはありますので少々ならお目こぼしはしますので、本精算で返金要求の事例は少ないです。
何例かあったと聞きますが詳細は知りません。
ですから概算金は“これ以上買取価格が下がることはないだろう”という買取価格の底値での提示になることが多くなります。
JA以外の業者は基本的には一括払い方式ですので、概算払いと同じ金額で売ってくれる生産者はいませんからJAの概算払いに上乗せした価格を提示します。
幾ら上乗せするかは個々の業者の経営判断ですが、JAが提示している概算金の価格を参考にして幾ら上乗せするかを検討します。
生産者は本精算がどれぐらいになりそうかという読みをして、それと業者が提示する上乗せ分を比べて損得勘定をします。
普段の付き合いとか彼我の信用とか柵とかも加味して、どこにどれだけ売るのが自分の利益になるかを考えてどこにどれだけ売るかを決めます。
(1-3)買い叩きと受け取られかねない要因
米卸売業者などが生産者やJAから米を買い取る価格を相対取引価格というのですが、相対取引価格はJAが提示している概算価格に上乗せした金額になります。
当然ながら概算価格は相対取引価格より安価になりますし、需要の逼迫などで業者の上乗せ額が大きくなるとJAが安値で買い叩いているように見えなくもありません。
考えて欲しいのですが、相対取引価格が上昇すると、JAの営業利益が上がり、本精算金が増えます。
概算払いと本精算の合計は、生産者が高値で売り抜けたときに得られる利益には及びませんが、売った後に高騰したなどで安値で売ってしまったときよりは確実に利益を得られます。
例えが適切かはアレですが、サイコロを1個振って出た目に10万円を掛けた金額を受け取る(相対取引)か、期待値の35万円を受け取る(概算払い+本精算)かの選択で、どちらを選ぶかは生産者が決める話です。
市況や他の産地などを読んで高値で売れると思えばそうすれば良いし、面倒だからJAに任せるとしてもかまいません。
しかし、概算払い価格と相対取引価格しか出さなければ、この取引の仕組みを知らなければ買い叩いているように見えます。
概算払いはその後に本精算があり、生産者が受け取るお金はその合計ですが、本精算は来年にならないとどれだけの額になるかは分かりませんので、その金額を示すことは人間には無理です。
それと、業者の上乗せ額が本精算より高いという事もあり得ます。
概算払いと本精算の組み合わせは価格変動リスクに備えたものですので、最小利益の取引にはなりませんが、最大利益の取引にもなりません。
(2)JAは他の業者より条件が悪い
生産者から農作物を買い取るのはJAだけではありません。
JAの概算価格を出してからJA以外の業者が相対取引価格を決める後出しじゃんけんですからJAの方が条件が良いなどあり得ません。
一括払いだとしてもJA以外の業者はJAの値段をみて相対取引価格を出すのでJAは絶対に勝てません。
昨今の米については上乗せが凄い業者に押されてJAは米の確保に難儀しているようです。
それに販売先が先に決まっている事もあります。
卸売業者や小売業者、外食産業などが個々の生産者(農家さんや農家さんのグループなど)と契約することが多いイメージがありますが、栽培方法まで決まっている契約栽培とか、全量買い取りで幾らとか、納品時期や量を定めて幾らといった契約を締結することもあります。
この場合、JAより悪い条件なら生産者はJAに売ればいいので絶対にJAより良い条件になります。
JAの役目は『最低価格はここだ!』と他の業者に示すこととも言えます。
JAが安値で買い叩こうとしてもそれより良い条件を提示する業者がいたら生産者はその業者に売る可能性は高いと思います。
JAには値段以外のメリットなり柵なりがある事もあり得ますから絶対とはいいません。
JA以外の業者でも生産者個人はその業者に義理やらなんやらの柵がないとも限りませんが。
しかし、どこにどれだけ売るかは生産者が決める話です。
JAも概算払いと本精算の二本建てをやめて一括払い一本にすればいいじゃんって意見もあるでしょうが、先に述べたとおり、価格変動リスクなどに備えた保険のようなシステムでもあるのです。
(3)JAに売らないと罰則?
