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第2話③ マジカル・フェアリー現る!


 鳥が私を呼んでる……。

 「ねえねえ、起きて」って。

 そんなの構わない。

 寝るの、私は。

 鳥が私を呼んでる……。

 「おい、起きろ!」って。


「はいはい、起きますから」

 いったい誰に返事してるのかわからないけど、私はそう言って布団から目覚めた。

 朝の鳥って、私に話しかけてくれてるみたいな気がしない?

 私だけ?

 もちろん、鳥さんはそんなこと考えてるんじゃないことは、わかってるよ。けど、なんかそんな気がしちゃうの。

 ヘンかな……ヘンかも。

 ……ま、こんなことどーでもいいね。

 ん~っ! と声にならない声を上げながら、のびをしてベッドを降りる。

 ……そーいえば、昨日のアレ、夢だったのかな。

 そう考えながらベランダの方に目をやると、ドーナツを乗せてたお皿が机の上に無造作に置きっぱ。

 夢じゃない!

 私は跳ねるような足取り……といっても二、三歩だけどね……でタンスの方に向かう。

 昨日、彼女を入れた棚の取っ手をつかむ。

 そう。夢みたいだけど、夢じゃない彼女に!

 勢いよく開けそうになったけど、我慢してそーっと開けると……。

 誰も、いなかった。

「ええ‼」

 私は思わず叫ぶ。

 マーシャちゃんが、マーシャ、ちゃんが……。

 春のお花みたいに、春の夢みたいに……。

 静かに、はかなく……消えちゃった。

 そんな!

 私はタンスを二度見する。マーシャちゃんの布団代わりに置いといたタオルは、しわくちゃな状態でそこにあった。やっぱり、マーシャちゃんはここで寝てた。

起きて、どこかに行っちゃったのかしら。

 どうしよう……。私は階段をかけおりる。ママと弟がおはよう、と。

 いつもの朝。

 でも、私にとっては、不安な朝。

 上着だけ羽織って、「ランニングに行ってくる」ってママに言って家を飛び出す。

 マーシャちゃん……。

「あ!」

 庭を出ようとした矢先、私は叫んだ。庭の外からマーシャちゃんが道路からフラフラと走りながら戻ってきたのに気づいたからだ。

「マーシャちゃん!」

 今にも倒れそうなマーシャちゃんの体をそっとつかんで両手にのせる。

「ふらふらでくらくらのキュ~……」

 マーシャちゃんは倒れるように私の手のひらの上で寝転ぶ。

「どうしたの?」

「やつら……やつら……」

 そう言ってマーシャちゃんはガクッと気を失う。

 え……大丈夫⁉

 っと思ったのもつかの間、マーシャちゃんはグーグー音を立て始めた。

 なんだ、寝てるだけね……ひとまずよかった。

「どこ行った⁉」

「いないよ!」

 そう話しながら、息を切らして男の子二人が走ってきた。そして、私の家の近くをキョロキョロ。

 いったいなに……?

「あのちっちゃいのどこ⁉」

「絶対人間じゃなかったよな!」

「ほんとにいたたんだな、小人って!」

 なんて話してるけど……これってマーシャのこと⁉

 マーシャちゃん、この子たちに追われてたんだ!

 そう気づいた私は、マーシャちゃんを両手の中に隠して、急いで部屋に戻った。


「なにがあったの?」

「……はあ、怖かった……!」

 目を覚ましたマーシャちゃんは涙を拭いながら、私の方を向く。

「んーと、えーと、んー……」

 しばらくためらったあと、マーシャちゃんは「はぁ……」ともう一度ため息をついて、話し始めた。

 初めて会った時の元気さがウソみたいなしおしおの顔で、マーシャちゃんは話し始める。

「あたし、この世界をもっと見たくて。外に行ってみたら、外の人間とっても怖かった」

「そうだったの……」

「特に子ども! あたし見て、興味しんしんで追いかけてくんだもん。魔法を使ったら余計おめめキラキラさせる。あと動きが読めないから、変に危ない魔法使うと、子どもに当たっちゃいそうで怖いったらっ!」

 マーシャちゃんはしおしおの顔をまた怒りで燃やす。

 なんだかそんな姿を見てると……

「ふふっ」

「何がおかしいの⁉」

 マーシャちゃんは目をキッと精一杯三日月みたいにつり目にする。子どもに向けてた怒りの矛先を、顔全体で怒りを表現して、私をにらむ。

「ごめんごめん……だって、おかしいんだもん。それにね、マーシャちゃん、子どもに当たったら怖いから魔法使わないって言うんだもん」

「……なんかわるい?」

 そんな目で私を睨まないでよお。別に変な意味じゃなくて。

「優しいのね」

 さっきまでの三日月おめめを満月みたいにまん丸にして、私を見つめるマーシャちゃん。だんだん顔が赤くなって……かわいい!

 っと思ったら、わざ~とらしく胸を張って、

「……てへ! もー、私って優しいんだからっ!」

と言う。

 もう、調子いいのね……。

「はいはい」

「ってやめてよ!」

 ん? なに?

