間章① 「知らない横顔の、その横から」
タイムカードを押して、コンビニを出た。
夜風が少し冷たくて、無意識に腕をさする。
レジに立っていた奏多は、相変わらず表情の少ない顔で、
「おつかれさまです」なんて軽く会釈をくれた。
何年も一緒にバイトしてるけど、たぶん彼、
誰にでも同じように接して、同じように距離を保つタイプ。
でもね。
あの子──日和ちゃんが何かしてるときだけ、
ほんの少し視線が長い。
「ねえ奏多くん」
「ん?」
声をかけると、こっちを向く。
その反応は変わらないけど、少し意地悪したくなった。
「日和ちゃんって、今の子」
「うん。知ってる」
「最近さ、大学の同じ学部の男とよく話してるんだって」
「……へぇ」
言いながら、棚に並べてたガムの位置をちょっとだけずらした。
その手つきが、一瞬だけ雑だった。
「……気にならないの?」
「別に」
ああ、また出た。
“別に”って便利だよね。
誰よりも分かりやすくて、誰よりも分かりにくい。
ま、本人に自覚がないなら、それでいい。
今はまだ──ね。
* * *
──レジの前に並んだお客さんを確認して、再び手を動かす。
冷蔵ケースに反射した姿が、つい目に入った。
目がいく。声が聞こえる。
けど理由はない。ただ、なんとなく。
たぶんそれだけのこと。
今は、まだ。