5.米の生産費の低減案
単位生産量当たりの生産費、例えば玄米1俵(60キログラム)を生産するのに要する生産費が下がれば生産者米価を下げられる。
生産者米価が下がれば消費者米価も下がる。
理屈としては分からなくもないです。
しかし、現実には『需給関係で決まる消費者米価が下がれば単位生産量当たりの生産費に関わらず生産者米価が下がる』というのが数十年続いています。
そんな状況に置かれている生産者が生産費を下げる努力をしていないとでも?
様々な方法が検討されて、それで効率化できるケースでは既にやっています。
つまり、現時点でやれる事は全てやっていて、それでも生産者米価の下落の方が大きく、多くの米栽培の経営体が赤字になっているのが現実です。
今後も生産費を下げる方法は考えられ、それが有効なケースでは適用され続けていくことでしょう。
だから素人がぱっと思い付くような対策は、既に試みられていて想定していなかったことや影響やメリットデメリットの洗い出しがされて、どういうケースだと有用かというところまで判明していて、有用なケースでは既に実施されていると思った方が良いかもしれません。
以下、よく目にすると感じる生産費低下のための方策について考えてみます。
(1)大規模化(高効率化)
米は一つの農業経営体の経営耕作面積が増えると単位生産量当たりの生産費が低減する傾向が高い作物です。
令和4年度の農水省の調査による作付け規模別の玄米1俵(60キログラム)当たりの生産費
0.5ヘクタール未満 ⇒ 25,811円
0.5~ 1ヘクタール ⇒ 20,567円
1~ 3ヘクタール ⇒ 16,836円
3~ 5ヘクタール ⇒ 14,262円
5~10ヘクタール ⇒ 12,632円
10~15ヘクタール ⇒ 12,244円
15~20ヘクタール ⇒ 10,797円
20~30ヘクタール ⇒ 11,058円
30~50ヘクタール ⇒ 11,051円
50ヘクタール以上 ⇒ 9,646円
令和4年度の生産者米価は玄米60キログラムで13,500~14,000円ぐらいでした。
経営耕作面積が広くなるほと単位生産量当たりの生産費が下がるということは、経営耕作面積が狭いほど単位生産量当たりの生産費が上がって収支は加速度的に悪化するし、集約化して経営耕作面積を広げれば加速度的に利益を得やすくなるという事でもあります。
なら集約化すればいいじゃないと思うでしょ?
集約化して高効率にできるところは集約して大規模化を現在進行形でしています。
ここで大事なのは『高効率になる』であって、集約化は高効率にするための手段の一つでしかありません。
集約化しても効率が変わらないか悪化することもありますから、何でもかんでも集約化すれば良いというものではありません。
大規模化して単位生産量当たりの生産費が下がるのは、大きな高性能農機を使って時間当たりの作業面積を広くできるからで、極論を言えば『田んぼ一枚の面積を大きくして高効率な大きな農機を使える場所』=『集約化して単位生産量当たりの生産費が下がる場所』です。
水田は水を張るので水平じゃないと駄目なので、水田の集約化が意味をなすのは平野や盆地などの平地であって、棚田などの中山間地域では集約して大規模化しても効率は良くなりません。
最初から大規模区画を志向して計画された大潟村ではきれいな長方形の水田一枚が1.25ヘクタールもあります。
既存の水田は、最近では複数の水田を1枚に統合して大規模区画化と効率化も進んでいたりしますが、明治時代から行われてきた土地改良事業では水田一枚が1反というところが多かったのもあって、1枚が1反=0.1ヘクタールというところも多々あります。
※加賀百万石とかの石ですが、江戸時代には1反の水田を(実際は水田の質によって石盛で上下はしますが)1石としてカウントしていましたので、1反というのは明治時代にはとても分かりやすい農地の単位なんです。
仮に1枚1反≒10アール=0.1ヘクタールと比べると、大潟村は12.5倍もの面積があるという事です。
筆者は大潟村の水田を見たことがありますが、あまりの広さに最初は脳が理解を拒みました。
「嘘だろ? これ本当に水田か? いや、水も張ってあるし植わってるのは間違いなく稲だ。なら水田か。縦横の長さは100メートルぐらいはあるように見えるから一枚で一町歩(1ヘクタール)はあるんじゃね? えっ? 10倍以上ある!?」というのが最初に見たときの感想です。
その後に見学した大潟村干拓博物館(「道の駅おおがた」にあります)で、私が見た水田が大潟村標準の1.25ヘクタールなのを知りました。