 あ。

 私、気づいたらマーシャちゃんをなでちゃってた。いつも人形を愛でるときのくせで。

「あっごめん……」

 怒られちゃって、私は手を引っ込める。

「も~、穂、そーゆーとこあるよね」

「うう……お耳痛い……ごめん……」

「ま、いいよ。それよりさ、外怖くて住めないよ。一人じゃ向こうにも行けないしさ……」

「向こう?」

「ううん、なんでもないよーん!」

 なんだろう? でも、教えてくれないってことは、言いたくないってことよね。気になるけど、これ以上聞くの悪いかな……これ以上キライになってほしくないし。

「穂、この家に泊めて」

「……」

「イヤ……?」

 とんでもないよ、イヤなんて。

 願ってもない!

「う、ううん。イヤじゃない。ほんとに……いいの?」

 なんか、しつこく聞いたら心変わりしちゃいそう。でも、信じられなくてもう一度おそるおそる尋ねる。

「穂に聞いてるんじゃん……私はそれでいいから聞いてんのに」

 まあ、それもそうね。

「おいしーお菓子とご飯、期待してるから!」

 ぱっちりウインクでマーシャちゃんは言う。

「ずーずーしいんだから……」

「てへっ!」

 ウインクに、舌ペロまで加わる。

 なんてあざとさ。自分のかわいさを理解しているその身振り。

 でもでも、でもね……私はチョロい。そんな顔されると、いいよって気持ちになっちゃうの。

「まあ、ずーずーしいのは分かってる。なんかできることあったら、する」

 その言葉を聞いて、私にはよこしまな考えがふつふつと湧き上がってくる……。

 だめよ穂、そんなことをしては!

 私の良心はまたそう言う。

 でも……。

 ええい、よいではないか! かわいいのが見たい!

 私の悪魔はそう言う。

 うん。私、かわいいの見たい!

「じゃあマーシャちゃん……私の作った服、やっぱり着てほしいな……その、お菓子とかと交換で……」

 ……こんなこと言って。私のバカ!

 あんまり何度も言うと、しつこいよね。

 分かってるの、分かってるのよ……。

「そうだった、穂こーゆー人だった……」

 うっ……まあ、そうだけど。反論のしようがない。

「うーん、うー、いや、えー……?」

 マーシャちゃんは腕を組んで、考え込むけど……。

「そんなのひきょーだ、プンスカのプンプン!」

 マーシャちゃんは私をにらむ。

 なんかチクチクした感じが心の奥からはい上がってくる。

 でも、マーシャちゃんは顔の武装を解除して、ため息をついて言う。

「……って言いたいとこだけど。ま、しょうがないかぁ……いいよ、やってやる!」

「ほんと……?」

「ほんとほんと」

 なんか、これでいいのかなぁって思わなくもないけど……。

「じゃあさ、まずこれ着てよ!」

 どれにしよっかなぁ……。

 うーん。あ、あれにしよっ!

 私がマーシャちゃんに持ってきたのは、ウェディングドレス!

 Aラインだからスカートが広がってて、フリルやベールが付いてて……。

 とってもかわいいのよ。

 マーシャちゃんはドレスを見て、また「はぁ……」ってため息をつく。

 うう……良心がチクチク……。

 でも、とっても似合いそう。

「いいよ、約束だし……お菓子、あるんだよね?」


「きゃーっ! かわいい!」

 ドレスを着たマーシャちゃんは、美しかった。

 ちょこちょこ動くたびにヒラヒラが揺れて……。

 白い風の妖精さんみたいなの。

 マーシャちゃんよく動くから、ヒラヒラもゆらゆらなんだけど……その活発な感じと、本人のかわいさと、ドレスの美しさが、こう、なんて言えばいいのかしら。

とにかく、すっごいグッドバランスなの!

「……変な顔してないで、お菓子ちょーだい!」

 変な顔⁉

 そんな顔してた?

 自覚ないけど……まあ、しててもおかしくないと思っちゃう。

「ごめんごめん……はい、ドーナツ」

「いっただきまーす!」

 昨日のドーナツの最後の残りをあげる。

 でも、変な顔かぁ……。

かわいいものを見るとコーフンしちゃうの、どーにかしたほうがいいよね……。

 う~罪悪感。

 ほんと、かわいいものを見るとコーフンしちゃうの、どーにかしたほうがいいよね……。

 私の心がごめんねでぎゅうぎゅうになってる一方、マーシャちゃんの顔はおいしいでいっぱいだった。

 口の周りはドーナツのカスでいっぱいだし。

 少し反省モードになってる私を見て、マーシャちゃんがくすくす笑う。

「……ま、穂、よろしく! ほどほどに」

「うん……よろしくね」


 私とマーシャちゃんは握手……といっても、私は親指と人差し指で、マーシャちゃんの手をそっと触る感じだけどね。


 こうして、私とマーシャちゃんのおかしな日々が始まったの……。


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