SNSで「JAに“米を売らないなら違約金を払え”と言われた。理不尽だ!」という旨の投稿を見たことがあります。
しかし、筆者には「JAに対する無理筋な言い掛かり」にしか思えません。
そもそもですが、組合員(生産者)にJAに売らないといけない義務はありません。
全量をJAに売っている生産者もいますし、一部はJAへ残りはJA以外に売っている生産者もいますし、全量をJA以外に売っている生産者もいます。
契約の自由があるのですから、生産者はJAの買取価格や数量や納品時期などの納品条件の交渉に合意すれば売ればいいし、合意に至らなければ売らなければいいのです。
合意して売買契約を締結するか同意せず売買契約を結ばないかは個々の生産者の経営判断であり、他者が口を挟めるものではありません。
また、JAも組合員(生産者)の農作物を買い取る義務はありません。
JAは生産者の自助組織でもあるので、事情によっては少々無理をして損を承知で買い取る事はあるかもしれませんが、度が過ぎると他の組合員の負担が大きくなり不平等になりますから他の組合員がお目こぼしできる範囲になりますが。
ならば「JAに売らないからといって違約金を払う云われはないのでは?」と思われるでしょう。
生産者は、米の作付け前や米の概算払い金額が提示されたあたりなどで、どれぐらいの量の米をJAに売るかの売買契約を締結します。
そして、JAは売買契約に基づいて米を保管する場所を確保しています。
つまりは件の投稿者は「業者の上乗せがとても大きいから既にJAと結んでいる売買契約を反故にする」という『自分の信用を棄損して』『JAに違約金を払って』『(売っていないので当然ですが)JAの本精算も受け取れなくなって』でも『業者に売った方が得だ』と判断したからJAには売らずに業者に売っただけの話です。
四の五の言わず素直にJAに違約金を払えばいいだけの話です。
失われた信用は戻りませんが、それも含めての決断でしょうから、その点についてはとやかくは言いません。
それをあたかも「JAが悪くて、自分に非は無い」と言わんばかりの言い草には……
筆者は「自分の不義理を声高に全世界に晒す行為」に恐怖しましたよ。
件の投稿者は「今まで指定数量(売買契約を締結した納品数量)を納品できなくても違約金なんか無かった」という旨の投稿もされていました。
収穫前の段階(何なら作付け前の段階)で締結しているのですから、締結以降に発生した災害や天候不順や病害や虫害や獣害などの不可抗力的な原因で納品条件を満たせなくなる事は農産物なら普通にあり得ます。
JA以外の業者との契約だと、そういう場合でも結構高額の違約金を請求されるので、生産者は同じ作物を栽培している他の生産者から買ってきて契約通りの納品をします。
しかし、JAは自助組織でもあるので、よほど悪質でない限り契約通りに納品できなくてもJAが違約金を請求することはありません。
件の投稿者は「JAの概算金だと倒産するという特別な事情があった」という旨の投稿もされていましたが、それなら「何でJAにその値段で売る契約を締結したの?」としか言えません。
よほど悪質でない限り契約通りに納品できなくてもJAが違約金を請求することはないというのは、裏を返せば人為的かつ悪質なケースだと違約金を請求しないと契約通り納品してくれている他の生産者に示しがつかないという事です。
この違約金が“JAに米を売らないなら違約金を払え”です。
しかも、JAが請求する違約金の金額は、通常の商社などが請求する違約金と比べると非常に安価で“形だけ”感まであるのですが。
この話を例えるなら
あなたがとある人気商品の予約をしていてお店に買いに行ったら商品が無かった。
店主が「うちも手を尽くしたけど、卸から入荷がなくて申し訳ないが予約商品はないんだ」というならまだ許せるかもしれません。
しかし「さっき定価の五割増しで売ってくれって奴が来たからそいつに売った。だからあんたの予約した商品はもうない。あんたが定価の五割増し以上にしなかったのが悪い。うちの店は何も悪くない」って言われたらどう思いますか?
「そうですか。私がもっと高値を提示しなかったのが悪いので仕方ないですね」となりますか?
そしてそのお店を今後も信用して贔屓にして使いたいと思いますか?
これはそういう話です。
(4)JAを通してないのに手数料を請求された
「農家さんと直契約して仕入れたのにJAに手数料を請求された」
「小売店舗と直契約して出荷したのにJAに手数料を請求された」
これらも偶に見かけます。
これの絡繰りですが、JAの共同出荷場を利用したので共同出荷場の利用料金を請求されただけです。
洗浄・選別・加工・包装なども機械化が進んでいます。
しかし、それらの機械は作物が変われば別の機械が必要になります。
一つで何種類かの作物に対応できる機械もあるでしょうが、ナスとキュウリとトマトとニンジンとホウレンソウとジャガイモとキャベツが同じ機械でできると思いますか?
野菜農家さんは複数種類の野菜を栽培している事が多いので、自前で何種類もの機械を揃えるのは難しくなりますし、例え一種類であってもそういった機械は高価なこともあるので採算が取れない事もあります。
また、自前で用意できる安価な機械は操作に技量が必要だったり低能力な事も往々にしてあります。
そこで、JAが高価で操作が簡単で高性能な機械を設置した出荷場を用意して複数の野菜農家さんが共同で利用しています。
生産者がJAに販売してJAが卸売業者や小売業者や料理店などに販売するときは、共同出荷場の利用料金はJAの経費に紛れるので、生産者や購入者には共同出荷場の利用料金は意識されません。
しかし、生産者が直接売るときに共同出荷場を利用したら当然利用料金が請求されます。
共同出荷場を利用しないといけない義務はないのですから共同出荷場の利用料金を払いたくないなら利用しなければよいのです。
共同出荷場の利用料金の請求先が売主なのか買主なのかは生産者と買主が締結した契約に拠ります。
そしてそのことを知らない側に押し付けられることが往々にしてあります。
もちろん、それを知った上で自分側で負担する契約を締結することもあります。
普通はこっちで、無理筋な愚痴はこぼしませんが。