北海道や昭和中期の開拓事業ではこういった大規模区画で開拓がされており高効率を実現しています。
まあ、昭和中期の開拓事業や土地改良事業は、ようやく真っ当な質と量の米が生産できるようになったころに減反政策で梯子を外されたのですがね。
一方で土地改良事業でも対象外になり小さな田んぼや畑が密集しているところもあります。
棚田や段々畑と呼ばれる農地です。
均平で長方形で面積が広い圃場は、農機の作業効率も生産管理もしやすい=高効率で単位生産量当たりの生産費が低いのですが、不整形で面積が狭い段々畑や棚田は農機も使いづらく手作業が大半になり単位生産量当たりの生産費は高くなります。
農業経営体当たりの経営耕作面積を増やすには、より高性能な農機が前提になりますが、高性能な農機が十全に能力を発揮するには均平で長方形の大規模区画が望ましいのです。
ただ単に経営耕作面積が広ければいいというものではないのです。
手作業と農機の差で分かりやすい田植えを見てみましょう。
江戸時代には1反の田んぼの田植えを一日で終えたら一人前という地域がありました。
1反の田んぼに現代の田植え機で田植えすると、比較的低能力の4条植えだと20分ぐらい、高能力の8条植えだと10分もかからず終えられます。
中には田植えと同時に施肥もできる田植え機も存在します。
仮に3時間で1反の田植えができる超優秀な熟練作業者がいたとしても、その超優秀な熟練作業者の9倍から18倍ぐらいのスピードで田植えができます。
手作業と農機だと桁違いの能力差があるのです。
耕作面積が広いなら相応の初期費用や運用費用がかかっても田植え機で作業する方が安く済みます。
逆に耕作面積が狭いなら初期費用や運用費用で足が出ます。
また、耕作地が纏まっていれば稼働率が高くなりますが、分散して離れていたら移動時間の分だけ稼働率が落ちます。
それと……農機の世界では基本的に「高能力=でかい」です。
農機が作業をしながら動けるスピードには限界があります。
仮に時速100キロメートルで耕すとなると土は時速100キロメートルの物にぶつかられたのと同じですから耕すというよりも土をぶちまけてしまうので意味をなしません。
だから農機を高能力化するというのは作業部の幅を広くして同じ距離を動いたときに作業できる面積を広くするという事です。
先の田植え機の4条植えは一度に4列の苗を植えられるのですが、8条植えは2倍の8列植えられます。
同じ面積を田植えする場合、4条植えは8条植えの2倍の距離を動かないといけないので2倍の時間がかかるのです。
しかし、田んぼが小さいと高能力な農機は大き過ぎて取り回しが難しくなります。
つまり、高性能農機の前提は大規模区画ということになります。
大規模区画に集約できて高性能農機を使って高効率に栽培している農業経営体ほど単位生産量当たりの生産費が低いというのは、ある意味では当たり前な話です。
作付け規模が大きくなるほど単位生産量当たりの生産費が低いという調査結果がでているというのは、取りも直さず集約化が有効な場所では集約化して単位生産量当たりの生産費を下げているという事です。
集約して機械化を進めるのが難しい中山間地域は、集約しても効率が変わらないとか下手すると効率が悪化することもあるので、そういうところが小規模で残っているという事でもあります。
(2)非効率なところは止めれば
大規模区画に再編できず効率化が図れないところの水稲栽培を止めれば全体の米の生産原価率は下がるでしょうが、米の総生産量は激減します。
農業経営体当たり経営耕地面積ですが、農水省の調査では令和6年度は全国平均3.6ヘクタール(北海道平均34.1ヘクタール・都府県平均2.5ヘクタール)です。
平成27年の全国平均2.54ヘクタール(北海道平均26.51ヘクタール・都府県平均1.82ヘクタール)と比べると集約化が進んでいますが、それでも残っている中小規模の農業経営体は数多あるのです。
都府県でも集約が進んでいて大規模農業経営体も誕生していますが、まだまだ中小規模の農業経営体が圧倒的多数という状況が読み取れます。
ですから、少数の大規模農業経営体だけが米を栽培して、圧倒的多数の中小規模の農業経営体に米栽培を止めさせたら生産量は半減どころの話ではありません。
非効率になりやすい狭い水田が残っている理由は幾つかあります。
採算以外の理由で水田を残す必要がある
千枚田などが代表例ですが文化遺産的な事情とか、地域の治水に関して重要な水田などは採算度外視で残す水田です。
そういう水田は場合によっては公金をつぎ込んでも維持すべき水田なので、幾ら非効率でも止められません。
