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第1話④ 出会い──それは突然に あとついでに運命的に

 家に帰って、私はドーナツを作る。ドーナツと言っても本格的なのじゃない。豆腐を使うやつ。卵とホットケーキミックスと豆腐で作るの。寝かさないからすぐできる。

 お菓子を作る時間は、お菓子のことだけを考えていればいいから好き。

 生地を混ぜるときとか、無心になれる。揚げるときは油断できないから、揚げることで頭いっぱいになる。

 だから、イヤなことも忘れられるの。

 そんな感じで作ってたら、思わず作りすぎちゃった。

 作ったはいいものの、あんまり食べる気が起きなくて。

 作ることが目的みたいになっちゃって、ちょっとよくない。

 私はちょっとだけ食べて、弟や、お仕事終わりのママにも食べてもらって。余ったのは冷蔵庫。

 ドーナツ・タイムが終わったら、私は手持ちぶさたになっちゃって、それからしばらく私はベッドでゴロゴロしてた。

 学校、疲れちゃったな……。

 シューちゃんを抱きしめて、天井を見上げる。

 シューちゃんっていうのは、ティディベアのこと。名前は私がつけたの。名前の由来は、たしかシューちゃんを作ったブランドの名前から取った。

 とっても高かったのよ。

 私が小学校に入学したときに、パパにおねだりして買ってもらったの。

 かわいいシューちゃんをギューッてしてると、今日の疲れが少しは飛んでいく気がする。

 そのまま天井をぼーっと見て、いったい何分たったのかな。

 もう分からないくらい見ている。何もする気が起きない。さすがに飽きてきたので、目線を横にやる。

 ドレスを着たセイラちゃんが目線に飛び込む。

 セイラちゃんって、フランス人形。名付けたのはママ。セイラちゃんも私のお気に入り。ママが小さいころ持ってたんだけど、私が人形を好きになってから、プレゼントしてくれたの。

 シューちゃんを抱きしめながら、セイラちゃんを眺める。

 かわいいアンドかわいい。

「……ふふ。かわいいって、ステキ……」

 ……なんてひとりごとを言ってみる。

 こころなしか、体が軽くなってきた気すらしてくる。

 なんて単純なのかしら、私……。

 自分で自分にあきれちゃう。

 でも、それだけかわいいものの力って偉大だ。

「みのり~ごはん食べるよ~!」

 かわいい世界に浸っていたら、ママの一声で引き戻された。

「は~い!」

 もうちょっとかわいい世界に浸ってたかった……ともちょっぴり思いながら、私は返事の声が思わず弾んでしまったのに気付く。

 だって今日のご飯、からあげだもん。

 私の入学祝いで作ってくれたの。

 かわいいと食べ物で元気になっちゃう自分の単純さにまたもやあきれながら、私は部屋を出てリビングに向かった。


「クラス、どうだった~?」

 ママがニコニコ聞いてくる。

 その笑顔がちょっと痛い。

 田中さんと一緒になっちゃって……。

 そう言いかけたけど、結局やめた。ママはそもそも田中さんと私とのんちゃんのトラブルを知らない。

 先生は、田中さんの両親の言うことを聞いておおごとにしなかったから、私やのんちゃんのママは結局連絡を受けてない。

 私とのんちゃんも、親を心配させたくなくてそのことを言ってない。弟の正樹には言ったんだけど……。

 だから、今さらそんなことで心配させたくない。

「のんちゃんと一緒なの。楽しくなりそうでうれしいわ」

と、自分ができる精一杯の笑顔で答えた。

 笑顔が自分でできているのか、わからない。もしかしたら、すっごくぎこちないかも。でも。がんばって口角を上げる。

 私の答えを聞いて、ママはさらにニコニコ。

「正樹は?」

 私は話を変えたくて、弟の正樹に話を振ったが、

「別に。フツー」

という返事。

 正樹は小学五年生。

 小五の男子とゆーのはやたらと厄介よね。やんちゃなまんま、ひねくれだす。

 正樹も、最近かなりそっけなくなった。

 でもね。正樹が単なるひねくれじゃないのは、私もママもよく知ってるよ。

 パパは、お仕事で船に乗って世界を巡ってるから、普段は家にいないの。

「フツーってなによ~」

とママの追求。しぶしぶといった感じで正樹も答えた。

「バスケクラブの奴らと同じになった。……まあよかったよ」

 ママは強い。ママにかかれば、正樹も素直になっちゃう。

「他は?」

「他……?」

 私の質問に、正樹は首をかしげる。

 私は、イタズラ心が高まって、ちょっとわざとらしくニヤニヤ笑って、

「か……」

と言う。

 正樹は気付いたらしく、顔をりんごかなにかのように赤くして、口を尖らせて言った。

「特に……」

「よかったの?」

「……うん」

「へえ~」

 私と正樹の会話に、ママだけがキョトンとしてる。

 ふふ、これママにはナイショだもんね。


 食べ終わって、私と正樹はテレビを見ている。

 水の音が響く。ママは食器を洗ってる。

 私は正樹の隣に座り直した。で、ママには聞こえないように小声で話しかける。

「で、あの子といっしょってこと?」

「……あの子ってなんだよ」

「あの子はその子よ。河上さん」

「まあ、同じクラスだよ……」

「あら。よかったわ。うまくいけばらんでぶーね」

 私はついふざけた言い方をしちゃう。

 あんまり真面目に言うのも、正樹にとっても照れくさいかな~とか考えちゃって。でも、逆に恥ずかしいのかも。

 ごめんね。悪いねーちゃんで。

「うるせーよ。……ったく、ねーちゃんに言うんじゃなかった」

「ふふふ、ごめんごめん。……でもね。ほんとのほんと。正樹にうまくいってほしいと思ってるから」

「あっそ……」

 正樹はそっけない返事。

 うまくいってほしいというのは、ウソ偽りないほんとの気持ち。よけーなお世話かしら、とは思うけどね。

「がんばってね」

「でもオレ、ねーちゃんこそ心配だけど……」

「え……?」

「なんでもないよ」

 そう言って、正樹は部屋に戻っていった。

 最後の、どーゆー意味かしら……。



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