第2話② マジカル・フェアリー現る!
ネックレスが光りながら形を変えて、ステッキみたいになった。ステッキ先頭の装飾はけっこー派手。ジュエル自体は、少し大きくなってステッキの先っぽについている。
か、かっこいい!
なんか女の子の憧れの魔女っ子って感じ。
絵本やアニメみたい。
「ほのお!」
そう叫ぶと、杖の先の石がオレンジに光る。光が小さな火に変わって、杖の先っぽに火がともるの。その火は急激に大きくなって、火炎放射みたいになって、開いたまんまの窓めがけてまっすぐ伸びていく!
マーシャちゃんはニヤリと笑って、すぐに炎を止めた。
私はといえば、あんまりビックリして尻もちをついてた。
「どお? すごいでしょ! あんまあたしをナメないほーがいーよ?」
鼻を膨らませて、マーシャちゃんはそう言った。
たしかにすごい……けど……
「かっこいい……」
私が素直な感想を漏らすと、マーシャちゃんはずっこけた。
「かっこいいってなに! 怖いでしょ!」
いやまあ、確かに怖いっちゃ怖い。おかしいっちゃおかしい。
でも、そんなの、マーシャちゃんが出てきた時点でずっとおかしいので、今さらって感じ。それに……。
「怖いってゆーか、かわいいし、かっこいいわ」
「そんなこと……」
とマーシャちゃんが言いかけると……。
グ~!
とお腹が鳴った。
私じゃない。マーシャちゃんだ。
小さくて可憐なお腹の音。
……可憐なお腹の音ってなんだ……というツッコミはさておき、マーシャちゃんは顔を赤くしたのもつかのま、フラフラと右に左にゆらゆら。
「ペコペコ……お腹スッカラカンのキュ~……」
そう言ってから、マーシャちゃんは床に倒れそうになる。
あぶない! 私は手を伸ばして、マーシャちゃんの体を手のひらで受け止める。
お腹がすいてるなら……ちょーどいいのがあったわ。
ちょっと待ってて、と言って私は台所へ。
「ん~どこかな~あ、あった!」
私は今日作った豆腐のドーナツを冷蔵庫から取り出して、レンジでチンする。レンジだと食感がちょっと変わっちゃうけど、仕方ない。水を入れたコップを持って、部屋に戻る。
寝転んでいたマーシャちゃんは、水とドーナツを見ると目をキラキラさせて、ぴょこんと飛び起きた。
ドーナツにそのままかじりついて、パクパクと一気に一つ食べる。瞬く間にドーナツはマーシャちゃんに消えて、マーシャちゃんの笑顔だけが残る。
手に乗りそうなほど小さなその体で、ドーナツ一個まるまる一気に食べちゃった……なんて食欲。
「そう急いで食べないの。水も飲んで」
「ん」
私がコップを持って、マーシャちゃんにお水を飲ませてあげる。一気にコップの半分ほどの水を飲み干してしまう。
一体その小さな体のどこに水とドーナツが入ってるのかしら……。
そのまま残りのドーナツに手を出す。二個目もペロリと食べてしまった。
「よく食べるわねぇ……」
「いっぱい食べる、元気のしょーこ!」
結局、その袋に入ってた四個のドーナツを全部たいらげてしまった。
「ぷわ~、びみびみナイス! おいしかった!」
なんか色々ビックリだけど……。
ま、おいしかったんならいいわよね!
マーシャちゃんの満足の笑顔を見てたら、なんかもー色々どーでもよくなってきちゃった。
「ふふふ。喜んでもらえてよかった」
こんなかわいい子と知り合えたのは、神さまか仏さまか、はたまた春の風のイタズラか。知らないけど、きっと……運命。
そう思ったら、言うことは一つ。
「……おともだちになりましょ」
「おともだち?」
「そうおともだち。フレンド」
「おともだちってなに?」
マーシャちゃんからは意外な答えだった。友達って言葉を知らないなんて。
「えーと、仲良しってことよ」
私がとっさにできた説明は、これくらいだった。
「えーでも、さっき会ったばっかじゃん。穂のことキライってわけじゃないけど……」
「まあ、そうね。でも、私、マーシャちゃんとおともだちになりたい」
「えーでも、あたし、服着せてくるとか、ちょっとしつこいもん。あたし、しつこい人キライ! やっぱ穂のこともキライ!」
ガーン!
そんなぁ……。
ガッカリした私は、今さらながらに寒さを感じてきた。さっきまでは興奮して、寒さなんか感じなかったのに。
冷たい夜風が私の芯までキンキンに冷やす。
春の風って、夜はこんなに冬の風なのね……。
シュンとした私を見て、マーシャちゃんは申し訳なさそうに、私を上目遣いで見上げてる。
マーシャちゃんは腕を組んで、
「穂のことはキライ。でも、さっきのドーナツは好き」
と言う。
慰めてるつもりなのかな。
……うん。やっぱいい子ね。
「まだ分からないの? おかわり」
マーシャちゃんはニカッと笑ってそう言った。
「はいはい」
ちょっぴりあきれながら、もう
そんな風に笑顔が咲いてしまうと、私には従うしかできないよ。も~ずるいんだから……。
私はドーナツの残りを持ってきて、マーシャちゃんに見せる。袋を見たとたんにぱあっとひまわりのように笑うマーシャちゃん。
そんな笑顔を見て、私にはよこしまな考えがふつふつと湧き上がってくる……。
だめよ穂、そんなことをしては!
私の良心はそう言う。
たしかに、よくない。
私が作ったお洋服を着るのと交換でドーナツをあげようって思ったんだけど。
なんか脅すみたいでよくないわよね。
「はい。ドーナツ」
「わ~い! いっただっきま~すっ!」
ガマンガマン。
マーシャちゃんは一気に食べると寝てしまった。
とろけるようなスヤスヤ寝顔。
寒いといけないから、布団の代わりに体をタオルでくるんで、タンスの中に入れてあげる。
ママとかに見つかるのが怖いからね。
タンスの中で、寝顔をもう一度まじまじと眺める。
好きも悩みも、憧れも気まずさも……。色々なもので満ちた私の世界に、突如やってきた妖精さん。
私の世界、どうなっちゃうのかしら。
世界を全部吸い込んでしまいそうな寝顔に、
「おやすみ」
とささやいて、私もベッドに入った……。