未解決の課題があって進められない
用水路などのインフラの整備や他地域を含めた水利権に課題があるなどが該当するかと思います。
こちらは課題が解決すれば集約化もあり得るとは思いますが、簡単に解決するなら課題として残っていないという現実もあります。
集約の費用対効果が高くない
棚田ほど極端ではないにせよ扇状地などで緩やかな傾斜が続いていて広い面積を均平にするのに向かない地勢などで集約に要する費用が嵩む場合です。
費用対効果が高いところから着手されますので、手が付けられていないところは相対的に費用対効果が低いところが残りやすいです。
ここまでは集約化が難しいとか集約化する効果が低いのである意味ではどうにもならない部分と言えます。
地権者の合意が得られない
地権者≒農家さんですが、農家さんは一国一城の主で経営者ですから外野があれこれ口を出せるものではありません。
離農していて耕作放棄地になっているならともかく、幾ら農業経営体としては赤字であっても経営者が農業以外で得た収益で補填するなどしていて営農を継続する意思があるなら、外野が「あなたの経営している農業経営体は非効率なので、廃業して農地を売り払ってください」とは言えません。
それと……これは農地に限った話ではないですが、地域の中の人間関係もあったりもします。
人間は二人以上いたら派閥ができる生き物ですので「あいつが合意するなら俺は合意しない」という事もあると思います。
高速道路などの公共用地とか工業用地とかでの土地の買い取り交渉ではよく遭遇します。
こういった地権者の合意が得られないという事には上手い解決策は分かりません。
仮に強引に進めるとなると、中小規模の農業経営体を強制的に廃業させて農地を大規模農業経営体に吸収させる事になります。
自動車産業では過去にも同業の大企業と合併するよう国から強い指導があったこともありますが、農業に当てはめるのは無理筋だと思います。
なぜなら、農業経営体が合併したら経営者自身が失業するからです。
仮に10の面積の耕作地で営農していた農業経営体が10社あったとして、それを全部統合して100の耕作地を持つ1社の農業経営体にしたとします。
その時にそのままの人数で営農していたら効率は上がりませんから、存続しない9社の農業経営体の農業従事者は(何人かは継続する農業経営体に雇われる可能性はありますが)基本的には失業します。
強制的に進めるというのは「あなたの会社は非効率なので廃業して同業の大企業に会社資産を全て売却しなさい。売却に応じないなら強制的に取り上げます。そうそう、あなたの会社の経営者や従業員は必要ありません。あなた方が路頭に迷おうがどうなろうが知ったことじゃありませんので悪しからず」と経営者に言うって事です。
経営者が自らの判断で売却するならともかく、強制的に売却させるというのは財産権の侵害とも取れます。
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日本国憲法 第二十九条〔財産権〕
1 財産権は、これを侵してはならない。
2 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
3 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。
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農地の集約化が公共のために用いると言えるかは疑問があります。
「非効率なのに廃業して売却しないなんて利己的な農家の好き勝手やりたい放題を許していいのか! そのとばっちりで私が消費者米価の高騰という不利益を受けるいわれはない」と思われるかもしれませんが、私企業の経営方針なんですから法令に反しない以上は勝手は許されて然るべきです。
それに、そういう生産者が赤字や低収益だから米を高く売るという事もできないんですよ?
そういう生産者が費やした生産費より低い価格でしか買ってくれない状況なんですから、そういう生産者がいるから消費者米価が高騰しているのではありません。
もしもそうなら消費者米価はもっと高い状態のままです。
50年前の白米5キログラムの価格を現在の価値に当てはめると約12,000円です。
原価積み上げで単位生産量当たりの生産費から生産者米価が決まって生産者米価から消費者米価が決まっているのだったら令和5年度の白米5キログラムが約2,000円まで下がるわけがないじゃないですか。
令和7年6月の白米5キログラムが約4,300円だって原価積み上げでみたら安すぎるぐらいですよ?
身も蓋もない話ですが、単位生産量当たりの生産費を下げても消費者米価は下がりません。
なぜなら、単位生産量当たりの生産費や生産者米価が消費者米価を決めているのではないからです。
生産者米価は原価積み上げの単位生産量当たりの生産費から決めていません。
生産者米価は消費者米価が幾らかで決まるんです。
そして消費者米価は需給関係(主に需要)で決まります。
(3)農機のレンタルやリースで費用を抑える
それで効果があるところは既にやっています。
昔から農機のレンタルやリースをやっている会社は存在しますし、数件の農家さんが共同で農機を購入して順番に農機を使うとかもやっています。
あくまで『効果があるケースなら』ですが。
筆者が知っているレンタルされることが多い印象がある農機はストーンピッカーやストーンクラッシャーです。
世の中には摩訶不思議なことに石が収穫できる畑があるのですよ。
畑の中の石を全部取り除いても数年も経つと畑の中に石が混じってくるのです。
その石を全部取り除いてもまた数年経つと石が混じってくるという……
石と砂を混ぜたものに振動を与えると石が表面に浮いてくるという『ブラジルナッツ効果』と呼ばれる現象があるのですが、これが近隣の道路の振動とか耕作時の振動などでブラジルナッツ効果が起きて地中深くの石が浮き上がってくるのです。
そういう畑だと何年かに一度ぐらいの頻度で畑の石を取り除いたり石を砕いて砂にするなどをしないといけません。
その石を取り除く農機がストーンピッカーで、土を掘り返して篩にかけて石を収穫(?)するのです。
収穫(?)した石はどこかで処分する必要があるのですが、処分が大変だったら石を砕いて砂にして畑に返すという方法もあります。
その石を砕いて砂にする農機がストーンクラッシャーです。
土を掘り返して篩にかけて大きい物体をゴリゴリ砕いて粉にするのです。
そういう地域だと近隣の農家さんの畑でも石が収穫できることが多いので「地域全体で一台か二台あって順繰りに使っていって一回りする頃は何年か経っている」という事が成り立ちますし、使用時期も何も植えてない状態ならいつでも良いのでレンタルすることが多いのです。
このような『保有するよりレンタルした方が費用が削減できる種類の農機』は既にレンタルされています。
逆に条件的に厳しい例が多いと思われる農機は「田植え機」や「播種機」や「収穫機」などでしょうか。
これらに共通している特徴は以下の通りです。
『使う時期の選択がシビア』
『近隣は基本的には同条件なので使う時期がほぼ同じ』
種まき・田植え・収穫は適期というこの時期に行うのが良いというものがあります。
その適期の中で生産者の都合や準備状況や気象条件なども加えると下手すると作業できるのが一日しかなくて、その日にやらないと収穫減の可能性が跳ね上がるという事もあり得るのです。
生産者の都合
兼業農家に多いと思いますが「田植えのために纏まった休みがとれるのがGWぐらいしかない」などが分かりやすい例でしょうか。
時期をおいて細々と田植えすると稲の育ち具合がバラバラになって管理が難しいし、苗もそれに合わせてバラバラに育てないといけなくなります。
専業であってもヘルパーさん(農作業のアルバイトさんみたいな感じ)の日程とかも関わってきます。
準備状況
田植えだと田植えをする日に合わせて苗が未成熟すぎず育ち過ぎずの田植えに適した状態になるよう育てないといけません。
種を蒔く作物でも発芽しやすいように催芽しておくなどの準備が必要で、それら種や苗の進行状況と田植えや播種(種まき)作業を一致させないといけません。
気象条件
天候が農作物に及ぼす影響は絶大なので、農家さんは自然を相手に闘っています。
著者が知っている農家さんの多くが複数の有料の天気予報を併用して備えています。
晴耕雨読という言葉があるように、基本的に雨天に農作業をするのはよろしくありません。
水分が多い状態の土壌を踏むと土が沈み込んで固まってしまうし、農機がスタックして動けなくなる事もあります。
農家さんが自虐的に「ブラジルに向かってしもた」と仰られることがあるぐらい、農家さんからするとあるあるだったりします。
このブラジルを目指した農機は他所の農家さんのトラクターなどで引っ張り出してもらうことも多いのですが、引っ張りだした農家さんが「今日はトラクターを収穫した」なんて冗談を仰られることも。
雨天で言えば稲刈りも雨が降った直後とかだと籾の水分が多くなり色々と悪さをしますし、乾燥させる手間も使用する燃料も増えます。
雨天以外にも霜もあります。
芽吹いた直後に降霜があると全滅もあり得るので、遅霜がきそうかどうかなども関わってきます。
他にも施肥なども雨が降ると流されて効果が薄まるとかもありますし、病害虫が発生しやすい気象条件というのもあって、危険度が上がったら直ぐに防除するなどもしています。
これらを全部考慮していくと、自分で保有して「今やる」と決めたときに今すぐ使える自分の耕作地に適した大きさの農機があるってのは凄く心強いのです。
同じ種類の農機でも個々の生産者が耕作している田畑に適した農機の大きさは異なります。
なぜ田植え機に2条植え・4条植え・5条植え・6条植え・8条植え・10条植えなど多種多様な種類があると思いますか?
水田の形や広さ、水田までの農道の状態、運搬車からの積み下ろしの可否など、それと田植え機の値段と維持費から運用できて採算が採れる田植え機の種類が異なるからです。
確かに田植え機や収穫機は一年のうちに数日しか使いません。
だから「数日しか使わないならレンタルで良いじゃないか」という意見も自然なものかもしれません。
しかし、田植えや稲刈りはその地域で必要な時期はだいたい一緒ですので、仮にこれを全部レンタルで行うとしたら田植え機や収穫機を保有しているレンタル会社が生産者に田植え機や収穫機を貸し出せるのもその地域だけなら年に十数日ぐらいしかないということです。
だから年の大部分を農家さんの納屋で眠るかレンタル会社の倉庫で眠るかの違いしかなく、自己保有だろうがレンタルだろうが稼働率に劇的な変化はありません。
それよりも適期に作業できないリスクの方が怖いと思います。
地域をまたいで田植え前線とか稲刈り前線のように農機が北へ南へと動かしていくなら稼働日数が増えると考えられますが、それが成立する前提は、多種多様な農機を種類別にみても大量に保有していて、それらを迅速に次の場所まで運べて、移送先でも万全に修理や整備できるというのは当然の事として、各地のとても細かいメッシュでの気象状況の推移や個々の田畑の育成具合を完璧に読み切った上で必要になる農機の種類と予備機含む台数を計画して『個々の生産者が必要な日に必要な種類の農機を完璧に整備された状態で貸し出せる』という全知全能の神じみた能力です。
それと自己保有で自分が壊したなら自己責任なので諦めもつくかもしれませんが、前の借主が壊したから予約していた農機が借りれないとか整備不良でちゃんと動かないなどで適期に作業できないなど悪夢でしかありません。
生産者は馬鹿ではありません、というか馬鹿には務まりません。
農機を自己保有している生産者は、損得勘定やリスク管理などを総合的に判断して「自己保有する」という選択をしているのです。
ピンキリなところはありますが、農機一台で数百万円から数千万円の値段がします。
それだけの金額の設備投資の要否の判断をしています。
そして、総合的に考えてレンタルの方が良いと判断したものはレンタルしています。
(4)政府が補助金などで生産費を援助する
例えば、政府が玄米1俵(60キログラム)当たり3000円の補助金を生産者に支払うなら、生産者の玄米1俵当たりの生産費が3000円減るのと同じ効果があります。
その補助金の恩恵を生産者も流通業者も享受せず100%消費者米価に反映したとすると白米5キログラムで280円ぐらいの値下げになります。
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玄米60キログラムを精米すると最大で白米54キログラムになります。
3000円 ÷ 白米54キログラム ≒ 55.6円/白米1キログラム
55.6円/白米1キログラム × 白米5キログラム = 278円
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仮に年間消費量が玄米720万トンで補助金が玄米1俵当たり3000円(100%消費者米価に反映で白米5キログラムで約280円値下げ)とすると補助金総額は3.6億円になります。
白米5キログラムで1500円の値下げを企図すると、玄米1俵当たり16,200円の値下げが必要なので、補助金総額は19.44億円です。
出せない金額ではないとは思いますが、意味や効果があるのかには疑問があります。
仮に白米5キログラムで1500円値下げを目論んだ補助金の額は相当数の生産者の生産費を上回ります。
生産者が恩恵を享受しないという条件なら無料や持ち出しで米を売れ(?)という感じになるので、生産者は補助金を売り上げとして販売しているようなものです。
実質的に国が生産者米価を決定して全量買い取りして、生産者米価より安価な消費者米価で販売するという食管法時代と同じ構図になります。
かつて破綻した制度に逆戻りです。
また、米だけが優遇されるというのも問題です。
特に、かつての減反政策や現在の減反方針に従って主食用米以外の作物を栽培している生産者からすれば減反に応じて減った収入を補填するための補助金の額を増額してもらわないと理不尽ですよね。
これについては国がやると決めればできる話です。
国がそれを決断するのは難しいとは思いますが。